邪魔者はどちらでしょう?

風見ゆうみ

文字の大きさ
12 / 35

12 プリンセスとは誰なのか

しおりを挟む
 お父様から上手く逃れられたと思ったのに、また変なのに捕まってしまった。

 これも私の行動が遅いせいね。
 迅速に動くことって本当に重要なことなんだわ。

 深呼吸して気持ちを落ち着けて答える。

「カバードが泣いているのは、彼が馬鹿なことをしたからです」

 バカなだけに……と思ったけど、口に出そうものなら、パララー様の鉄拳が飛んできそうだ。
 シルバートレイを持っていない今は防御する術がないので黙っておく。

 パララー様は大柄で引き締まった体型をしている。
 この国の淑女にしては珍しい、体を動かすことが好きな人で、自分のパンチ力が若い頃よりも衰えていないか試すために、私を殴ってくるような酷い人だ。

 最初は素直に殴られていた私だった。
 でも、私だってやられてばかりでは我慢ができない。

 シルバートレイという、メイドが持っていてもおかしくないものを持ち歩き、何年か前からはそれによって防御することに成功していた。
 問題はパララー様のほうがお父様よりもパンチ力が強いため、シルバートレイが凹んでしまうことだった。

 シルバートレイは経費としてメイド長が落としてくれていたので、毎度、替えてもらう度に申し訳ない気持ちになっていた。

 でも、これからはそんな心配はしなくて良くなくなるわ!

 セナ殿下が言っていたけれど、パララー様は学園の成績が悪かったのよね。

 だから、体を鍛えていたんだとわかると、褒めてあげたい気持ちになった。

 暴力は許される行為ではないし、何度謝られても許すつもりはない。

 でも、自分の得意分野を伸ばそうとすることは良いことだものね。

 そんなことを呑気に考えていると、かなり間が空いてからパララー様が食って掛かってくる。

「カバードがバカですって!?」
「そこまで直接的なことは言っていません。馬鹿なことをしたと言っただけです」
「う、うるさいわね! 同じ意味じゃないの! あなたは本当に生意気な子だわ! 躾をしなくっちゃ!」

 パララー様が腕を振りかぶり、平手打ちをする準備をした。

 でも、騒ぎを聞きつけて応接室から出てきたセナ殿下の護衛騎士が、間に入ってくれたので殴られずに済んだ。

 護衛騎士に腕を掴まれたパララー様は腕を振り払って叫ぶ。

「な、何をするのよ!? 本当にどいつもこいつも私が躾をしているところを見たら止めるのね! これは暴力じゃないのよ! 躾なのよ。我が家の方針に口を出さないで頂戴!」
「躾のようには思えないし たとえ躾だっとしても、彼女にこんなことをしても意味がないと普通は気が付いてやめるだろ」

 セナ殿下が私とパララー様の間に入って言った。
 私の目の高さくらいに彼の肩があるので、私にとっては、セナ殿下の背は高い。

 でも、元々、身長が高くハイヒールを履いているパララー様はセナ殿下よりも高かった。

「何よ! あなた誰なの!? アーティアの友達なの!? アーティア、あなた、いつの間に友達なんて作ったのよ!」

 パララー様はセナ殿下を見下ろして叫ぶ。
 
 そろそろ禁句が出るかしら。
 不謹慎だと思いつつもワクワクしていると、アフォーレが期待に応えてくれた。

「わあ、可愛いですね! お人形が人間になったみたい! ねぇ、なんて言うお名前なんですか? どうしたら、そんなに可愛くなれるのか教えて下さい! 肌もきれいですよね! どこの化粧品を使っていらっしゃるの?」
「……じゃない」

 セナ殿下の声色が変わった。
 
 キレるのかしら。

 ワクワクして彼の顔を覗き込んでみると、これ以上深く刻めないのではと思うくらいに眉間に深いシワが刻まれている。
 でも、まだキレているわけではなさそうなので話しかけてみる。

「セナ殿下、セナ殿下」
「……なんだ」
「怒っていないんですか?」
「ここでキレるのはワンパターン過ぎるから我慢してる」
「お約束だから良いのではないですか?」
「何のお約束だよ!?」

 セナ殿下はそう叫ぶと、我慢するのを諦めたのか、アフォーレに訴える。

「俺は男だ。女性みたいだと言われるが男なんだ!」
「今、自分のことを僕とか俺とかいう女の子がいますものね! あなたは男性になりたかったんですか?」

 本当のことだと思ってはもらえなかったようで、うふふとアフォーレが笑う。
 セナ殿下の口の端が引きつっているのがわかった。

 そろそろアフォーレ達に彼の正体を教えようかと思った時、応接室から出てきたお父様が叫んだ。

「二人共! 瞳を見てみろ!」
「え? 瞳?」

 アフォーレが驚いた声を出し、パララー様は無言でセナ殿下を見た。

 すると、声にならない声を上げて、その場に跪く。

「まさか、そんな! どうしてこんなところにいらっしゃるんですか!?」

 パララー様は体を震わせて、セナ殿下を見上げる。

「アーティアに用事があって来たんだ」
「アーティアに!? あ、いえ、それよりも、あ、あの、セナ殿下、先程のご無礼をどうぞお許しください!」
「……暴力をふるおうとしたことは許せないが、女性と間違ったことは許す」
「あ、ありがとうございます」

 お父様とパララー様は、大きく胸を撫で下ろした。
 暴力のこともそうだし、カバードも失礼な発言をしていたから、安心するのはまだ早いのにね。

 アフォーレが大人しいので見てみると、セナ殿下に近寄っていき、うるうると瞳を潤ませて言う。

「あ、あの、申し訳ございませんでした! プリンセスだったとは知りませんでした!」

 意味がわかってないじゃないの!

「俺は男だって言ってんだろ!」

 アフォーレは赤い瞳を持っているのは隣国の王家だけだと知っていた。
 でも、隣国に王女がいないことは知らなかったようだった。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆小説家になろうにも投稿しています

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

処理中です...