犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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9  公爵令息の嘘?

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 私たちがフレシア様を置いて教室に戻ってきた頃には始業時間が近づいてきていたせいか、教室の中には多くのクラスメイトがいた。

 挨拶をしながら、自分の席に向かっていると、ミーグスの友人が彼に話しかけた。

「おい、ディラン。噂になってるぞ」
「何がだよ」
「今の彼女と昔の彼女と一緒にガゼボで、どんな修羅場を繰り広げてきたんだよ」
「修羅場になんかなってない。疲れる話をしてきただけだよ」

 友人たちから茶化されているミーグスから離れ、彼と同じく疲れを感じていた私は自分の席に戻ろうとした。
 でも、視線を感じて足を止める。
 視線を感じた先に目を向けると、ニヤニヤしている友人二人の姿が見えた。
 だから、席に戻るのはやめて事情を説明に向かう。

「本当に大変だったんだから」

 さっきまでの話をノノレイとエアリスに話すと、エアリスが眉根を寄せる。

「大変な人を相手にしなくちゃいけないことになったのね」
「フレシア様がそんなに馬鹿だったなんて知ったら、男共は泣くでしょうね」

 ノノレイが笑いながら言うので聞いてみる。

「フレシア様ってそんなに男子生徒に人気があるの?」
「そりゃあ、見た目は可愛らしいんだもの。人気があるに決まってるじゃない。それに伯爵令嬢なんだから、まさかそこまで常識がないとは思えないから余計によ」
「でも、フレシア様ってフェルナンディと同じクラスなら、こんなことを言ったらなんだけど、フェルナンディの頭と変わらないかもしれないわよ」

 ホーリルを選ぶくらいだから、馬鹿なのは確かかもしれないわ。
 普通ならあんな奴を選ばないわよね。

 エアリスの言葉を聞いて納得してしまった。

「フレシア様が人気があるで思い出したけど、彼女、同じクラスに取り巻きがいるんじゃない?」

 ノノレイが言ったと同時、閉まっていた教室の扉が勢いよく開いたかと思うと、見知らぬ数人の少女たちが叫んだ。

「ミゼライトさん! 昼休みにEクラスにいらしてもらえますか!?」
「……どうして行かなくちゃいけないの」

 眉根を寄せて尋ねると、数人の内の一人が叫ぶ。

「フレシア様からディラン様を奪っておいて、ただですむと思わないでくださいまし」
「……私がいつ奪ったっていうのよ」
「それは」

 さっきまでうるさかった教室内が静まり返っていたため、私の呟くような声も彼女たちの耳に届いたようで、一人が口を開いた時だった。

「奪ってなんかないよ」

 ミーグスの声が教室内に響いた。

「僕が彼女を好きだったから付き合ってほしいとお願いした」

 ミーグスの言葉を聞いた途端、教室内が一気に騒がしくなった。

「え? 本当に付き合い始めたの?」
「そんな訳ないでしょ!」

 エアリスとノノレイに聞かれたので首を横に振る。

「ぎゃー! ディランが愛の告白した! いてぇな! 本気で痛いから、やめろ公爵令息! 公爵令息だからって平民に乱暴していいわけじゃないんだぞ!?」
「実社会に出たら、これ以上痛い目に遭うけど?」
「申し訳ございません!」

 ミーグスが真剣に怒っているのがわかったのか、茶化していた友人は椅子から立ち上がって頭を下げた。

「ディラン、もしかして照れてたりする?」
「うるさい。茶化さないでくれ」

 笑いならが尋ねた友人の頭をミーグスが無言で殴ったため、他の友人たちが騒ぐ。
 ミーグスの友人の中にはノノレイのように平民の男子もいるから、余計に騒がしくなってしまった。

「そんなぁ! なんとなく気付いてたけど、私たちのディラン様に好きな人がいただなんてっ」

 フレシア様の取り巻きらしい女子の一人が泣き始めたので焦ってしまう。

 大変なことになってしまったわ。
 というか、ミーグスは何でそんな馬鹿なことを言い出すのよ。
 付き合うふりというだけで、別にあなたに告白された覚えなんてないし、絶対にありえないことじゃないの!

