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5 救世主?
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マロックとの婚約を破棄する書類は、夜会の次の日の夕方に早馬で届けられた。ミナダ公爵からの謝罪の手紙も添えてあり、マロックを勘当したことも書かれていた。
「浮気をしたり、勝手に婚約を破棄したことはいけないことではありますが、勘当するとまでは思っていませんでした」
夕食時、シアルリアが驚いた顔で言うと、彼女の父は温和な笑みを浮かべて答える。
「成人してから聞くべき話を聞いていないから、お前はそう思うんだろう。話を聞けば、今回のミナダ公爵の動きを理解できると思う」
「……そうなのですね」
シアルリアはうなずき、兄に視線を向けた。シェインは首を縦に振って口を開く。
「こんなことなら、成人になるまでに教えておいてほしいとも思うけど、マロックのように親の言いつけを守れないような人間は、話してはいけないことを話してしまうかもしれない。人間性を見極めるための時間だと思うしかないかな」
「……多くの人は言いつけを守ってきているわけですし、マロック様だけ守れないというのはおかしいですものね」
(あの時のマロック様の感じだと脅されたとか、そういうわけではないでしょうし、結局はエルン王女の誘惑に負けたのよね)
自分の魅力のなさを責められるかと思ったが、どこの家も浮気はいけないと言われ続けているため、マロックを非難する声は多かった。
「国王陛下からはネノナカル王国から返事がきたら、すぐにでも嫁に行くようにとのことだ。シアルリア、お前には申し訳ないが……」
「お父様、気になさないでくださいませ。嫁に行きたくないだなんて、ネノナカル王国に失礼なことは言いませんわ」
眉尻を下げる父に、シアルリアは微笑んだ。
「普通なら馬鹿にされたと怒りそうなものだが、あの王女から他の女性に変更となると、向こうも喜びそうだな」
シャインの予想通り、ネノナカル王国は婚約者の変更を認めただけでなく、変更に対して喜びの意を示した。
ブレイズとエルンの婚約は自国で婚約者が決まらなかった、余り者同士の婚約だった。そのことをネノナカル王国側はわかっており、婚約の申し出をしたチモチノモ王国側も、エルンが厄介な人物であることを伝えていた。
ネノナカル王国側にしてみれば、浮気者の王女よりも、一般常識があるならば、少し変わった公爵令嬢のほうがありがたいというわけだ。
10日後にはルガンバ公爵家に、ネノナカル王国側が迎えを寄こすとの連絡があり、シアルリアはマロックの浮気を悲しむ暇もなく、急いで嫁入り準備をすることになった。
そして当日の朝、迎えを待っていたシアルリアたちのもとに、予定外の来客があった。チモチノモの国王、エルン、マロックがやって来たのだ。
シアルリアたちがエントランスホールで出迎えると、エルンがシアルリアに向かって叫ぶ。
「マロックとの婚約の破棄を素直に認めたことには評価しよう。だが、腹いせにマロックを勘当するよう願うなど許せることではない!」
「私はそんなことはしておりません!」
「嘘をつけ! そうでないと、マロックが勘当される理由がない!」
そうだと言わんばかりに、マロックはエルンの後ろで何度もうなずいた。
「嫁入り前にお前には罰を受けさせる」
「シアルリアは悪くありません! 勘当を決めたのはミナダ公爵の意思です!」
シアルリアの父が割って入ったが、チモチノモの国王が命令する。
「シアルリアは鞭打ちの刑だ。ネノナカル王国の陛下には私の命令だと伝える。それなら文句も言えないだろう」
「そんな……っ」
(止めるべきはずの国王がこれでは、どうしようもないわ)
鞭を打たれたことなど今までに一度もないが、とても辛いことだとは知っている。恐ろしいが、覚悟を決めようと思った時、玄関の二枚扉が開かれ、見目麗しい青年が中に入ってきた。
