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9 焦るメイドたち
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次の日の朝、開店準備をしていると、サラが職場に出勤する前に浮かない顔をしてやって来た。
「おはよう、サラ。どうかしたの」
「おはよう。ちょっと聞いてよ。今日の朝早くにお見合い相手から連絡があって、お見合いの話は無しにしてほしいって連絡が来たのよ! 理由は他の人との縁談のほうが条件が良いからですって!」
「そ、そうなの?」
「そうなの! また近い内にゆっくり話を聞いてね!」
「も、もも、もちろん!」
突然の来訪を謝ってから、出勤していくサラの背中を見送りながら思う。
ごめん、サラ。
それ、私のせいだわ。
わたしが言わなければお見合いの話はそのまま進んでいたと思う。
というか、エイドはどんな圧力を子爵家にかけたのよ。
その日、閉店間際にミゲスダット公爵家からの遣いだという人がやって来て、残りのケーキを全て購入していってくれた。
しかも、これを毎日続けてくれるのだという。
その日から、ミゲスダット公爵家の馬車が毎日通うようになったため、お父様のケーキ屋さんはミゲスダット公爵家御用達と勘違いされ、店は繁盛し始めた。
*****
日はあっという間に過ぎて、とうとう別邸に行く日がやって来た。
実家を出る時は、二度と会えなくなる訳ではないのに、今まで家族と長期で離れて過ごすことがなかったからか泣きそうになってしまった。
でも、行くことは家族のためになるのだし、頑張らないといけないわ。
お父様のケーキ屋さんはミゲスダット家御用達という噂が立ったせいで、貴族の人も買いに来てくれるようになって忙しくなり、早いときには閉店時間前までにケーキが売り切れるようになった。
私がいなくなると、店にはエディーさんしかいなくなってしまうため、急遽、サラが仕事を辞めて私の代わりに店員になってくれることになった。
しかも、サラの給料を出すのはミゲスダット公爵家らしいので、今回の件もエイドが絡んでいるのだと思う。
サラは不思議がってはいたけれど、公爵家からの命令に逆らえなかったことや、エディーさんとは仲良くなっていたから嫌がらずに引き受けてくれた。
エイドはサラとのことをどうするつもりなのかしら。
二人を応援したいけれど、身分の差が大きすぎるのよね。
子爵令嬢と公爵令息なんて、と思ったけれど、私とロキよりかはマシなのかもしれない。
どちらにしても、二人が両思いなら応援する。
それだけだわ。
そんなことを考えている内に馬車は城門をくぐり、見覚えのある別邸にたどり着いた。
前回のメイドたちが揃って笑顔で私を迎えてくれて、私がこれから過ごす部屋に連れて行ってくれた。
私に用意された部屋は実家の私の部屋の2倍くらいは広く、備え付けられている調度品も全て高そうだった。
ふかふかの茶色のソファーに腰をおろしたところで、メイドたちがフットマンを三人紹介してくれた。
「他のご令嬢はご実家から使用人を連れてきておられますが、キャスティー子爵令嬢のお家には調理人と庭師しかいないとお聞きしましたので、急遽、フットマンもご用意することになりました。王太子殿下がフットマンを選ぶ際に若くて婚約者や恋人、奥様がいない男性を近付けるのは嫌がられたので、今回の三人が選ばれました」
メイドの一人、マーサさんがくすくす笑いながら言う。
メイドの名前はマーサ、キャシー、コニーといい、三人共、私よりも年上で30歳近いんだそうだ。
そして、全員が既婚者である。
フットマンはそれぞれの旦那さんなんだそうだ。
「メイドが奥様じゃ絶対に私に手を出したりはしないと思ったんですね」
「そうです。ですが万が一、キャスティー子爵令嬢に何かふしだらなことや無礼なことをしようとしましたら、相手が誰でもかまいませんので、私たちに教えて下さいませ。社会から抹殺します」
キャシーの言葉に、フットマンの三人は「信用してくれ」と文句を言った。
