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ファンクをクランボ様から引き離せたのは良いものの、どうやってファンクを納得させるかが問題だった。ファンクが散歩に行っている時に、リリにその話をしてみると、ケロッとした様子で言う。
『どうせ、いつかはばれるんだから言ってあげたら? 言いにくいのならわたしが言ってあげるわ』
『でも、ショックを受けるんじゃないかしら』
『じゃあ、ばれないようにできるの?』
『無理があるわよね』
私がため息を吐くと、リリがふんっと鼻を鳴らす。
『ファンクだって、そうなるかもしれないってことくらいわかっていると思うわ』
『……そうね』
こんな悲しいことを好きな犬から話をされたくないわよね。ここは、嫌われている私が話をしたほうがいい。
『ありがとう、リリ。ちゃんと私の口からファンクに話すわ』
『じゃあ、わたしは見守っておくわね』
『ありがとう』
その後、散歩から帰って来たファンクに話をしたところ『そうなるだろうって思ってたんだ』と言ってからは、部屋の隅で丸まってしまった。
一匹にしてあげようかとも思ったけれど、いない間に自分を傷つけるような行為をしても良くない。そう思った私は、リリと一緒に部屋で大人しくしていると、ファンクのいびきが聞こえて来た。
いびきを聞いたリリは呆れていたけれど、私はひとまず胸をなでおろした。
*******
クランボ様が新しい犬を飼ったという情報はすぐに城内にも知れ渡り、ファンクを私が引き取ったことも周知の事実になった。リリがファンクを警戒していることもあり、ファンクには別に部屋を用意してもらい、彼の世話をしてくれるメイドはクランボ様からとばっちりでクビにされたメイドに決まった。
というのも、ファンクが彼女のことをとても優しいメイドだと、私に教えてくれたからだ。ファンクの面倒をよく見ていたからこそ、クランボ様は彼女に罪を擦り付けることができたのだと思う。
今回のことがあり、クランボ様に対する悪感情が貴族の間で広まった。
だって、ファンクを私に譲渡するんだもの。何かよっぽどの理由がない限り、飼い主はそんなことをしない。
それと同時期に両陛下はクランボ様には何も知らせず、友好国の国王陛下や王妃陛下に連絡を取った。
それは、しきたりのせいで不幸になる犬がいることをどうにかしなければならないという内容だった。多くの国の両陛下がそのことを疑問に感じていたようで、世界的な話し合いが行われることになった。
「クランボはかなり苦戦しているみたいだ」
ファンクが王城にやって来て、十日が経った頃、フェル殿下が私の部屋にやって来て、そう教えてくれた。
『クランボ様の犬は……』
『ジャーマンポテト』
念話したつもりではなかったのだけど、リリが答えてくれた。
クランボ様が新しく迎えたのは、ジャーマンシェパードだ。ジャーマンポテトというものが、どんなものかは分からないけれど、きっと食べ物なんでしょう。
どうして、リリはこんなに物知りなのかしら。犬同士のコミュニティがすごいってこと?
あとから確かめることにして、フェル殿下に尋ねる。
「ドッグトレーナーに躾を頼んでいないんですか?」
「ファンクを見てくれたドッグトレーナーが、もう仕事を辞めたんだ。それに、ファンクはクランボに喜んでもらいたくて必死に芸を覚えたんだと思う」
「新しい子はそうではないということですよね」
「君が何かしたのか?」
「……先日、クランボ様が雇っているメイドが彼を連れて挨拶しに来てくれたので、その時にクランボ様はこんな人だと伝えました」
「こんな人?」
フェル殿下が眉根を寄せて聞き返してきたので、苦笑して答える。
「ファンクの話をしたんです。そうしたら、そんな主人は嫌だって……。クランボ様が迎えた犬は、一見怖そうに見えますが、臆病なところもあるんです」
「臆病?」
「はい。人間でいう人見知りのような感じでしょうか。賢くて従順な子なんですけど、見知らぬ人や犬にはかなり警戒するようです。私と話す時もかなり警戒していましたが、まだ、クランボ様にも懐いていないので話を聞いてくれました」
ファンクの賢さを知っているクランボ様には、まだ若い犬は物足りないはずだ。
ファンクは大会では二位だった。そんな犬を手放したことをそろそろ後悔し始める頃でしょう。
「そうか。なら、クランボはファンクを返せと言ってくるかもしれないな」
フェル殿下も私と同じことを思ったようだった。
「私は絶対にファンクを返しません」
「わかってる。あと、クランボの新しい犬については、鳥たちに見張ってもらっているから心配しなくていい。クランボの部下にも何か気になることがあれば連絡するように伝えているし、クランボも犬が言うことを聞かなくてイライラしても、しばらくは大人しくしているはずだ」
フェル殿下はそこまで言い終えると、すっかり冷めてしまったお茶を一口飲んでから続ける。
「プロウス王国の件で話がある」
「何でしょうか」
また、私を返せとか言ってきたのかしら。
「まだ、非公式の話だから、公になるまで誰にも言わないでほしいんだが」
「……はい」
フェル殿下の表情が重いので不安になった。
何があったのかしら。
「クヤイズ殿下が殺された」
「……え?」
