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第一章 誰かの代わりになるのはもうやめました!
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「……人を……呼び……ますよ」
どうしてこんなことをするのか。理由は全くわからないが、殺すつもりで首を絞めているわけではない。
そう感じたロゼリアは、ラブックを睨みつけながら言うと、ラブックは口元に笑みを浮かべた。
「呼べるものなら呼べよ。誰もお前の言うことなど信じない」
「……っ、えらくっ……、自信が……あるんですねっ」
「ああ。お前はノエルファじゃない。誰もお前の言葉なんて信じない」
「私は……ノエルファ様じゃないのは、言われなくても……わかってますよ」
私はもう誰かの代わりになるのはやめたのよ。
挑発するような笑みを浮かべると、ラブックの表情が醜く歪んだ。首を絞める力が強くなり、ロゼリアの表情が苦痛に満ちると、満足したように力を緩めた。
「俺の初恋の相手はノエルファであって、お前ではない」
普段は僕と言っているラブックが自分のことを俺と言ったのは、彼の中で人格を切り替えているのかと、ロゼリアは考えた。
同時に初恋の相手がノエルファと聞いて、彼に少しだけ同情した。
あなた、一度も本物のノエルファ様に会ったことないけどね?
「おい。人を呼びたければ呼べよ。ほら!」
「……ありがとうございます」
ロゼリアは苦しいながらも、にこりと笑ってみせると、腰に巻いてあるリボンに忍ばせていた呼び鈴を取り出した。
レフス王国内では、ベルを激しく鳴らすのは緊急の場合である。そのため、ノックもなしに部屋の扉が開かれた。
「……っ! ノックもなしに入ってくるなんて!」
慌ててラブックはロゼリアから手を離したが、少し遅かった。
部屋に入ってきた騎士とルディウスは、確実にラブックがロゼリアの首を絞めていた所を目撃した。
そのことがわかったラブックは、誤摩化すためか、まるで何事もなかったかのように笑ってみせる。
「ルディウス、弟だからって部屋に勝手に入ってくるのは良くないと思うよ」
「緊急のベルを鳴らしたのは兄上でしょう。俺はあなたの護衛騎士ではありませんが、たまたま通りがかった以上、無視することはできないでしょう」
「せめてノックをしろと言っているんだ」
「……もし、次にこんなことがあったら、ラブック殿下はノックしろとおっしゃるのですね?」
ルディウスとラブックの会話の間に、ロゼリアが割って入った。
質問の意図がつかめずに困惑したラブックが答える前に、ルディウスは胸の前で腕を組み、にやりと笑う。
「次にこんなことがあった場合は、緊急のベルを鳴らされてもノックするようにしますよ」
「その一瞬が命取りにならないといいですわね」
ロゼリアは首をさすりながら立ち上がる。手形が残るほどではないが、白い肌が赤くなっているので、一緒に入ってきた騎士たちもラブックがロゼリアの首を絞めていたことだけは理解できた。
「もう帰るのかい?」
「ええ。私は苦しい思いをするのは好きではないんです」
爽やかな笑みを浮かべて答えると、ロゼリアはルディウスに軽く一礼して部屋を出ていく。
「緊急のベルは兄上ではなかったらしい。俺たちも出るぞ」
「「はい!」」
返事をした騎士たちは何か言いたげな目をして、ラブックを一瞥したあと、ルディウスに続いて部屋を出ていった。
部屋に一人になったラブックは、しばらくの間、唇を噛んで扉を睨みつけていた。
ロゼリアが未だに違和感の残る首をさすっていると、マロンが慌てて駆け寄ってきた。
