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38 ミインジャーナ侯爵家の終わり ①
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ミインジャーナ侯爵家の執事が、必死の形相で港町の騎士団の詰所にやって来たのは、次の日の朝のことだった。
事前にそうなるだろうと予想して連絡していたこともあり、執事がファリミナに会いたいと騒ぎ立てる前に、彼女に連絡があった。昨日はオルフェンも寮に泊まっていたため、彼と一緒に向かうと、執事はファリミナを見るなり額を床につけた。
「お願いです。ファリミナ様。どうか、メイフ様にチャンスをいただけませんか」
「……どんなチャンス?」
ファリミナが聞き返すと、執事は顔を上げて訴える。
「メイフ様はファリミナ様と話をしたいとおっしゃっています。ですが、メイフ様からファリミナ様に近づくことは許されていません」
「私が会うといえば、王家の命令に反したことにならないと言いたいわけね」
「そうでございます」
執事がうなずくと、ファリミナは確認するようにオルフェンに目を向けた。今のオルフェンはオルフの姿で執事も彼のことをただの騎士だと思っている。
「ファリミナが会いたいならかまわない。でも、二人きりでは駄目だ」
「会いたいとは思いません。昨日も話しましたが、イザベルさんのことや私の話を聞いてくれなかったことなど話しておきたいことはあります。会ってもいいでしょうか」
再度確認すると、オルフェンは苦笑してうなずく。
「俺は婚約者の行動を制限したくない」
そう言ったオルフェンだったが、すぐに訂正する。
「悪事は止めるけどな」
「はい。悪いことをしそうになったら絶対に止めてください」
微笑み合う二人を見た執事は、メイフ様はこの二人の間にどうやって入るつもりなのだろうかと考えたが、自分の任務が無事に遂行できるとわかった安堵感で、浮かんだ疑問などはすぐに忘れてしまった。
******
3日後の昼過ぎ。約束の時間にメイフが詰所にやって来た。最初はスノウだけ一緒に入ってもらい、埒が明かないと判断した時は、オルフェンに入ってもらい正体を明かしてもらうことにした。
「ファリミナ、会ってくれてありがとう」
さすがのメイフも最初は謙虚な態度だった。
「あなたが勘違いしているかもしれないので会うことにしただけです。私とあなたが個人的に会うのは今日が最後ですので、そのつもりでお願いします」
「……ファリミナ、私が悪かったことは認めよう。だが、私がイザベルたちに騙されたのはお前のせいでもあるんだぞ」
「多国語を話せると話していなかったことについてはお詫びいたします。ですが、ここまで話をこじらせ、私があなたのことなんてどうでもいいと思うようにさせたのはあなたです」
「どういうことだ?」
「イザベルさんを連れてきたあの日、私の話を聞こうともしなかったでしょう?」
冷ややかな視線を向けられたメイフは、ファリミナの様子に困惑を隠せなかった。
「ファリミナ、私が謝らないから怒っているのか?」
「いいえ。あなたが私の目の前に現れなければ、謝罪なんてしてもらわなくていいんです」
「どうしろと言うんだ!」
「そのままの意味です。メイフ様、あなたはどう考えていらっしゃるかわかりませんが、私の心の中にあなたはもういません。私の人生に関わってほしくありません」
ファリミナははっきりと告げたつもりだったが、メイフには伝わらなかった。
「意地を張っているのか? それともまさか、他に男ができたのか?」
(他に男ができたって言い方はどうかと思うけれど、オルフェン様という婚約者ができたわけだし、間違ってはいないわね)
ファリミナは笑顔でうなずく。
「そうですわね。婚約者ができました」
「誰なんだ、言え!」
「あなたにどうこう言われる筋合いはありません」
「ふざけるな! どこのどいつだ! 以前、お前の側にいた騎士の男か!? 連れて来い! 私から女を奪おうとする馬鹿はこの世から消してやる!」
こうやって脅せばファリミナは相手と別れ、自分の所に戻って来るだろうと思ったメイフだったが、ファリミナの反応は予想とは違った。
「そんなことをしたらあなたが終わりますよ」
(メイフ様は私の婚約者がオルフェン殿下だということも、オルフ様がオルフェン殿下だということも知らないものね)
「……いいから連れてくるんだ!」
「後悔しますよ?」
「するわけがないだろう!」
ため息を吐いてファリミナがスノウを見ると、スノウは楽しそうに笑う。
「いいんじゃない? 呼んであげましょうよ」
「そうね。本人がそう言ってるんだものね」
「ファリ、婚約者同士なんだから助け合うのが普通よ」
(自分の手でなんとかしたかったけれど、オルフェン様に頼むのが一番早く片付けられるわね)
