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第十八話 理想的なナースになるための処置
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綾羽は、尚人の正面に立ったまま、静かにトレーを引き寄せた。
金属がわずかに触れ合う、乾いた音。
アルコール綿の包みを裂く、控えめな紙の擦過音。
それだけで、尚人の背筋がわずかに強張る。
股間の布地が緊張で微かに擦れ、甘い疼きが一瞬だけ走った。
「……今日はね」
綾羽は振り返らずに言った。
「注射を一本、打ちましょう」
尚人は瞬きをする。
「……注射……?」
「ええ」
白衣の袖口を整えながら、淡々と。
「心のほうは、だいぶ静かになってきてる。だから今度は――身体側」
“身体”という言い方が、やけに穏やかだった。
その響きだけで、尚人の下腹部がきゅっと締まる。
下半身を包む布が、逃げ場のない熱を内側に囲い込んでいた。
脈打つ熱をそっと閉じ込めている感覚が、はっきり伝わってくる。
尚人は喉を鳴らす。
「……どこに……?」
綾羽は一瞬だけ考える素振りをしてから、首を傾げた。
「そうね」
小さく笑う。
「今回は……お尻かな」
言葉は軽い。
けれど、決定事項の響き。
「筋肉が大きいから、吸収も安定するの」
専門用語を使いながらも、声はやさしい。
尚人は無意識に椅子の端を掴んでいた。
膝が内側へ寄り、股間を隠すような仕草になる。
レースの縁が太ももの内側をかすめ、
その摩擦が甘い電流のように背筋を駆け上がった。
「……え……」
綾羽は気づいているのに、何も言わない。
代わりに、ふっと視線を落とす。――腰のあたり。
そして、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。
「……ふふ」
尚人が息を詰める。
「……ちゃんと履いているのね」
「パンティー」
尚人の頬が一気に熱を持つ。
耳まで赤く染まり、視線が泳ぐ。
布の下で身体が反応し、内側から押し上げる。
薄い生地越しに形が微かに浮かび、先端が湿り気を帯びているのが自分でもわかった。
「……はい……」
綾羽は頷いた。
「えらいわ」
即答だった。
「言ったでしょう。“自分の状態を整えるもの”だって」
尚人は視線を彷徨わせる。
「……はい……」
その返事は、抵抗よりも受容に近い。
綾羽はしゃがみ、視線の高さを合わせる。
「ねえ。どう?」
首を傾げる。
「履いてるとき。実習の前。朝、着替えたとき」
尚人は唇を開いて――閉じた。
考えている。
「……落ち着きます……」
自分の口から漏れた言葉が、熱を帯びて部屋に溶ける。
「布地が肌に吸いついて……歩くたびに擦れて……熱くなって……。恥ずかしくて死にそうなんです。なのに……その重みがないと、もう、自分がちゃんと“ここ”にいる感じがしなくなるんです……」
綾羽は、ゆっくり頷いた。
「それでいい。とても理想的な反応ね」
彼女は尚人の至近距離に跪いたまま、太ももの付け根あたり、
実習着が不自然に引き攣れている箇所を、検温するかのような手つきで一瞬だけなぞった。
「……心拍も少し速いわね。でも、その緊張感すら、今はあなたの身体を柔らかくしているわ」
その指先が触れた瞬間、尚人の内側で、桜色のレースが悲鳴を上げるように肌を噛んだ。
実習着の上からでも、そこが熱く脈打ち、不名誉な形を象り始めていることを、
検診のように淡々と指摘される。
尚人の思考は白く弾け、もはや拒絶の言葉を紡ぐ機能さえ失われていた。
「優しくなる準備ができてきてる」