「ロゼリア様! 大丈夫でしたか!?」
「ええ。マロンがルディウス様を呼びに行ってくれたおかげよ。本当にありがとう」
「私はロゼリア様に指示をされただけでございます。ああ、首が赤くなっています!」
指の先に力が込められていたせいで、指の痕がかすかに残っていた。
こんな証拠を残してくれるなんて、思った以上に激情型ね。
痕が消えてしまう恐れがあるため、足早にリンツのもとへ向かうロゼリアに、追いかけてきたルディウスが話しかけた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。先ほどはありがとうございました」
「礼を言うなら君のメイドに言え」
「私は伝言を伝えただけで、ルディウス殿下に助けを求めることを考えたのは、ロゼリア様です!」
両手を握りしめて訴えるマロンを見て、ルディウスは苦笑する。
「俺を待ってから行けば良かっただろう」
「ラブック殿下に協力しているメイドもいるかもしれません。一緒に行けば怪しまれます」
「それもそうか。長く勤めているメイドもいるから、全てではないだろうが、兄上に味方する人間がいてもおかしくはないな」
ロゼリアの髪の色は珍しいものではないが、一般的にそう多いものではない。王家に仕えるメイドとなると余計に限られてくる。
場内にいるロゼリア以外のピンク系の髪色の女性は警戒対象になる。
ラブックのこだわりは、ロゼリアたちにとって判断しやすいという利点もあった。
「今、一緒にいることは大丈夫なのですか?」
不安そうなマロンに、ロゼリアは微笑する。
「首を絞められている場面を見たのに、心配もせずに放置するのもどうかと思うわ」
「声をかけて当たり前ということですね」
「騎士たちも俺の味方だ。口裏は合わせてくれる」
マロンが振り返ると、背後に付いていた騎士たちは大きく首を縦に振った。その様子を見たロゼリアは満足した顔で、ルディウスに話しかける。
「危険はありましたけど、証拠は作れましたわ」
「推奨はしないな」
「実の息子であるあなたの言葉を信じないのです。動かぬ証拠は必要でしょう」
「証人が俺と騎士では弱いかもしれないぞ」
「だから証拠を作ったのではないですか」
テンポ良く話す二人を見たマロンが不思議そうな顔をする。
「お二人は昨日お会いしたばかりなのですよね?」
「いいえ」
「パーティーの時に何度か話したことがある」
ロゼリアは首を横に振り、ルディウスが苦笑すると、マロンは驚いた顔をして目を瞬かせた。
どうしてこんなことをするのか。理由は全くわからないが、殺すつもりで首を絞めているわけではない。
そう感じたロゼリアは、ラブックを睨みつけながら言うと、ラブックは口元に笑みを浮かべた。
「呼べるものなら呼べよ。誰もお前の言うことなど信じない」
「……っ、えらくっ……、自信が……あるんですねっ」
「ああ。お前はノエルファじゃない。誰もお前の言葉なんて信じない」
「私は……ノエルファ様じゃないのは、言われなくても……わかってますよ」
私はもう誰かの代わりになるのはやめたのよ。
挑発するような笑みを浮かべると、ラブックの表情が醜く歪んだ。首を絞める力が強くなり、ロゼリアの表情が苦痛に満ちると、満足したように力を緩めた。
「俺の初恋の相手はノエルファであって、お前ではない」
普段は僕と言っているラブックが自分のことを俺と言ったのは、彼の中で人格を切り替えているのかと、ロゼリアは考えた。
同時に初恋の相手がノエルファと聞いて、彼に少しだけ同情した。
あなた、一度も本物のノエルファ様に会ったことないけどね?