メイド三人共、私より年上だけど可愛らしい顔立ちだし、その相手である旦那様たちも整った顔をしているので、メイドたちが浮気を疑ってしまう気持ちはわからないでもない。
ただ、私と浮気なんてしないと思うわ。
「まだ知り合って、そんなに経ってもいないけれど、マーサさんたちにはこれからお世話になるし、そんな人の旦那様に色目を使ったりしないわ。それにマーサさんたちのほうが可愛いもの。そんなことは絶対にないから安心して下さい」
「キャスティー子爵令嬢はとても可愛らしいです! ですから、私共の夫たちが変な気を起こすかもしれません!」
「キャシーさん。それを言ったら、ロキがフットマンを選んだ意味がなくなってしまいますし、念の為に言っておいてくださっているのはわかりましたから大丈夫ですよ」
笑顔で言うと、今度はコニーさんが言う。
「私共に、さんなど付けなくて結構です。私のことはコニーとお呼びくださいませ。敬語も必要ございません」
「じゃあ、私のことはアイラで」
皆と仲良くなれたら嬉しいな、なんて呑気なことを思いながら言うと、六人全員が血相を変える。
「王太子妃候補のキャスティー子爵令嬢を、そんな風にお呼びするだなんて出来ません!」
「で、でも、キャスティー子爵令嬢って長くない? じゃあ、アイラさん、とかは?」
「アイラ様でお願いします」
六人の意見が揃ったので、私のことはアイラ様と呼んでもらうことになった。
これから1年間、この六人にお世話になることになる。
正確にいえば王太子妃候補が三人に絞られるのは半年後だから半年間かしら。
「半年の間、よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げると、六人共、挨拶を返してくれたけれど、なぜだか困った様な顔をしているので聞いてみる。
「どうかしたの?」
「その、半年間というのは、なぜ決まっているのでしょうか」
「えっと、半年後には王太子妃候補が三人に絞られるでしょう? 私はそこで脱落するつもりなの」
私の話を聞いた六人は、なぜか驚いた表情をした。
そして、コニーが叫ぶ。
「大変だわ! こんなことをアイラ様が思っているだなんてロキ様が知ったら大変なことに!」
「脈がなさすぎるだろ。王太子殿下にはアイラ様を諦めてもらったほうがいいんじゃ」
「そんな問題ではないでしょう! ロキ様の片思いを見守ってきた私たちだからこそ、アイラ様に頑張っていただきたいのに!」
「でも、無理矢理、頑張っていただくのも悪いだろう」
「何を言ってるの、その気にさせるのよ! その気になったら、アイラ様が無理をしなくていいじゃないの」
「そう言ってる時点で無理矢理だろ」
コソコソと六人で円陣を組んで話をしているけれど、全部丸聞こえですよ。
それを伝えようとした時、部屋の扉が叩かれた。
慌ててマーサが返事をすると、エイドの声が聞こえた。
「王太子殿下が挨拶をしたいとのことです」
「はい!?」
ここに着たばかりで私服姿だし、いつもはハーフアップにしているけれど、着替えるだろうと思って髪も整えていない。
この格好で王太子殿下に会うのはまずいと思ったけど、相手がロキだし良いかとも考えた。
中に入っても良いことを伝えると、エイドと共に入ってきたロキは笑顔で話しかけてくる。
「アイラ、来てくれてありがとう。正直、来てくれないかもしれないと思ってた」
「……どうしてそう思ったの?」
「お金で釣るような真似をしてしまっただろ。本当は王太子妃候補になることだって嫌だったかもしれないから」
「それはまあそうかもしれないけど、本当に嫌なら、今、ここにはいないわ」
笑顔で言うと、ロキはホッとした表情になってから、すぐにふにゃりとした笑みを浮かべて言う。
「いつもと髪型が違うな。雰囲気が違って可愛い。っていうか、可愛いしか言えなくてごめん。ただ、本当にそれ以上のことを言うと我慢できなくなりそうだから」
「えっと、あの、可愛いって言ってもらえるだけで十分です」
可愛い可愛い、言われると照れるわ!
