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第一章 誰かの代わりになるのはもうやめました!
2.5 レフス王国Side
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レフス王国の王太子、ラブックと第二王子であるルディウスは、昔から仲が悪かった。きっかけは、面倒くさそうにしながらも何でもそつなくこなす一つ下の弟に嫉妬し、陰で意地悪を始めたことだった。
ルディウスは兄から嫌がらせを受けていることを両親に訴えたが、信用してもらえなかった。ラブックは人前では品行方正に見せかけており、両親の前でも従順ないい子を演じていたからだ。
メイドに嫌がらせをしている場面を見られることがあれば、彼は遠回しにメイドを脅し、仕事を辞めるように仕向けていた。
ラブックにとって親族以外は女性は蔑む対象だった。そんな彼の例外は、幼い頃にパーティーで出会った少女、ノエルファだけで、メイドがどうなろうが知ったことではなかった。
だから、ルディウスがズキチーケ王国を降伏させたと聞いた時はチャンスだと思った。戦勝国の優位性を前に出し、ノエルファとの婚約にこぎつけることができた。
この時だけは、憎き弟に感謝したものだった。
二つ年下のノエルファの年齢の事情で、すぐに結婚とはいかなかったため、ラブックはまずは自分を知ってもらおうと彼女と文通をすることにした。
彼女の字は容姿と同じくとても可愛らしく、子供の用に無邪気で、ラブックはノエルファへの恋心を募らせていく。
残念ながら、ノエルファが返しそうな文面を考えるのも、文字にすることもすべてロゼリアがしていたため、正確にはラブックとロゼリアが文通していたことになる。
だが、そんなことをラブックは知る由もない。
ノエルファが駆け落ちする5日前、ロゼリアが気づかぬうちに、ノエルファはラブックに直筆で手紙を送っていた。差出人をノエルファの名前にしてしまえば、字が違うことで怪しまれてしまう。
それくらいはノエルファにも考える頭はあった。
この手紙は代理が書いたものだが、ノエルファの言葉であると前置きをしてから本文を書いていた。
ラブックは不思議に思いながらも、ノエルファの侍女からの手紙であるならばと内容を確認した。読み進めていくうちに自分の足で立っていられないほどにショックを受けたラブックは、近くにあったソファに倒れこんだ。
ノエルファには愛する人がいることや、その彼と駆け落ちするつもりでいること。だから、ラブックとは結婚できない。それだけでなく、自分にそっくりな侍女がいる。お詫びに彼女がラブックのもとに嫁ぐので大事にしてあげてほしいなどのことが書かれていた。
手紙を読みおえて少しの間放心していたラブックだったが、我に返ると勢いよく立ち上がった。
(ノエルファの侍女だと? 彼女の代わりになんかなるものか! 身代わりなんて必要ない。そうだ。今からならまだ間に合うかもしれない!)
今からズキチーケ王国に連絡をしても遅いと思ったラブックは、自分の両親に手を打ってもらおうと話をすることにした。
そして、それから二時間後、レフス王国の国王の自室には、国王夫妻と王太子のラブック、そして第二王子のルディウスが集まっていた。
ラブックとルディウスは兄弟ということもあるが、一見しただけでは見分けがつかないほどに顔がそっくりだった。
父譲りの黒髪に赤い瞳も同じで、少し長めの前髪など、髪型もラブックがわざとルディウスと同じようにしているため余計にわかりにくい。
双子のように見分けがつかない二人にも、決定的な違いがあった。
兄のほうが頭一つ分、弟よりも背が低かったのだ。そのため、座っていなければ、すぐにどちらか判断することができ、体形を確認してから話しかける貴族ばかりだった。
黒色の皮張りのソファに座っているレフス王国の国王は、助けを求めてきたラブックに冷たい言葉を掛ける。
「今から動いても遅い。駆け落ちが失敗している可能性もある。何かあれば向こうから連絡があるだろう。それまで待て」
「そうかもしれませんが、本当に駆け落ちしたらどうするんですか!」
涙目になっている息子を見て、国王はこれ見よがしに大きなため息を吐く。
「……ラブック、他の男と逃げるような女など忘れろ」
「そんな、酷いです。僕は昔から彼女のことを思っていたんですよ! きっと、彼女は男に騙されているんです! その男を処分しましょう!」
目に涙を浮かべているが、息子の様子に悲しみよりも駆け落ち相手への憎しみしか感じなかった王妃は、ラブックに優しく話しかける。
「ラブック、もし、本当に駆け落ちしていたのなら、とにかくその侍女に会ってみなさい。顔がとても似ているようだし気にいるかもしれないわよ」
「そんな……!」
母の提案を否定するように、ラブックは何度も首を横に振った。
その時、弟のルディウスは部屋の扉にもたれかかって話を聞いていた。
自分もソファに座ればいいのだが、兄の隣に座ることが嫌だった。かといって、両親と並んで座るわけにもいかず、落ち着いた場所が扉の前だった。
ルディウスは、ズキチーケ王国を責めるわけでもなく、得体のしれない侍女を兄の婚約者にしようとしている両親の発言に驚いていた。
(何か考えがあるのか?)