いつかは起こり得るものだとは思っていた。でも、実際にそんなことがあったと聞くと、驚きで言葉をなくしてしまった。
『どうせ、いつかはばれるんだから言ってあげたら? 言いにくいのならわたしが言ってあげるわ』
『でも、ショックを受けるんじゃないかしら』
『じゃあ、ばれないようにできるの?』
『無理があるわよね』
私がため息を吐くと、リリがふんっと鼻を鳴らす。
『ファンクだって、そうなるかもしれないってことくらいわかっていると思うわ』
『……そうね』
こんな悲しいことを好きな犬から話をされたくないわよね。ここは、嫌われている私が話をしたほうがいい。
『ありがとう、リリ。ちゃんと私の口からファンクに話すわ』
『じゃあ、わたしは見守っておくわね』
『ありがとう』
その後、散歩から帰って来たファンクに話をしたところ『そうなるだろうって思ってたんだ』と言ってからは、部屋の隅で丸まってしまった。
一匹にしてあげようかとも思ったけれど、いない間に自分を傷つけるような行為をしても良くない。そう思った私は、リリと一緒に部屋で大人しくしていると、ファンクのいびきが聞こえて来た。
いびきを聞いたリリは呆れていたけれど、私はひとまず胸をなでおろした。
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クランボ様が新しい犬を飼ったという情報はすぐに城内にも知れ渡り、ファンクを私が引き取ったことも周知の事実になった。リリがファンクを警戒していることもあり、ファンクには別に部屋を用意してもらい、彼の世話をしてくれるメイドはクランボ様からとばっちりでクビにされたメイドに決まった。
というのも、ファンクが彼女のことをとても優しいメイドだと、私に教えてくれたからだ。ファンクの面倒をよく見ていたからこそ、クランボ様は彼女に罪を擦り付けることができたのだと思う。
今回のことがあり、クランボ様に対する悪感情が貴族の間で広まった。
だって、ファンクを私に譲渡するんだもの。何かよっぽどの理由がない限り、飼い主はそんなことをしない。
それと同時期に両陛下はクランボ様には何も知らせず、友好国の国王陛下や王妃陛下に連絡を取った。
それは、しきたりのせいで不幸になる犬がいることをどうにかしなければならないという内容だった。多くの国の両陛下がそのことを疑問に感じていたようで、世界的な話し合いが行われることになった。
「クランボはかなり苦戦しているみたいだ」
ファンクが王城にやって来て、十日が経った頃、フェル殿下が私の部屋にやって来て、そう教えてくれた。
『クランボ様の犬は……』
『ジャーマンポテト』
念話したつもりではなかったのだけど、リリが答えてくれた。
クランボ様が新しく迎えたのは、ジャーマンシェパードだ。ジャーマンポテトというものが、どんなものかは分からないけれど、きっと食べ物なんでしょう。
どうして、リリはこんなに物知りなのかしら。犬同士のコミュニティがすごいってこと?
あとから確かめることにして、フェル殿下に尋ねる。
「ドッグトレーナーに躾を頼んでいないんですか?」
「ファンクを見てくれたドッグトレーナーが、もう仕事を辞めたんだ。それに、ファンクはクランボに喜んでもらいたくて必死に芸を覚えたんだと思う」
「新しい子はそうではないということですよね」
「君が何かしたのか?」
「……先日、クランボ様が雇っているメイドが彼を連れて挨拶しに来てくれたので、その時にクランボ様はこんな人だと伝えました」
「こんな人?」
フェル殿下が眉根を寄せて聞き返してきたので、苦笑して答える。
「ファンクの話をしたんです。そうしたら、そんな主人は嫌だって……。クランボ様が迎えた犬は、一見怖そうに見えますが、臆病なところもあるんです」
「臆病?」
「はい。人間でいう人見知りのような感じでしょうか。賢くて従順な子なんですけど、見知らぬ人や犬にはかなり警戒するようです。私と話す時もかなり警戒していましたが、まだ、クランボ様にも懐いていないので話を聞いてくれました」
ファンクの賢さを知っているクランボ様には、まだ若い犬は物足りないはずだ。
ファンクは大会では二位だった。そんな犬を手放したことをそろそろ後悔し始める頃でしょう。
「そうか。なら、クランボはファンクを返せと言ってくるかもしれないな」
フェル殿下も私と同じことを思ったようだった。
「私は絶対にファンクを返しません」
「わかってる。あと、クランボの新しい犬については、鳥たちに見張ってもらっているから心配しなくていい。クランボの部下にも何か気になることがあれば連絡するように伝えているし、クランボも犬が言うことを聞かなくてイライラしても、しばらくは大人しくしているはずだ」
フェル殿下はそこまで言い終えると、すっかり冷めてしまったお茶を一口飲んでから続ける。
「プロウス王国の件で話がある」
「何でしょうか」
また、私を返せとか言ってきたのかしら。
「まだ、非公式の話だから、公になるまで誰にも言わないでほしいんだが」
「……はい」
フェル殿下の表情が重いので不安になった。
何があったのかしら。
「クヤイズ殿下が殺された」
「……え?」
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