照れて下を向いたけど、視界の隅にニヤニヤしているエイドの姿が目に入って、少しだけムッとする。
「あのロキ様。アイラ様は半年後に脱落するつもりだと言われてましたが」
「……何だって?」
マーサの旦那様であるディーゴの言葉を聞いたロキの動きが止まった。
「おはよう、サラ。どうかしたの」
「おはよう。ちょっと聞いてよ。今日の朝早くにお見合い相手から連絡があって、お見合いの話は無しにしてほしいって連絡が来たのよ! 理由は他の人との縁談のほうが条件が良いからですって!」
「そ、そうなの?」
「そうなの! また近い内にゆっくり話を聞いてね!」
「も、もも、もちろん!」
突然の来訪を謝ってから、出勤していくサラの背中を見送りながら思う。
ごめん、サラ。
それ、私のせいだわ。
わたしが言わなければお見合いの話はそのまま進んでいたと思う。
というか、エイドはどんな圧力を子爵家にかけたのよ。
その日、閉店間際にミゲスダット公爵家からの遣いだという人がやって来て、残りのケーキを全て購入していってくれた。
しかも、これを毎日続けてくれるのだという。
その日から、ミゲスダット公爵家の馬車が毎日通うようになったため、お父様のケーキ屋さんはミゲスダット公爵家御用達と勘違いされ、店は繁盛し始めた。
*****
日はあっという間に過ぎて、とうとう別邸に行く日がやって来た。
実家を出る時は、二度と会えなくなる訳ではないのに、今まで家族と長期で離れて過ごすことがなかったからか泣きそうになってしまった。
でも、行くことは家族のためになるのだし、頑張らないといけないわ。
お父様のケーキ屋さんはミゲスダット家御用達という噂が立ったせいで、貴族の人も買いに来てくれるようになって忙しくなり、早いときには閉店時間前までにケーキが売り切れるようになった。
私がいなくなると、店にはエディーさんしかいなくなってしまうため、急遽、サラが仕事を辞めて私の代わりに店員になってくれることになった。
しかも、サラの給料を出すのはミゲスダット公爵家らしいので、今回の件もエイドが絡んでいるのだと思う。
サラは不思議がってはいたけれど、公爵家からの命令に逆らえなかったことや、エディーさんとは仲良くなっていたから嫌がらずに引き受けてくれた。
エイドはサラとのことをどうするつもりなのかしら。
二人を応援したいけれど、身分の差が大きすぎるのよね。
子爵令嬢と公爵令息なんて、と思ったけれど、私とロキよりかはマシなのかもしれない。
どちらにしても、二人が両思いなら応援する。
それだけだわ。
そんなことを考えている内に馬車は城門をくぐり、見覚えのある別邸にたどり着いた。
前回のメイドたちが揃って笑顔で私を迎えてくれて、私がこれから過ごす部屋に連れて行ってくれた。
私に用意された部屋は実家の私の部屋の2倍くらいは広く、備え付けられている調度品も全て高そうだった。
ふかふかの茶色のソファーに腰をおろしたところで、メイドたちがフットマンを三人紹介してくれた。
「他のご令嬢はご実家から使用人を連れてきておられますが、キャスティー子爵令嬢のお家には調理人と庭師しかいないとお聞きしましたので、急遽、フットマンもご用意することになりました。王太子殿下がフットマンを選ぶ際に若くて婚約者や恋人、奥様がいない男性を近付けるのは嫌がられたので、今回の三人が選ばれました」
メイドの一人、マーサさんがくすくす笑いながら言う。
メイドの名前はマーサ、キャシー、コニーといい、三人共、私よりも年上で30歳近いんだそうだ。
そして、全員が既婚者である。
フットマンはそれぞれの旦那さんなんだそうだ。
「メイドが奥様じゃ絶対に私に手を出したりはしないと思ったんですね」
「そうです。ですが万が一、キャスティー子爵令嬢に何かふしだらなことや無礼なことをしようとしましたら、相手が誰でもかまいませんので、私たちに教えて下さいませ。社会から抹殺します」
キャシーの言葉に、フットマンの三人は「信用してくれ」と文句を言った。
メイド三人共、私より年上だけど可愛らしい顔立ちだし、その相手である旦那様たちも整った顔をしているので、メイドたちが浮気を疑ってしまう気持ちはわからないでもない。