綾羽のその言葉は、もはや慰めではなく、完成図へと向かうための「設計図」だった。
尚人は深く、重い息を吐く。
なぜか、否定が浮かばなかった。
恥辱を燃料にして、自分の身体が綾羽の望む「形」へと、音もなく沈み込んでいくのを感じていた。
――その時。
カチリ、と。
トレーの上に、注射器が置かれる無機質な金属音が響いた。
その硬い響きが、甘いトランス状態に浸っていた尚人の背筋を、一気に冷たい現実へと引き戻す。
「さて。じゃあ、準備をしましょうか」
綾羽が、立ち上がる。
その白衣の裾が、尚人の膝をかすめた。
「ズボンと……それから、そのパンティーも。少しだけ、下ろしてくれる?」
命令ではない。
けれど、選択肢の存在しない声音だった。
尚人が動けずにいるのを見て、綾羽はほんのわずかに息を緩めた。
「……怖い? 今の反応」
責める調子ではない。
脈拍を測るみたいな、静かな問いだった。
「大丈夫。これは“検査”と同じ。想定内よ」
そう言いながら、半歩だけ距離を詰める。
逃げ場を削るほど近いのに、声色は終始なだらかだった。
綾羽は尚人の正面に立ち直る。
「看護師ってね……――ううん」
ほんの一瞬だけ言葉を切り替える。
「ナースってね。相手を安心させる仕事」
「……なりたいんでしょ?」
その響きが、時間をかけて耳の奥へ染み込んでいく。
「そのためには――まず、自分の身体が、ちゃんと静かであること」
視線が、自然とトレーの上の注射器へ落ちる。
尚人の呼吸が、知らないうちに彼女のテンポに引き寄せられていった。
(……息が、通る)
ふと、尚人は自覚した。
(……考えなくて済んでる。抵抗してない。むしろ……楽になってる……)
綾羽は小さく微笑む。
「……ほら」
「今も、きちんと揃ってきてる」
尚人が息を吸うより早く、次が来る。
「これはね――」
「あなたが“理想的なナース”になるための」
「その近道」
尚人が目を逸らしかけた、その動きを、視線だけで塞ぐ。
「難しいことは考えなくていいわ」
声は穏やかなまま。
考える余地だけを、丁寧に塞ぐ言い方だった。
「身体に任せていれば……
勝手に、整っていくから」
「……そうやって
もう前よりずっと、馴染んできてる」
命令ではない。
それなのに、尚人の肩は目に見えて落ち、膝から力が抜けていく。
「……尚人くん」
呼ばれた瞬間、返事より先に、尚人の意識がほんの半拍だけ空転した。
自分の名前のはずなのに、胸の奥で受信がわずかに遅れる。
――それでも、否定は浮かばない。
「大丈夫よ」
一拍、置いて。
「……ここからは、私が管理する」
「……はい」
その返事は、思考を通った音ではなかった。
呼ばれた名前に身体が先に反応してしまった、そんな響きだった。
尚人は震える指先をベルトにかけた。
カチリ、と金具が外れる音が、静かな診察室にやけに重く響く。
綾羽は動かない。
ただ、すぐ目の前で、聖者のような静謐さをもって尚人の手元を見つめている。
――もう、止めないのね。
綾羽の瞳の奥で、声にならない確信が静かに沈んだ。
スラックスのホックを外し、ファスナーをゆっくりと下ろしていく。
下ろすごとに、今まで青い生地の中に押し込められていた「熱」が、冷たい外気と混じり合っていく。
膝の力が抜け、実習着が重力に従って足首まで滑り落ちた。
尚人は、きつく目を閉じた。
瞼の裏が、焼き付くような赤で塗り潰されている気がした。
スラックスが脱げ落ちたことで、白衣の前に晒されたのは、場違いなほど淡い桜色のレースだった。
「……とても、綺麗よ。
実習服の下で、こんなふうに……ずっと、押し隠してたなんて」
綾羽の囁きが上から降ってくる。
彼女は尚人の視線が逃げ場を探して揺れるのを、あえて追わなかった。
