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19 『うおりゃあ!』
警戒した私がファンクを庇うように立つと、クランボ様が話しかけてくる。
「ファンクがお世話になったようで申し訳ございません。こんな所まで来るなんて信じられませ。すぐに連れて帰りますので」
「お待ちください。ファンクに火傷の痕があるようなのですが、どういうことでしょうか」
「ああ。自分で悪戯して痛い目に遭ったんじゃないですか」
私がファンクと話をしているだなんて思ってもいないからなのか、クランボ様は悪びれる様子もなく、平気な顔をして嘘をついた。
「火遊びをさせるような管理しかしていないなんて、飼い主として失格ではないですか。大体、犬は火を怖がりますよ」
「それは失礼しました。ですが、私も四六時中、ファンクにかまっているわけではないのです。では、メイドの仕業でしょう。ファンクを見ていたメイドを処分することにしますので、ご心配なく」
「メイドがやったと言うのであれば、ファンクはあなたの所に助けを求めに行くはずでは?」
「パニックになって逃げ出したんですよ。犬なんですから、そんなことはよくあることです」
クランボ様の言っていることは間違っていない。雷の音に驚いて、散歩中に逃げ出したりする子もいる。
でも、ファンクの場合は恐怖で逃げ出す子じゃない。
「ファンクは賢い子です。メイドに火を押し付けられるようなことがあれば逃げる。もしくは、メイドを襲うはずです」
襲うことを賢いというのは違うかもしれない。だけど、自分の身を守ることができる子だ。
クランボ様は不服そうな顔をして、私を見つめる。
「あなたは、私がやったと言いたいのですね?」
「そうとしか思えません」
「誤解です。私はちゃんと、ファンクを可愛がっていますよ?」
「大会終了後はファンクを叱っていましたよね。あれを可愛がっていると言うのですか」
「ファンクがカンバーに負けたからです。一番優秀だった犬が二番目になったんです。叱られて当然ですよ」
かちんときたので言い返す。
「当然なわけがありません! あなたにとって残念な結果に終わったとしても、よく頑張ったと褒めるべきなのではないですか?」
「結果が全てなのに、褒める必要はありますか?」
「ファンクのことが可愛いのであれば、褒められるはずです!」
声を荒らげると、ファンクが何事だと言わんばかりに私を見た。
ファンクには人間の言葉は簡単なものしかわからない。可愛いのであれば、褒められる、という言葉に反応したんでしょうけど、悪い意味ではなく、素直に可愛いと受け止めてくれているはず。
「可愛がっていますよ。だから、こうして迎えに来たんじゃないですか」
「あなたが犯人ではないと確信できるまでは、あなたにファンクを返すことはできません」
「……あなたにそこまで言われる筋合いはありませんよ」
「私は王太子妃になるんですよ」
「まだ、王太子妃ではありません」
クランボ様は冷笑して言った。
彼は公爵令息だと聞いている。今の状況では、私は彼に力だけでなく権力的にも負ける。焦っていると、リリがすごい勢いで走ってくるのが見えた。
『ナナリー! 今、助けるからね!』
リリは唸り声を上げたかと思うと、クランボ様のお尻に体当りした。
「うわっ!」
クランボ様はたたらを踏んで、私に近づくと叫ぶ。
「あなたは自分の犬の躾をしていないんですか!」
「してますよ!」
『うおりゃあ!』
リリのアタックは終わっていなかった。奇妙な叫び声をあげ、クランボ様の前に回り込むと、今度はクランボ様の股間めがけて体当りした。
リリはテグノ伯爵の時に股間への攻撃を覚えていた。テグノ伯爵がかなり痛がっていたので効果的だと思ったリリは、敵だとみなした相手には、迷うことなくそこを攻撃すると言っていた。
『リ、リリたん……!』
リリの勇姿を見たファンクが、感動でもしているのか、リリちゃんではなく、リリたん、と呼んだことに少しだけ癒された。
痛みで声を出すこともできず、床で丸くなって悶絶しているクランボ様に話しかける。
「あなたの疑いが晴れるまでは、私がファンクを預かります。反論は認めません」
「な……あなた……に……、そんな権利は……っ」
「俺が許可する。ファンクの世話はナナリーに頼む」
リリが連れてきてくれたフェル殿下がそう言うと、クランボ様は力尽きたように、頬を床につけた。
※
クランボ→ボンクラに気づいてくださっている方、ありがとうございます!