ただ、私と浮気なんてしないと思うわ。
「まだ知り合って、そんなに経ってもいないけれど、マーサさんたちにはこれからお世話になるし、そんな人の旦那様に色目を使ったりしないわ。それにマーサさんたちのほうが可愛いもの。そんなことは絶対にないから安心して下さい」
「キャスティー子爵令嬢はとても可愛らしいです! ですから、私共の夫たちが変な気を起こすかもしれません!」
「キャシーさん。それを言ったら、ロキがフットマンを選んだ意味がなくなってしまいますし、念の為に言っておいてくださっているのはわかりましたから大丈夫ですよ」
笑顔で言うと、今度はコニーさんが言う。
「私共に、さんなど付けなくて結構です。私のことはコニーとお呼びくださいませ。敬語も必要ございません」
「じゃあ、私のことはアイラで」
皆と仲良くなれたら嬉しいな、なんて呑気なことを思いながら言うと、六人全員が血相を変える。
「王太子妃候補のキャスティー子爵令嬢を、そんな風にお呼びするだなんて出来ません!」
「で、でも、キャスティー子爵令嬢って長くない? じゃあ、アイラさん、とかは?」
「アイラ様でお願いします」
六人の意見が揃ったので、私のことはアイラ様と呼んでもらうことになった。
これから1年間、この六人にお世話になることになる。
正確にいえば王太子妃候補が三人に絞られるのは半年後だから半年間かしら。
「半年の間、よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げると、六人共、挨拶を返してくれたけれど、なぜだか困った様な顔をしているので聞いてみる。
「どうかしたの?」
「その、半年間というのは、なぜ決まっているのでしょうか」
「えっと、半年後には王太子妃候補が三人に絞られるでしょう? 私はそこで脱落するつもりなの」
私の話を聞いた六人は、なぜか驚いた表情をした。
そして、コニーが叫ぶ。
「大変だわ! こんなことをアイラ様が思っているだなんてロキ様が知ったら大変なことに!」
「脈がなさすぎるだろ。王太子殿下にはアイラ様を諦めてもらったほうがいいんじゃ」
「そんな問題ではないでしょう! ロキ様の片思いを見守ってきた私たちだからこそ、アイラ様に頑張っていただきたいのに!」
「でも、無理矢理、頑張っていただくのも悪いだろう」
「何を言ってるの、その気にさせるのよ! その気になったら、アイラ様が無理をしなくていいじゃないの」
「そう言ってる時点で無理矢理だろ」
コソコソと六人で円陣を組んで話をしているけれど、全部丸聞こえですよ。
それを伝えようとした時、部屋の扉が叩かれた。
慌ててマーサが返事をすると、エイドの声が聞こえた。
「王太子殿下が挨拶をしたいとのことです」
「はい!?」
ここに着たばかりで私服姿だし、いつもはハーフアップにしているけれど、着替えるだろうと思って髪も整えていない。
この格好で王太子殿下に会うのはまずいと思ったけど、相手がロキだし良いかとも考えた。
中に入っても良いことを伝えると、エイドと共に入ってきたロキは笑顔で話しかけてくる。
「アイラ、来てくれてありがとう。正直、来てくれないかもしれないと思ってた」
「……どうしてそう思ったの?」
「お金で釣るような真似をしてしまっただろ。本当は王太子妃候補になることだって嫌だったかもしれないから」
「それはまあそうかもしれないけど、本当に嫌なら、今、ここにはいないわ」
笑顔で言うと、ロキはホッとした表情になってから、すぐにふにゃりとした笑みを浮かべて言う。
「いつもと髪型が違うな。雰囲気が違って可愛い。っていうか、可愛いしか言えなくてごめん。ただ、本当にそれ以上のことを言うと我慢できなくなりそうだから」
「えっと、あの、可愛いって言ってもらえるだけで十分です」
可愛い可愛い、言われると照れるわ!
照れて下を向いたけど、視界の隅にニヤニヤしているエイドの姿が目に入って、少しだけムッとする。
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