【完結】王女殿下に婚約者を奪われた私が隣国の訳あり国王陛下に嫁いだ結果

２５ 元婚約者について

　エルンがマロックを捨てて貴族の家を渡り歩いていることは、一気に国内外に広まった。貴族だけでなく、平民にまで話が知れ渡ったのは、エルンを恨んだマロックが原因だった。マロックは自分は被害者だと言って、エルンの悪い噂を色々な場所で吹聴したのだ。
　この頃にはガズクの退位も公になっており、チモチノモ王国内は新たな国王を迎える準備で忙しくなっていた。ネノナカル王国にも正式に現国王の退位と新国王の即位の話は伝えられており、即位する人物は元々、予定していた人物と変わりはなかった。

「シアの元婚約者の母親が元婚約者を家に戻すことはできなくても、男爵として真面目に生きていくチャンスを与えてあげたいと言っているらしいが、シアはどうしたい？」
「どうしたい……ですか」

　ある日の夕食時、ブレイズに尋ねられたシアルリアは眉をひそめた。

「ああ。助けさせずに自分一人で生きていくようにしてほしいとか、野垂れ死んだほうがいいとか、どう思っているのか聞きたいんだよ」
「さすがに野垂れ死んでほしいなどとは思いませんが、浮気という良くないことをしてしまったという反省はしてほしいと思います」
「優しいんだな」

　苦笑する彼にシアルリアは首を横に振る。

「そうではありません。野垂れ死んでしまった場合は誰かに迷惑をかける可能性がありますから」
「まあ、そうだな。亡くなった人をその場にずっと置いておくわけにはいかないか」
「それよりもできるなら、社会貢献をしてもらえたらいいなとは思いますね」
「社会貢献？」
「はい。男爵という爵位を持っているのですから、管理はできなくともせめて自分が住んでいる屋敷に近い地域住民との交流を図り、誰かの役に立ってほしいです」

　チモチノモ王国では浮気には罰があるが、マロックの場合、ガズクからの恩赦でお咎めはなかった。その時に受けられなかった罰の代わりになるかはわからないが、マロックにとっては厳しい生活になるだろうと予想できた。

「じゃあ、夫人の願いはどうするつもりなんだ」
「夫人にではなく、ミナダ公爵に判断を任せたいと思います」
「そうだな。夫人は過干渉になる可能性もあるし、そう伝えておく」
「ありがとうございます。でも、どうしてミナダ公爵家は他国のブレイズ陛下にそんな話をしてきたのでしょうか」
「シアに気を遣っているんじゃないか。夫妻共に息子が悪いことをしてしまったことを理解はしているからな」
「正直に言えば、私は彼がどうなろうが知ったことではないのですが、両親にしてみればそうもいかないのでしょうね」

　シアルリアはうなずくと、それよりも気になっていた人物のことを尋ねる。

「エルンさんは今、どうしているのでしょうか。国家の敵とみなされて捕まえようとしたところ逃げたのですよね？」
「そうだ。悪いが他国のことだから直近の話はわからない。ただ、昨日聞いた話だと４日前の段階では捕まっていないらしい」
「そうですか」

（元王女がいつまでも逃亡生活に耐えられると思えないけれど……）

　気になったシアルリアは、父に連絡をとってみることにした。