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第一部

15 3面鏡越しの挨拶

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 水晶玉が見えやすいようにソファに横一列に並んで座る。
 ちなみにグレイルは今は食事中だ。

 水晶玉に向かってエル様が手を伸ばすと、少ししてから、レイティア様の顔が映し出された。

 でも、なぜかドアップだった。

「うわ!」

 声を上げて驚いたのはジェド様だった。
 仰け反ったあとに文句を言う。

「顔を近付けすぎだろ!」
「ジェドが私の顔を見たいだろうと思って近付けてみたんだけど、考えてみたら他の方にはご迷惑でしたわね。申し訳ございません」

 レイティア様はそう言って、少し離れて深々と頭を下げる。
 
 その後、レイティア様はドレッサーの鏡を使って会話をしていると教えてくれた。

 レイティア様は黒色の髪をシニヨンにした、ツリ目気味の大きな目を持つ綺麗な女性だった。
 赤い瞳は彼女の気の強さを感じさせるし、ジェド様の水色の瞳と合っている気がした。
 レイティア様と挨拶を交わした後、今の状況を尋ねてみる。

「あれから大丈夫でしたか?」
「ええ。陛下は怒り狂っておられましたけれど、悪いことをしようとしたのはあちらですから、上手く言いくるめましたわ」
「カラヤ国王が言うことを聞いたのですか?」

 驚いて聞き返すと、レイティア様は少し考えてから答える。

「言うことを聞いたと言うよりかは、聞かせたというほうが正しいですわね」
「……それは一体、どういうことなんです?」
「カラヤ国王の弱みを握らせていただきましたの。それで脅してみましたわ」
「脅す……」

 どっちが悪役だかわからないセリフをさらりと吐かれたわ。

「カラヤ国王から何もされてないんだな?」

 ジェド様が心配そうな顔で尋ねると、レイティア様はコロコロと笑う。

「心配しなくても大丈夫よ? ジェド、あなた、動揺して敬語を忘れてるわ」
「……今はもういい」

 レイティア様は余裕そうにしているけれど、婚約者を危険な場所に残してきたジェド様にしてみれば心配よね。

「巻き込んでしまって悪いな。危険を感じたらすぐに逃げてくれ」

 エル様が言うと、レイティア様は小首を傾げる。

「逃げてしまっては意味がありませんわ。それに敵に背中を見せるのは嫌なんですの」
「……困ったもんだな。ジェド、巻き込んで悪かった」

 私の右側に座っているジェド様に、私の左側に座っているエル様が謝った。

「いえ。殿下は私に連絡をくださったんです。彼女が知ることになったのは私のせいです」
「そんなに心配になさらなくても大丈夫ですわよ?」

 男性二人が暗い顔をしているのに、レイティア様はそんなことはどこ吹く風といった感じで笑顔だ。

「レイティア様は怖くはないのですか?」
「……そうですわね。相手が賢ければ怖いですわ。でも、カラヤ国王は賢くありませんから」

 大体の予想がつくから大丈夫だということかしら?

 その時、レイティア様の部屋の扉がノックされた。

「ちょっとお待ち下さいね」

 ドレッサーの鏡は三面鏡のようで、部屋の入り口が見えるようにレイティア様は一面を動かして、椅子から立ち上がる。
 
「どなたでしょうか?」

 レイティア様が返事をすると「俺だ!」と声が返ってきた。

「オレダ様ですか? 初めてお聞きするお名前ですけれど、以前、どこかでお会いしましたでしょうか?」
「ふざけるな! お前は仕事をサボって何をしている!」
「仕事をサボったつもりはないのですが」
「うるさい! それを決めるのは俺だ! 開けなければ今すぐころ」

 最低国王が話している途中だったけれど、レイティア様は勢い良く外開きの扉を開けた。

 ガツン!
 という音と共に最低国王の怒鳴り声が聞こえる。

「何するんだ! お前はどうしても」
「あら、カラヤ国王陛下でしたか。オレダさんとおっしゃるのでわかりませんでしたわ。もしかしますと、オレダさんというのは陛下の偽名でしょうか?」
 
 レイティア様は冷たい口調で尋ねた。



 
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