「声が大きいから聞こえちゃったよ! そのお姉ちゃん、俺の婚約者なんだ! 痛いことしないで!」
現れたのは、ネノナカル王国の若き国王、ブレイズだった。
「浮気をしたり、勝手に婚約を破棄したことはいけないことではありますが、勘当するとまでは思っていませんでした」
夕食時、シアルリアが驚いた顔で言うと、彼女の父は温和な笑みを浮かべて答える。
「成人してから聞くべき話を聞いていないから、お前はそう思うんだろう。話を聞けば、今回のミナダ公爵の動きを理解できると思う」
「……そうなのですね」
シアルリアはうなずき、兄に視線を向けた。シェインは首を縦に振って口を開く。
「こんなことなら、成人になるまでに教えておいてほしいとも思うけど、マロックのように親の言いつけを守れないような人間は、話してはいけないことを話してしまうかもしれない。人間性を見極めるための時間だと思うしかないかな」
「……多くの人は言いつけを守ってきているわけですし、マロック様だけ守れないというのはおかしいですものね」
(あの時のマロック様の感じだと脅されたとか、そういうわけではないでしょうし、結局はエルン王女の誘惑に負けたのよね)
自分の魅力のなさを責められるかと思ったが、どこの家も浮気はいけないと言われ続けているため、マロックを非難する声は多かった。
「国王陛下からはネノナカル王国から返事がきたら、すぐにでも嫁に行くようにとのことだ。シアルリア、お前には申し訳ないが……」
「お父様、気になさないでくださいませ。嫁に行きたくないだなんて、ネノナカル王国に失礼なことは言いませんわ」
眉尻を下げる父に、シアルリアは微笑んだ。
「普通なら馬鹿にされたと怒りそうなものだが、あの王女から他の女性に変更となると、向こうも喜びそうだな」
シャインの予想通り、ネノナカル王国は婚約者の変更を認めただけでなく、変更に対して喜びの意を示した。
ブレイズとエルンの婚約は自国で婚約者が決まらなかった、余り者同士の婚約だった。そのことをネノナカル王国側はわかっており、婚約の申し出をしたチモチノモ王国側も、エルンが厄介な人物であることを伝えていた。
ネノナカル王国側にしてみれば、浮気者の王女よりも、一般常識があるならば、少し変わった公爵令嬢のほうがありがたいというわけだ。
10日後にはルガンバ公爵家に、ネノナカル王国側が迎えを寄こすとの連絡があり、シアルリアはマロックの浮気を悲しむ暇もなく、急いで嫁入り準備をすることになった。
そして当日の朝、迎えを待っていたシアルリアたちのもとに、予定外の来客があった。チモチノモの国王、エルン、マロックがやって来たのだ。
シアルリアたちがエントランスホールで出迎えると、エルンがシアルリアに向かって叫ぶ。
「マロックとの婚約の破棄を素直に認めたことには評価しよう。だが、腹いせにマロックを勘当するよう願うなど許せることではない!」
「私はそんなことはしておりません!」
「嘘をつけ! そうでないと、マロックが勘当される理由がない!」
そうだと言わんばかりに、マロックはエルンの後ろで何度もうなずいた。
「嫁入り前にお前には罰を受けさせる」
「シアルリアは悪くありません! 勘当を決めたのはミナダ公爵の意思です!」
シアルリアの父が割って入ったが、チモチノモの国王が命令する。
「シアルリアは鞭打ちの刑だ。ネノナカル王国の陛下には私の命令だと伝える。それなら文句も言えないだろう」
「そんな……っ」
(止めるべきはずの国王がこれでは、どうしようもないわ)
鞭を打たれたことなど今までに一度もないが、とても辛いことだとは知っている。恐ろしいが、覚悟を決めようと思った時、玄関の二枚扉が開かれ、見目麗しい青年が中に入ってきた。
「声が大きいから聞こえちゃったよ! そのお姉ちゃん、俺の婚約者なんだ! 痛いことしないで!」
現れたのは、ネノナカル王国の若き国王、ブレイズだった。
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