代わりに、ゆっくりとトレーへ手を伸ばし、アンプルを掲げて光に透かす。
透明な液体が、細いガラスの中で静かに揺れた。
「ほら……深呼吸。
……そう。力を抜いて。長く、吐いて」
尚人の胸が、言われるままに上下する。
そのタイミングに合わせて、綾羽は注射器へ薬液を満たした。
空気を抜く小さな音が、やけに大きく聞こえる。
「……ほんと、いい子」
ほとんど反射のように落ちたその言葉に、尚人は自分が今“評価された”ことに気づく。
褒められた。
正しく呼吸した。
その事実だけが、胸の奥に沈殿した。
綾羽は尚人の耳元に顔を寄せ、その震える肩を抱き寄せるようにして囁いた。
「そのパンティーを、少しだけ。
……そう。今のまま、下に」
尚人は息を詰めながら、自分の下着の縁に指をかけた。
指先が、自分のものとは思えないほど熱く湿った布地に触れる。
ゆっくりと、お尻の曲線に沿って押し下げていく。
布が肌から剥がれる、微かな摩擦音。
露出していく、無防備な曲線。
布が離れた瞬間、冷たい空気が熱を帯びた部分に触れ、尚人の腰が小さく跳ねた。
その反応ごと、綾羽の視線に捕まっているのが分かる。
晒されているのに、縁から指が離れなかった。
(……あ……)
自分の境界線が、ゆっくりと剥がされていく。
(……自分じゃない。……戻らなくていい)
「そう。上手ね、尚人くん。……今、何を考えてる?」
「……素敵なナースになりたい……。身体が……」
「それでいいの。
……考えなくていい。身体の方が、もう先に分かってるから」
アルコールの匂いが、ふっと広がった。
尚人の呼吸が、そこで一拍、遅れた。
その奥で、針の影が皮膚のすぐ上まで落ちてくる。
(……冷たい……)
脱脂綿の感触が、これから起こる「侵入」を予感させ、尚人の下腹部を甘く痺れさせた。
呼吸。
白衣の揺れ。
自分の鼓動。
その三つの境界が、もう、はっきり分からない。
綾羽は、まだ何も言わなかった。
金属がわずかに触れ合う、乾いた音。
アルコール綿の包みを裂く、控えめな紙の擦過音。
それだけで、尚人の背筋がわずかに強張る。
股間の布地が緊張で微かに擦れ、甘い疼きが一瞬だけ走った。
「……今日はね」
綾羽は振り返らずに言った。
「注射を一本、打ちましょう」
尚人は瞬きをする。
「……注射……?」
「ええ」
白衣の袖口を整えながら、淡々と。
「心のほうは、だいぶ静かになってきてる。だから今度は――身体側」
“身体”という言い方が、やけに穏やかだった。
その響きだけで、尚人の下腹部がきゅっと締まる。
下半身を包む布が、逃げ場のない熱を内側に囲い込んでいた。
脈打つ熱をそっと閉じ込めている感覚が、はっきり伝わってくる。
尚人は喉を鳴らす。
「……どこに……?」
綾羽は一瞬だけ考える素振りをしてから、首を傾げた。
「そうね」
小さく笑う。
「今回は……お尻かな」
言葉は軽い。
けれど、決定事項の響き。
「筋肉が大きいから、吸収も安定するの」
専門用語を使いながらも、声はやさしい。
尚人は無意識に椅子の端を掴んでいた。
膝が内側へ寄り、股間を隠すような仕草になる。
レースの縁が太ももの内側をかすめ、
その摩擦が甘い電流のように背筋を駆け上がった。
「……え……」
綾羽は気づいているのに、何も言わない。
代わりに、ふっと視線を落とす。――腰のあたり。
そして、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。
「……ふふ」
尚人が息を詰める。
「……ちゃんと履いているのね」
「パンティー」
尚人の頬が一気に熱を持つ。
耳まで赤く染まり、視線が泳ぐ。