そう思いながら両親を見つめていると、ラブックが両手で顔を覆っている時、二人がルディウスに顔を向けた。
『考えがあるから黙っていなさい』
良心からそう言われた気がして、ルディウスは兄に気づかれないように静かにうなずいた。
ルディウスは兄から嫌がらせを受けていることを両親に訴えたが、信用してもらえなかった。ラブックは人前では品行方正に見せかけており、両親の前でも従順ないい子を演じていたからだ。
メイドに嫌がらせをしている場面を見られることがあれば、彼は遠回しにメイドを脅し、仕事を辞めるように仕向けていた。
ラブックにとって親族以外は女性は蔑む対象だった。そんな彼の例外は、幼い頃にパーティーで出会った少女、ノエルファだけで、メイドがどうなろうが知ったことではなかった。
だから、ルディウスがズキチーケ王国を降伏させたと聞いた時はチャンスだと思った。戦勝国の優位性を前に出し、ノエルファとの婚約にこぎつけることができた。
この時だけは、憎き弟に感謝したものだった。
二つ年下のノエルファの年齢の事情で、すぐに結婚とはいかなかったため、ラブックはまずは自分を知ってもらおうと彼女と文通をすることにした。
彼女の字は容姿と同じくとても可愛らしく、子供の用に無邪気で、ラブックはノエルファへの恋心を募らせていく。
残念ながら、ノエルファが返しそうな文面を考えるのも、文字にすることもすべてロゼリアがしていたため、正確にはラブックとロゼリアが文通していたことになる。
だが、そんなことをラブックは知る由もない。
ノエルファが駆け落ちする5日前、ロゼリアが気づかぬうちに、ノエルファはラブックに直筆で手紙を送っていた。差出人をノエルファの名前にしてしまえば、字が違うことで怪しまれてしまう。
それくらいはノエルファにも考える頭はあった。
この手紙は代理が書いたものだが、ノエルファの言葉であると前置きをしてから本文を書いていた。
ラブックは不思議に思いながらも、ノエルファの侍女からの手紙であるならばと内容を確認した。読み進めていくうちに自分の足で立っていられないほどにショックを受けたラブックは、近くにあったソファに倒れこんだ。
ノエルファには愛する人がいることや、その彼と駆け落ちするつもりでいること。だから、ラブックとは結婚できない。それだけでなく、自分にそっくりな侍女がいる。お詫びに彼女がラブックのもとに嫁ぐので大事にしてあげてほしいなどのことが書かれていた。
手紙を読みおえて少しの間放心していたラブックだったが、我に返ると勢いよく立ち上がった。
(ノエルファの侍女だと? 彼女の代わりになんかなるものか! 身代わりなんて必要ない。そうだ。今からならまだ間に合うかもしれない!)
今からズキチーケ王国に連絡をしても遅いと思ったラブックは、自分の両親に手を打ってもらおうと話をすることにした。
そして、それから二時間後、レフス王国の国王の自室には、国王夫妻と王太子のラブック、そして第二王子のルディウスが集まっていた。
ラブックとルディウスは兄弟ということもあるが、一見しただけでは見分けがつかないほどに顔がそっくりだった。
父譲りの黒髪に赤い瞳も同じで、少し長めの前髪など、髪型もラブックがわざとルディウスと同じようにしているため余計にわかりにくい。
双子のように見分けがつかない二人にも、決定的な違いがあった。
兄のほうが頭一つ分、弟よりも背が低かったのだ。そのため、座っていなければ、すぐにどちらか判断することができ、体形を確認してから話しかける貴族ばかりだった。
黒色の皮張りのソファに座っているレフス王国の国王は、助けを求めてきたラブックに冷たい言葉を掛ける。
「今から動いても遅い。駆け落ちが失敗している可能性もある。何かあれば向こうから連絡があるだろう。それまで待て」
「そうかもしれませんが、本当に駆け落ちしたらどうするんですか!」
涙目になっている息子を見て、国王はこれ見よがしに大きなため息を吐く。
「……ラブック、他の男と逃げるような女など忘れろ」
「そんな、酷いです。僕は昔から彼女のことを思っていたんですよ! きっと、彼女は男に騙されているんです! その男を処分しましょう!」
目に涙を浮かべているが、息子の様子に悲しみよりも駆け落ち相手への憎しみしか感じなかった王妃は、ラブックに優しく話しかける。
「ラブック、もし、本当に駆け落ちしていたのなら、とにかくその侍女に会ってみなさい。顔がとても似ているようだし気にいるかもしれないわよ」
「そんな……!」
母の提案を否定するように、ラブックは何度も首を横に振った。
その時、弟のルディウスは部屋の扉にもたれかかって話を聞いていた。
自分もソファに座ればいいのだが、兄の隣に座ることが嫌だった。かといって、両親と並んで座るわけにもいかず、落ち着いた場所が扉の前だった。
ルディウスは、ズキチーケ王国を責めるわけでもなく、得体のしれない侍女を兄の婚約者にしようとしている両親の発言に驚いていた。
(何か考えがあるのか?)
そう思いながら両親を見つめていると、ラブックが両手で顔を覆っている時、二人がルディウスに顔を向けた。
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