「というわけで、ビアラはフレシアから僕を奪ってなんかいない。大体、僕を捨てたのはフレシアだよ?」

 教室内がまたざわついた時だった。
 予鈴が鳴ったため、取り巻きの女子たちは慌てて自分のクラスに戻っていった。
 ミーグスがまだ友人たちに絡まれていたため、私は彼に向かって叫ぶ。

「ミーグス、ちょっと席に戻って」
「はいはい」

 ミーグスが頷いたのを確認して、私も自分も席に戻ろうとすると、ミーグスを好きだという女子に腕を掴まれた。

「さっきのディラン様の言葉、あれは嘘よね?」
「そりゃあそうでしょ。私たちは付き合っているフリをしているだけなんだから」
「そうよね! ありがとう!」

 彼女は泣いてはいなかったけど、フリだと知っているはずの女子の何人かが泣いているので、罪悪感でいっぱいになった。

 かといって、ミーグスを好きな女の子が彼の恋人のフリをするよりかはいいはず。
 そうじゃないと、ミーグスを守ることにならない。
 それよりも聞きたいことがあるわ。

「ミーグス! あなた、一体何を考えてるのよ!」

 席に戻ってきた彼に文句を言うと、ミーグスは眉根を寄せて謝ってくる。

「悪かったよ。だけど、卒業までは婚約者は決めなくて良いと父上から言われてるんだ」
「それってさっきまでの話に関係あるの? それに、それまで私が恋人のふりをしないといけないということ?」
「そうなるね」
「どうしてよ!?」
「だって、君は僕が誰と結婚しようが気にならないだろ?」

 ミーグスの声や口調がどこか自分を突き放す様に感じたので、言い返さずに謝る。

「おめでとうくらいは言うわよ。でも、ごめん。そんなに嫌ならもう言わないわ」
「ビアラ」
「何よ」
「意地悪言ってごめん。さっきの質問、君が気付いていないだけで、もう答えを君は知ってるよ」
「私が答えを知ってる? 意味がわからないんだけど」

 詳しく話を聞こうとしたところで授業の開始を伝えるベルが鳴ったので、授業に集中することにした。


*****

 
 昼休み、ノノレイと一緒に食堂に向かおうとしていた時にEクラスに来るように言われていたことを思い出して、ノノレイに聞いてみる。

「そういえば、Eクラスに来るように言われていたんだけど、やっぱり行かないと駄目なのかしら?」
「行かなくてもいいと言いたいけれど、相手は普通じゃないし、いつまでも教室で待ってるかもしれないわね。まあ、待たせていても良いとは思うけど、それで昼食がとれなかったと文句を言われても面倒ね」

 ノノレイは私にそう答えると、友人と一緒に教室を出ようとしていたミーグスを呼び止める。

「ディラン様、ビアラがEクラスに行こうか迷っているみたいなんですけど、どう思われます?」
「ちょっとノノレイ!?」
「僕のせいでもあるし、一緒に行くよ」
「ミーグス、あなたは来なくてもいいわよ」

 ミーグスは私が彼の近くまで歩いてくるのを待ってから応える。

「君が呼び出されたのは僕のせいであることは確かだろ。それなら、僕が関係ない顔をしているのもおかしい」
「そう言われればそうかもしれないけど、あなたが来ても来なくても、結果は一緒じゃないかしら」
「うるさいな。君が嫌だと言っても僕が勝手について行くからいいよ」
「ディラン様、ビアラをよろしくお願い致します。ビアラ、私は先に行って食事をしながら待ってるわね」

 ノノレイはニヤニヤしながらそう言うと、私とミーグスを残して急ぎ足で教室を出て行った。
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