ちなみに、クヤイズはクズ(は)イヤ、です。
「ファンクがお世話になったようで申し訳ございません。こんな所まで来るなんて信じられませ。すぐに連れて帰りますので」
「お待ちください。ファンクに火傷の痕があるようなのですが、どういうことでしょうか」
「ああ。自分で悪戯して痛い目に遭ったんじゃないですか」
私がファンクと話をしているだなんて思ってもいないからなのか、クランボ様は悪びれる様子もなく、平気な顔をして嘘をついた。
「火遊びをさせるような管理しかしていないなんて、飼い主として失格ではないですか。大体、犬は火を怖がりますよ」
「それは失礼しました。ですが、私も四六時中、ファンクにかまっているわけではないのです。では、メイドの仕業でしょう。ファンクを見ていたメイドを処分することにしますので、ご心配なく」
「メイドがやったと言うのであれば、ファンクはあなたの所に助けを求めに行くはずでは?」
「パニックになって逃げ出したんですよ。犬なんですから、そんなことはよくあることです」
クランボ様の言っていることは間違っていない。雷の音に驚いて、散歩中に逃げ出したりする子もいる。
でも、ファンクの場合は恐怖で逃げ出す子じゃない。
「ファンクは賢い子です。メイドに火を押し付けられるようなことがあれば逃げる。もしくは、メイドを襲うはずです」
襲うことを賢いというのは違うかもしれない。だけど、自分の身を守ることができる子だ。
クランボ様は不服そうな顔をして、私を見つめる。
「あなたは、私がやったと言いたいのですね?」
「そうとしか思えません」
「誤解です。私はちゃんと、ファンクを可愛がっていますよ?」
「大会終了後はファンクを叱っていましたよね。あれを可愛がっていると言うのですか」
「ファンクがカンバーに負けたからです。一番優秀だった犬が二番目になったんです。叱られて当然ですよ」
かちんときたので言い返す。
「当然なわけがありません! あなたにとって残念な結果に終わったとしても、よく頑張ったと褒めるべきなのではないですか?」
「結果が全てなのに、褒める必要はありますか?」
「ファンクのことが可愛いのであれば、褒められるはずです!」
声を荒らげると、ファンクが何事だと言わんばかりに私を見た。
ファンクには人間の言葉は簡単なものしかわからない。可愛いのであれば、褒められる、という言葉に反応したんでしょうけど、悪い意味ではなく、素直に可愛いと受け止めてくれているはず。
「可愛がっていますよ。だから、こうして迎えに来たんじゃないですか」
「あなたが犯人ではないと確信できるまでは、あなたにファンクを返すことはできません」
「……あなたにそこまで言われる筋合いはありませんよ」
「私は王太子妃になるんですよ」
「まだ、王太子妃ではありません」
クランボ様は冷笑して言った。
彼は公爵令息だと聞いている。今の状況では、私は彼に力だけでなく権力的にも負ける。焦っていると、リリがすごい勢いで走ってくるのが見えた。
『ナナリー! 今、助けるからね!』
リリは唸り声を上げたかと思うと、クランボ様のお尻に体当りした。
「うわっ!」
クランボ様はたたらを踏んで、私に近づくと叫ぶ。
「あなたは自分の犬の躾をしていないんですか!」
「してますよ!」
『うおりゃあ!』
リリのアタックは終わっていなかった。奇妙な叫び声をあげ、クランボ様の前に回り込むと、今度はクランボ様の股間めがけて体当りした。
リリはテグノ伯爵の時に股間への攻撃を覚えていた。テグノ伯爵がかなり痛がっていたので効果的だと思ったリリは、敵だとみなした相手には、迷うことなくそこを攻撃すると言っていた。
『リ、リリたん……!』
リリの勇姿を見たファンクが、感動でもしているのか、リリちゃんではなく、リリたん、と呼んだことに少しだけ癒された。
痛みで声を出すこともできず、床で丸くなって悶絶しているクランボ様に話しかける。
「あなたの疑いが晴れるまでは、私がファンクを預かります。反論は認めません」
「な……あなた……に……、そんな権利は……っ」
「俺が許可する。ファンクの世話はナナリーに頼む」
リリが連れてきてくれたフェル殿下がそう言うと、クランボ様は力尽きたように、頬を床につけた。
※
クランボ→ボンクラに気づいてくださっている方、ありがとうございます!
ちなみに、クヤイズはクズ(は)イヤ、です。
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