布の下で身体が反応し、内側から押し上げる。
薄い生地越しに形が微かに浮かび、先端が湿り気を帯びているのが自分でもわかった。
「……はい……」
綾羽は頷いた。
「えらいわ」
即答だった。
「言ったでしょう。“自分の状態を整えるもの”だって」
尚人は視線を彷徨わせる。
「……はい……」
その返事は、抵抗よりも受容に近い。
綾羽はしゃがみ、視線の高さを合わせる。
「ねえ。どう?」
首を傾げる。
「履いてるとき。実習の前。朝、着替えたとき」
尚人は唇を開いて――閉じた。
考えている。
「……落ち着きます……」
自分の口から漏れた言葉が、熱を帯びて部屋に溶ける。
「布地が肌に吸いついて……歩くたびに擦れて……熱くなって……。恥ずかしくて死にそうなんです。なのに……その重みがないと、もう、自分がちゃんと“ここ”にいる感じがしなくなるんです……」
綾羽は、ゆっくり頷いた。
「それでいい。とても理想的な反応ね」
彼女は尚人の至近距離に跪いたまま、太ももの付け根あたり、
実習着が不自然に引き攣れている箇所を、検温するかのような手つきで一瞬だけなぞった。
「……心拍も少し速いわね。でも、その緊張感すら、今はあなたの身体を柔らかくしているわ」
その指先が触れた瞬間、尚人の内側で、桜色のレースが悲鳴を上げるように肌を噛んだ。
実習着の上からでも、そこが熱く脈打ち、不名誉な形を象り始めていることを、
検診のように淡々と指摘される。
尚人の思考は白く弾け、もはや拒絶の言葉を紡ぐ機能さえ失われていた。
「優しくなる準備ができてきてる」
綾羽のその言葉は、もはや慰めではなく、完成図へと向かうための「設計図」だった。
尚人は深く、重い息を吐く。
なぜか、否定が浮かばなかった。
恥辱を燃料にして、自分の身体が綾羽の望む「形」へと、音もなく沈み込んでいくのを感じていた。
――その時。
カチリ、と。
トレーの上に、注射器が置かれる無機質な金属音が響いた。
その硬い響きが、甘いトランス状態に浸っていた尚人の背筋を、一気に冷たい現実へと引き戻す。
「さて。じゃあ、準備をしましょうか」
綾羽が、立ち上がる。
その白衣の裾が、尚人の膝をかすめた。
「ズボンと……それから、そのパンティーも。少しだけ、下ろしてくれる?」
命令ではない。
けれど、選択肢の存在しない声音だった。
尚人が動けずにいるのを見て、綾羽はほんのわずかに息を緩めた。
「……怖い? 今の反応」
責める調子ではない。
脈拍を測るみたいな、静かな問いだった。
「大丈夫。これは“検査”と同じ。想定内よ」
そう言いながら、半歩だけ距離を詰める。
逃げ場を削るほど近いのに、声色は終始なだらかだった。
綾羽は尚人の正面に立ち直る。
「看護師ってね……――ううん」
ほんの一瞬だけ言葉を切り替える。
「ナースってね。相手を安心させる仕事」
「……なりたいんでしょ?」
その響きが、時間をかけて耳の奥へ染み込んでいく。
「そのためには――まず、自分の身体が、ちゃんと静かであること」
視線が、自然とトレーの上の注射器へ落ちる。
尚人の呼吸が、知らないうちに彼女のテンポに引き寄せられていった。
(……息が、通る)
ふと、尚人は自覚した。
(……考えなくて済んでる。抵抗してない。むしろ……楽になってる……)
綾羽は小さく微笑む。
「……ほら」
「今も、きちんと揃ってきてる」
尚人が息を吸うより早く、次が来る。
「これはね――」
「あなたが“理想的なナース”になるための」
「その近道」
尚人が目を逸らしかけた、その動きを、視線だけで塞ぐ。
「難しいことは考えなくていいわ」
声は穏やかなまま。
考える余地だけを、丁寧に塞ぐ言い方だった。
「身体に任せていれば……
