私のことなど、ご放念くださいませ!

風見ゆうみ

文字の大きさ
20 / 30

19  『うおりゃあ!』

しおりを挟む
 警戒した私がファンクを庇うように立つと、クランボ様が話しかけてくる。

「ファンクがお世話になったようで申し訳ございません。こんな所まで来るなんて信じられませ。すぐに連れて帰りますので」
「お待ちください。ファンクに火傷の痕があるようなのですが、どういうことでしょうか」
「ああ。自分で悪戯して痛い目に遭ったんじゃないですか」

 私がファンクと話をしているだなんて思ってもいないからなのか、クランボ様は悪びれる様子もなく、平気な顔をして嘘をついた。

「火遊びをさせるような管理しかしていないなんて、飼い主として失格ではないですか。大体、犬は火を怖がりますよ」
「それは失礼しました。ですが、私も四六時中、ファンクにかまっているわけではないのです。では、メイドの仕業でしょう。ファンクを見ていたメイドを処分することにしますので、ご心配なく」
「メイドがやったと言うのであれば、ファンクはあなたの所に助けを求めに行くはずでは?」
「パニックになって逃げ出したんですよ。犬なんですから、そんなことはよくあることです」

 クランボ様の言っていることは間違っていない。雷の音に驚いて、散歩中に逃げ出したりする子もいる。

 でも、ファンクの場合は恐怖で逃げ出す子じゃない。

「ファンクは賢い子です。メイドに火を押し付けられるようなことがあれば逃げる。もしくは、メイドを襲うはずです」

 襲うことを賢いというのは違うかもしれない。だけど、自分の身を守ることができる子だ。

 クランボ様は不服そうな顔をして、私を見つめる。

「あなたは、私がやったと言いたいのですね?」
「そうとしか思えません」
「誤解です。私はちゃんと、ファンクを可愛がっていますよ?」
「大会終了後はファンクを叱っていましたよね。あれを可愛がっていると言うのですか」
「ファンクがカンバーに負けたからです。一番優秀だった犬が二番目になったんです。叱られて当然ですよ」

 かちんときたので言い返す。

「当然なわけがありません! あなたにとって残念な結果に終わったとしても、よく頑張ったと褒めるべきなのではないですか?」
「結果が全てなのに、褒める必要はありますか?」
「ファンクのことが可愛いのであれば、褒められるはずです!」

 声を荒らげると、ファンクが何事だと言わんばかりに私を見た。
 ファンクには人間の言葉は簡単なものしかわからない。可愛いのであれば、褒められる、という言葉に反応したんでしょうけど、悪い意味ではなく、素直に可愛いと受け止めてくれているはず。

「可愛がっていますよ。だから、こうして迎えに来たんじゃないですか」
「あなたが犯人ではないと確信できるまでは、あなたにファンクを返すことはできません」
「……あなたにそこまで言われる筋合いはありませんよ」
「私は王太子妃になるんですよ」
「まだ、王太子妃ではありません」

 クランボ様は冷笑して言った。

 彼は公爵令息だと聞いている。今の状況では、私は彼に力だけでなく権力的にも負ける。焦っていると、リリがすごい勢いで走ってくるのが見えた。

『ナナリー! 今、助けるからね!』

 リリは唸り声を上げたかと思うと、クランボ様のお尻に体当りした。

「うわっ!」

 クランボ様はたたらを踏んで、私に近づくと叫ぶ。

「あなたは自分の犬の躾をしていないんですか!」
「してますよ!」
『うおりゃあ!』

 リリのアタックは終わっていなかった。奇妙な叫び声をあげ、クランボ様の前に回り込むと、今度はクランボ様の股間めがけて体当りした。

 リリはテグノ伯爵の時に股間への攻撃を覚えていた。テグノ伯爵がかなり痛がっていたので効果的だと思ったリリは、敵だとみなした相手には、迷うことなくそこを攻撃すると言っていた。

『リ、リリたん……!』

 リリの勇姿を見たファンクが、感動でもしているのか、リリちゃんではなく、リリたん、と呼んだことに少しだけ癒された。

 痛みで声を出すこともできず、床で丸くなって悶絶しているクランボ様に話しかける。

「あなたの疑いが晴れるまでは、私がファンクを預かります。反論は認めません」
「な……あなた……に……、そんな権利は……っ」
「俺が許可する。ファンクの世話はナナリーに頼む」

 リリが連れてきてくれたフェル殿下がそう言うと、クランボ様は力尽きたように、頬を床につけた。





クランボ→ボンクラに気づいてくださっている方、ありがとうございます!
ちなみに、クヤイズはクズ(は)イヤ、です。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...