自分の不甲斐なさを感じつつも、スノウの言葉にうなずくと、ファリミナはこの場をスノウに任せてオルフェンを呼びに向かったのだった。
事前にそうなるだろうと予想して連絡していたこともあり、執事がファリミナに会いたいと騒ぎ立てる前に、彼女に連絡があった。昨日はオルフェンも寮に泊まっていたため、彼と一緒に向かうと、執事はファリミナを見るなり額を床につけた。
「お願いです。ファリミナ様。どうか、メイフ様にチャンスをいただけませんか」
「……どんなチャンス?」
ファリミナが聞き返すと、執事は顔を上げて訴える。
「メイフ様はファリミナ様と話をしたいとおっしゃっています。ですが、メイフ様からファリミナ様に近づくことは許されていません」
「私が会うといえば、王家の命令に反したことにならないと言いたいわけね」
「そうでございます」
執事がうなずくと、ファリミナは確認するようにオルフェンに目を向けた。今のオルフェンはオルフの姿で執事も彼のことをただの騎士だと思っている。
「ファリミナが会いたいならかまわない。でも、二人きりでは駄目だ」
「会いたいとは思いません。昨日も話しましたが、イザベルさんのことや私の話を聞いてくれなかったことなど話しておきたいことはあります。会ってもいいでしょうか」
再度確認すると、オルフェンは苦笑してうなずく。
「俺は婚約者の行動を制限したくない」
そう言ったオルフェンだったが、すぐに訂正する。
「悪事は止めるけどな」
「はい。悪いことをしそうになったら絶対に止めてください」
微笑み合う二人を見た執事は、メイフ様はこの二人の間にどうやって入るつもりなのだろうかと考えたが、自分の任務が無事に遂行できるとわかった安堵感で、浮かんだ疑問などはすぐに忘れてしまった。
******
3日後の昼過ぎ。約束の時間にメイフが詰所にやって来た。最初はスノウだけ一緒に入ってもらい、埒が明かないと判断した時は、オルフェンに入ってもらい正体を明かしてもらうことにした。
「ファリミナ、会ってくれてありがとう」
さすがのメイフも最初は謙虚な態度だった。
「あなたが勘違いしているかもしれないので会うことにしただけです。私とあなたが個人的に会うのは今日が最後ですので、そのつもりでお願いします」
「……ファリミナ、私が悪かったことは認めよう。だが、私がイザベルたちに騙されたのはお前のせいでもあるんだぞ」
「多国語を話せると話していなかったことについてはお詫びいたします。ですが、ここまで話をこじらせ、私があなたのことなんてどうでもいいと思うようにさせたのはあなたです」
「どういうことだ?」
「イザベルさんを連れてきたあの日、私の話を聞こうともしなかったでしょう?」
冷ややかな視線を向けられたメイフは、ファリミナの様子に困惑を隠せなかった。
「ファリミナ、私が謝らないから怒っているのか?」
「いいえ。あなたが私の目の前に現れなければ、謝罪なんてしてもらわなくていいんです」
「どうしろと言うんだ!」
「そのままの意味です。メイフ様、あなたはどう考えていらっしゃるかわかりませんが、私の心の中にあなたはもういません。私の人生に関わってほしくありません」
ファリミナははっきりと告げたつもりだったが、メイフには伝わらなかった。
「意地を張っているのか? それともまさか、他に男ができたのか?」
(他に男ができたって言い方はどうかと思うけれど、オルフェン様という婚約者ができたわけだし、間違ってはいないわね)
ファリミナは笑顔でうなずく。
「そうですわね。婚約者ができました」
「誰なんだ、言え!」
「あなたにどうこう言われる筋合いはありません」
「ふざけるな! どこのどいつだ! 以前、お前の側にいた騎士の男か!? 連れて来い! 私から女を奪おうとする馬鹿はこの世から消してやる!」
こうやって脅せばファリミナは相手と別れ、自分の所に戻って来るだろうと思ったメイフだったが、ファリミナの反応は予想とは違った。
「そんなことをしたらあなたが終わりますよ」
(メイフ様は私の婚約者がオルフェン殿下だということも、オルフ様がオルフェン殿下だということも知らないものね)
「……いいから連れてくるんだ!」
「後悔しますよ?」
「するわけがないだろう!」
ため息を吐いてファリミナがスノウを見ると、スノウは楽しそうに笑う。
「いいんじゃない? 呼んであげましょうよ」
「そうね。本人がそう言ってるんだものね」
「ファリ、婚約者同士なんだから助け合うのが普通よ」
(自分の手でなんとかしたかったけれど、オルフェン様に頼むのが一番早く片付けられるわね)
自分の不甲斐なさを感じつつも、スノウの言葉にうなずくと、ファリミナはこの場をスノウに任せてオルフェンを呼びに向かったのだった。
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