勝手に、整っていくから」
「……そうやって
もう前よりずっと、馴染んできてる」
命令ではない。
それなのに、尚人の肩は目に見えて落ち、膝から力が抜けていく。
「……尚人くん」
呼ばれた瞬間、返事より先に、尚人の意識がほんの半拍だけ空転した。
自分の名前のはずなのに、胸の奥で受信がわずかに遅れる。
――それでも、否定は浮かばない。
「大丈夫よ」
一拍、置いて。
「……ここからは、私が管理する」
「……はい」
その返事は、思考を通った音ではなかった。
呼ばれた名前に身体が先に反応してしまった、そんな響きだった。
尚人は震える指先をベルトにかけた。
カチリ、と金具が外れる音が、静かな診察室にやけに重く響く。
綾羽は動かない。
ただ、すぐ目の前で、聖者のような静謐さをもって尚人の手元を見つめている。
――もう、止めないのね。
綾羽の瞳の奥で、声にならない確信が静かに沈んだ。
スラックスのホックを外し、ファスナーをゆっくりと下ろしていく。
下ろすごとに、今まで青い生地の中に押し込められていた「熱」が、冷たい外気と混じり合っていく。
膝の力が抜け、実習着が重力に従って足首まで滑り落ちた。
尚人は、きつく目を閉じた。
瞼の裏が、焼き付くような赤で塗り潰されている気がした。
スラックスが脱げ落ちたことで、白衣の前に晒されたのは、場違いなほど淡い桜色のレースだった。
「……とても、綺麗よ。
実習服の下で、こんなふうに……ずっと、押し隠してたなんて」
綾羽の囁きが上から降ってくる。
彼女は尚人の視線が逃げ場を探して揺れるのを、あえて追わなかった。
代わりに、ゆっくりとトレーへ手を伸ばし、アンプルを掲げて光に透かす。
透明な液体が、細いガラスの中で静かに揺れた。
「ほら……深呼吸。
……そう。力を抜いて。長く、吐いて」
尚人の胸が、言われるままに上下する。
そのタイミングに合わせて、綾羽は注射器へ薬液を満たした。
空気を抜く小さな音が、やけに大きく聞こえる。
「……ほんと、いい子」
ほとんど反射のように落ちたその言葉に、尚人は自分が今“評価された”ことに気づく。
褒められた。
正しく呼吸した。
その事実だけが、胸の奥に沈殿した。
綾羽は尚人の耳元に顔を寄せ、その震える肩を抱き寄せるようにして囁いた。
「そのパンティーを、少しだけ。
……そう。今のまま、下に」
尚人は息を詰めながら、自分の下着の縁に指をかけた。
指先が、自分のものとは思えないほど熱く湿った布地に触れる。
ゆっくりと、お尻の曲線に沿って押し下げていく。
布が肌から剥がれる、微かな摩擦音。
露出していく、無防備な曲線。
布が離れた瞬間、冷たい空気が熱を帯びた部分に触れ、尚人の腰が小さく跳ねた。
その反応ごと、綾羽の視線に捕まっているのが分かる。
晒されているのに、縁から指が離れなかった。
(……あ……)
自分の境界線が、ゆっくりと剥がされていく。
(……自分じゃない。……戻らなくていい)
「そう。上手ね、尚人くん。……今、何を考えてる?」
「……素敵なナースになりたい……。身体が……」
「それでいいの。
……考えなくていい。身体の方が、もう先に分かってるから」
アルコールの匂いが、ふっと広がった。
尚人の呼吸が、そこで一拍、遅れた。
その奥で、針の影が皮膚のすぐ上まで落ちてくる。
(……冷たい……)
脱脂綿の感触が、これから起こる「侵入」を予感させ、尚人の下腹部を甘く痺れさせた。
呼吸。
白衣の揺れ。
自分の鼓動。
その三つの境界が、もう、はっきり分からない。
綾羽は、まだ何も言わなかった。
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