犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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10 中身のない話

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 ミーグスと一緒にEクラスに向かうと、少し離れた廊下にいても聞こえるような大きな声で、ホーリルが誰かに話をしている声が聞こえてきた。

「俺の父上の借金は、本当はビアラの父が作った借金なんだよ! それなのに借金を返してやったみたいな顔をしやがって! あの女はどうかしてるよ!」
「どうかしてるのはあなたの頭じゃないの! 常識とかいう問題じゃないわね!」

 ホーリルの話を聞いて、彼にはこの声が届かないのに、つい口に出してしまってからミーグスに謝る。

「ごめんなさい。あまりにも腹が立ってしまって、つい意味がないのに言い返してしまったわ」
「君が言いたくなる気持ちもわかるよ。それに彼の言ってることの意味がわからない人間のほうが多いと思うよ。どうして、フェルナンディの借金が本当はミゼライトの借金になるんだって思ってるはずだ。聞いている相手が馬鹿じゃなければね」

 ミーグスは苦笑して話を続ける。

「君はここで待っててくれ。僕が行ってくる」
「呼ばれたのは私なのよ?」
「気になるなら、あとで来ればいい」
「嫌よ。一緒に行くわ」
「しょうがないな」

 呆れた顔をしたミーグスは、それ以上は何も言わずに教室の扉を開けた。
 ミーグスの後ろに立って中を見てみると、ホーリルとフレシア様、それからフレシア様の取り巻きたち、ホーリルの友人らしき少年2人がいて、教壇の周りを囲んでいた。

「ディラン! 何をしに来たの? 浮気のことを謝りに来てくれたの?」
「フレシア、君は僕をなめてるのか」

 ホーリルに寄り添った状態で話しかけてきたフレシア様を、ミーグスは睨みつけて黙らせてから話を続ける。

「この学園内では貴族の爵位は関係ない。……かといって何をしても許されるわけじゃないんだよ。あと、爵位が関係ないのは、お互いがそれを認めているから成り立つことだ。僕は君たちに馴れ馴れしく話をしても良いという許可を出した覚えはないんだよ」
「そんな言い方、傲慢だわ! 見損なったわ、ディラン!」

 フレシア様が叫ぶと、ミーグスは彼女を睨みつけたまま応える。

「女性にあまりこんなことを言いたくはないけど、フレシア、君は口を慎んだほうがいい。君はもう僕の婚約者じゃない。対等な立場とは思わないでくれ」
「学園の中では爵位は関係ないはずじゃないですか!」

 ホーリルがフレシア様を抱きしめながら叫ぶと、ミーグスは今度は彼を睨んで言った。

「だからといって、何をしても許されるわけじゃないし許可を出していないと、さっき言ったばかりだろう。君は僕の言葉を聞いてなかったのか」
「お、俺に言われたわけではないので」
「フレシアに言ったことだから、自分は関係がないと思ったわけか。まあ、そういうことにしておこう。じゃあ改めて君に伝える。親の爵位が学園内では関係ないとはいえ、何をしても許されるわけではないということを覚えておけばいい。学園の外に出れば、学園内のルールなんて関係ないんだ。婚約破棄の話なんてまさにそうだったけどね」
「それはまあ、その、言われてみれば、そうかもしれませんが」

 さすがのホーリルもミーグスの言いたいことが伝わったのか、フレシア様を強く抱きしめたまま、ミーグスへの言葉遣いを改めた。

「で? ビアラを呼び出したようだけど何を言いたかったの?」

 自分が話題に上がったため、もういいだろうと教室の中に足を踏み入れると、フレシア様が私を見て叫んだ。

「ミゼライトさん! あなたの借金の話について、お話がありましてよ!」
「私に借金などありませんが」
「何を言っている! 俺の家の借金は全部、お前の借金じゃないか!」
「……ちょっと、頭大丈夫?」

 ホーリルの言っている意味がわからない。
 なんで、フェルナンディ家の借金が私の借金になるのよ。
 ふざけたことを言わないでほしいわ。

 大きく息を吐いた私に、フレシア様が目に涙をためて訴えてくる。

「ディランに慰謝料を払ったから、私の家もこれ以上はお金を出せないって言うのよ。だから、ミゼライトさん。あなたが自分で借金を返すようにしてちょうだい」
「なぜ、私の借金と決めつけるのですか」
「フェルナンディ家の借金は、あなたの借金なんでしょう?」
「だからどうしてそう思うんです?」
「どうして、って。ホーリルがそう言うんだもの」

 フレシア様はホーリルを見上げて答える。
 それを受けたホーリルが私に言う。

「お前の寮費や学費を払っていたから、俺の家は借金まみれになったんだ。だから、お前が払え!」
「あなたのお父様からの手紙ではギャンブルに使ったって書いてあったけど?」
「お前というギャンブルにだろう!」

 本当に意味がわからないわ。
 どうして私はこんなに言葉が通じない相手と話をしないといけないのかしら。
 とにかく、フェルナンディ子爵家を潰したい。

 会話することを諦めかけていると、ミーグスがホーリルに尋ねる。

「君の家に今までの彼女の学費と寮費は返ってるはずだがどうなってるんだ」
「え? そ、そうなんですか?」
「そうみたい。だから確認しなさいよ。それで借金を返したらいいじゃないの」

 私が偉そうに言える立場ではないことはわかっている。
 だけど、お金はすでにフェルナンディ家に渡っているのだから、返す気もないだろうし、ミーグスが良いというのであれば使えば良いと思った。
 
 私の発言を聞いたホーリルは満足したかのように頷く。

「全く最初から大人しく支払っておけばいいものを」
「おい」

 ホーリルの言葉をミーグスが遮って忠告する。

「ふざけたことを言うのはまだ許しても良いけど、今後、ビアラを馬鹿にしたり近づいたりするな。次に近付いたとわかったら容赦しない」
「ふゃ、ふゃい。わかりました」
 
 ミーグスに睨まれて気圧されたホーリルは情けない声を出しながら何度も首を縦に振った。
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