邪魔者はどちらでしょう?

風見ゆうみ

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26 ファンとは

「どうしてエロージャン公爵家の令嬢が出てくるんだ? それに恋仲ってどういうことだよ? 彼女とは挨拶を交わしたことくらいしか記憶にないぞ」
「……社交場でしか会ったことがないんですか?」
「ああ。接点がなかったからな」
「その挨拶が大切なのです!」

 私とセナ殿下との会話にエロージャン公爵は勝手に割って入ってくると、自分の胸に手を当てて続ける。

「好きでもない相手に挨拶はしないでしょう! そこから始まるものなのです」
「挨拶しないと始まらないというのはわからないでもないが、挨拶は礼儀だから相手が嫌いでもするだろ。それにそれだけじゃ恋愛には発展するとは思えない」
「いいえ。娘はセナ殿下をお慕いしております」
「悪いけど、俺には婚約者がいるから諦めてくれと言っておいてくれ」

 セナ殿下はエロージャン公爵を冷たくあしらうと、私に話しかけてくる。

「アーティアに話があるんだ。今、いいか?」
「もちろんです。でも、さすがに第二王子殿下と立ち話をするわけにはいきませんので、場所は変えたほうが良さそうですね」

 キレーナ公爵に目を向けると、察してくれたのか閣下が頷く。

「セナ殿下は中に入っていただいて結構です」

 その言葉を聞いた門兵は門の端にある使用人用の通用口を開けた。
 今まで門越しに話をしていたし、使用人の通用口から王族に入ってもらうなんて、普通ならありえないことね。
 だけど、セナ殿下が気にしていないようだから、それで良いということにしておく。

 門を開けたら、エロージャン公爵も入ってきそうだしね。

 通用口から入ってきたセナ殿下は挨拶するキレーナ公爵と簡単な言葉を交わしてから、私の所にやって来た。

「朝から悪いな」
「気にしないでください。それから、昨日はありがとうございました」
「それこそ気にしなくて良い。メイティの調子はどうだ?」
「元気になっています」

 頷いてから、気になっていたことを尋ねる。

「今更なんですけど、セナ殿下とお母様はどのような関係なんですか?」
「……そうだな。俺が小さい頃になるけど、母上に連れられてメイティの見舞いによく来ていたんだ。付いてきていた俺が勝手に知り合いだと思い込んでるだけだな。あと、母上から散々、話を聞かされているせいもある」

 セナ殿下はそう言って苦笑した。

「きっと、お母様は覚えていると思いますし感謝していると思います」
「ならいいけどな」
「だって、セナ殿下のことを覚えていたのは確かですから」
「そうか」

 セナ殿下が微笑んだ時、エロージャン公爵が門の向こうから叫んでくる。

「メイティ様が元気になったんですか!?」
「そうですけど」

 まさかとは思うけど、そのまさかのような気がするので聞いてみる。

「エロージャン公爵閣下も私の母を知っているのですか」
「いや、その、それはですね。知っていはいますよ。ですが、その」
「彼はただのファンだから気にしなくていい」

 歯にものが詰まったような言い方をするエロージャン公爵の代わりに、キレーナ公爵が引きつった笑みを浮かべて答えてくれた。

「ファン、ですか?」

 その言葉にも興味をそそられる。
 でも、セナ殿下を待たせるわけにはいかないし、今は諦めないといけないわね。

「彼のことは気にしなくていいから。気になるなら後で説明しよう」

 そんな私の考えを読んだかのようにキレーナ公爵はそう言うと、近くにいたメイドに私達を応接に案内するように伝えた。

「アーティア、行くぞ」
「はい」

 セナ殿下と一緒に歩き出そうとした私の耳に、エロージャン公爵の叫び声が聞こえてくる。

「キレーナ公爵! 邪魔をしないでくれ! とうしていつもあなたは、私の邪魔をするんですか!」

 キレーナ公爵が答える前に、今度はボルバー様の声が聞こえてきた。

「セナ殿下! あなたもだ! どうして、僕とアーティアが幸せになるためには、あなたの存在が邪魔だということに気付かないんですか!? あなたがいなければ上手くことが運んでいたのに! 本当に迷惑な人だ!」

 ボルバー様の叫びを聞いたセナ殿下が立ち止まって、後ろを振り返ったので、私もそれに倣う。
 ボルバー様は馬車の中からは出ずに、上半身だけ外に出した状態で私達を睨んでいた。

「邪魔なのはボルバー様のほうでしょう」

 小さく呟くと、セナ殿下が足を止めて元の道に戻っていく。

 一体、どうしたのかしら。
 普段はボルバー様を相手にするような人じゃないのに。

 疑問に思ったけれど、すぐに答えがわかった。

「俺の存在が邪魔だと言ったが、それが王家への不敬になることは理解してるのか」
「……はい?」

 ボルバー様がぽかんと口を大きく開けて聞き返したので、私が小さく手を挙げる。

「明らかに不敬だと思います。第二王子の存在が邪魔だなんてありえません」
「だよな。不敬罪で捕まえよう」
「えっ!?」

 セナ殿下の言葉を聞いたボルバー様は情けない声を上げたかと思うと馬車の扉を閉めて、中から鍵をかけたのだった。

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