「おい。人を呼びたければ呼べよ。ほら!」
「……ありがとうございます」
ロゼリアは苦しいながらも、にこりと笑ってみせると、腰に巻いてあるリボンに忍ばせていた呼び鈴を取り出した。
レフス王国内では、ベルを激しく鳴らすのは緊急の場合である。そのため、ノックもなしに部屋の扉が開かれた。
「……っ! ノックもなしに入ってくるなんて!」
慌ててラブックはロゼリアから手を離したが、少し遅かった。
部屋に入ってきた騎士とルディウスは、確実にラブックがロゼリアの首を絞めていた所を目撃した。
そのことがわかったラブックは、誤摩化すためか、まるで何事もなかったかのように笑ってみせる。
「ルディウス、弟だからって部屋に勝手に入ってくるのは良くないと思うよ」
「緊急のベルを鳴らしたのは兄上でしょう。俺はあなたの護衛騎士ではありませんが、たまたま通りがかった以上、無視することはできないでしょう」
「せめてノックをしろと言っているんだ」
「……もし、次にこんなことがあったら、ラブック殿下はノックしろとおっしゃるのですね?」
ルディウスとラブックの会話の間に、ロゼリアが割って入った。
質問の意図がつかめずに困惑したラブックが答える前に、ルディウスは胸の前で腕を組み、にやりと笑う。
「次にこんなことがあった場合は、緊急のベルを鳴らされてもノックするようにしますよ」
「その一瞬が命取りにならないといいですわね」
ロゼリアは首をさすりながら立ち上がる。手形が残るほどではないが、白い肌が赤くなっているので、一緒に入ってきた騎士たちもラブックがロゼリアの首を絞めていたことだけは理解できた。
「もう帰るのかい?」
「ええ。私は苦しい思いをするのは好きではないんです」
爽やかな笑みを浮かべて答えると、ロゼリアはルディウスに軽く一礼して部屋を出ていく。
「緊急のベルは兄上ではなかったらしい。俺たちも出るぞ」
「「はい!」」
返事をした騎士たちは何か言いたげな目をして、ラブックを一瞥したあと、ルディウスに続いて部屋を出ていった。
部屋に一人になったラブックは、しばらくの間、唇を噛んで扉を睨みつけていた。
ロゼリアが未だに違和感の残る首をさすっていると、マロンが慌てて駆け寄ってきた。
「ロゼリア様! 大丈夫でしたか!?」
「ええ。マロンがルディウス様を呼びに行ってくれたおかげよ。本当にありがとう」
「私はロゼリア様に指示をされただけでございます。ああ、首が赤くなっています!」
指の先に力が込められていたせいで、指の痕がかすかに残っていた。
こんな証拠を残してくれるなんて、思った以上に激情型ね。
痕が消えてしまう恐れがあるため、足早にリンツのもとへ向かうロゼリアに、追いかけてきたルディウスが話しかけた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。先ほどはありがとうございました」
「礼を言うなら君のメイドに言え」
「私は伝言を伝えただけで、ルディウス殿下に助けを求めることを考えたのは、ロゼリア様です!」
両手を握りしめて訴えるマロンを見て、ルディウスは苦笑する。
「俺を待ってから行けば良かっただろう」
「ラブック殿下に協力しているメイドもいるかもしれません。一緒に行けば怪しまれます」
「それもそうか。長く勤めているメイドもいるから、全てではないだろうが、兄上に味方する人間がいてもおかしくはないな」
ロゼリアの髪の色は珍しいものではないが、一般的にそう多いものではない。王家に仕えるメイドとなると余計に限られてくる。
場内にいるロゼリア以外のピンク系の髪色の女性は警戒対象になる。
ラブックのこだわりは、ロゼリアたちにとって判断しやすいという利点もあった。
「今、一緒にいることは大丈夫なのですか?」
不安そうなマロンに、ロゼリアは微笑する。
「首を絞められている場面を見たのに、心配もせずに放置するのもどうかと思うわ」
「声をかけて当たり前ということですね」
「騎士たちも俺の味方だ。口裏は合わせてくれる」
マロンが振り返ると、背後に付いていた騎士たちは大きく首を縦に振った。その様子を見たロゼリアは満足した顔で、ルディウスに話しかける。
「危険はありましたけど、証拠は作れましたわ」
「推奨はしないな」
「実の息子であるあなたの言葉を信じないのです。動かぬ証拠は必要でしょう」
「証人が俺と騎士では弱いかもしれないぞ」
「だから証拠を作ったのではないですか」
テンポ良く話す二人を見たマロンが不思議そうな顔をする。
「お二人は昨日お会いしたばかりなのですよね?」
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ロゼリアは首を横に振り、ルディウスが苦笑すると、マロンは驚いた顔をして目を瞬かせた。
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