『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第四話・1:呪いのビキニと、五千ゴールドの洗礼』

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──その時、扉が、礼拝堂の静寂を裂くように、ゆっくりと開いた。
その音は、古びた木材が深い眠りから目覚めるような低い響きを持ち、聖堂の奥にまで反射して消えていく。

「騒がしいわね。何事?」

そこに現れたのは──銀糸のような長髪をたゆたわせ、静かに立つひとりの女性。
その声は、鈴を転がすように澄んでいながら、奥底に刃のような冷たさを秘めていた。

白銀のローブに包まれた肢体はすらりと均整がとれていて、
その歩みには“慈母の温もり”と“処刑者の冷徹さ”が危うい均衡で同居していた。

(──セラフィー……!!)
ワン太の中で、颯太は叫んだ。

《賢者セラフィー》。
回復と浄化のスペシャリストにして、“神の声を聴く者”。
その名は、王都から辺境の村にまで響き渡り、
人々の畏敬と畏怖を同時に集めた存在。

かつて──颯太が“勇者リリア”として暴れ回っていた頃、
彼女はそのパーティーの仲間だった。
誰よりも信仰に篤く、誰よりも仲間を癒やし、
そして──“リリアの正体”に最も近づいた女性。

(やべぇ……アイツ、今のリリアが俺じゃないって気づくぞ……!
 あの眼は、ぜってー誤魔化せねぇ……!)

「いったいなんの騒ぎ?……あら、やっぱりあなたなのね?」
「それにしても、昼間から“そんな格好”でお祈りに来るなんて。ふふ、ずいぶんエキセントリックね、リリア。」

「えっ……!? ど、どうして私の名前を……?
 ち、ちがいますっ! これ、呪いで……! 好きで着てるわけじゃなくてっ……!」

リリアの必死の弁明も虚しく──肩からツルッと水着の紐が滑り落ちる。
慌てて直す手は小刻みに震え、頬から首筋まで赤く染まった。

セラフィーは、その様子を静かに見つめていた。
瞳の奥に、一瞬だけ記憶の色がよぎる。

「……ふふ。やっぱり……リリア、なのね。」

その声には、懐かしさと戸惑いが混じっていた。
だが、目の前の少女は、明らかに自分のことを“知らない”顔をしている。
(……記憶がない? まさか──別の器に……?)

その声に、祈りよりも切なさが混じっていた。

ごく短い沈黙。
次の瞬間、セラフィーは何事もなかったかのように表情を整え、
微笑を浮かべて首をかしげた。

「ごめんなさい。つい……昔、あなたに少し似た子がいて。思わず名前を呼んでしまったの。」

その瞳が、かすかに揺れた。
記憶の底にある誰かを、ほんの一瞬だけ重ねたように。
けれど──仕草も、声の抑揚も、戦士としての立ち姿も……似てはいるが、どこかが決定的に異なる。

(……そう。この子は、わたしが知っている“リリア”とは違う。)

セラフィーの思考が、わずかに冷たい光を帯びる。
視線が刹那だけワン太へと突き刺さり、
微笑の奥で、“なにかを見抜いた者”だけが持つ色が、かすかに光った。

(やべーこれ絶対バレたぞ! めんどくせー。
 頼むから今は黙っててくれ、聖職者LvMAXの洞察スキルとか発動すんなよ!?)

リリアは、セラフィーの視線に射抜かれたまま、喉を鳴らした。
胸の奥で何かがざわめき、息を呑む。

「……私のこと、知ってるんですか? 私、自分のことがよくわからないんです。」

セラフィーは、少し驚いたように瞬きをした。
だが、すぐに微笑みを整え、まるで何事もなかったように首をかしげる。
ほんの一瞬だけ、そのまなざしに影が差したように見えた。

「……あら、ごめんなさい。
 “リリア”って呼んでしまったかしら? つい、そんな名前が口をついて出てしまって。
 あなたに雰囲気が似ていたのね。昔、少しだけ知っていた子に。」

声はあくまで柔らかく、表情にも曇りはなかった。

「……そうなんですね。」

リリアは、ぎこちなく笑ってみせた。
けれど胸の奥では、何か小さな棘のような違和感が残っていた。
“リリア”という響きが、自分の中のどこか深い場所を、そっと叩いた気がした。

……その沈黙を、セラフィーは、まるで空気の読み方を知っているかのように破った。

「……ふうん。呪いのビキニ、ね。ここでは珍しいことじゃないわ。」

「日常なんですかっ!?」

「ええ。つい最近も“呪いの透け透け紐パン”の子が来たばかりだったわ。
 全力で隠していたのに、むしろ見せているように透けていて……ふふ。気の毒なくらいだった。」

空気が、わずかに和らぐ。
だが次に告げられた言葉は──リリアの心臓を真っ逆さまに落とした。

「解呪料は……そうね。五千ゴールド。
 それが、この街の教会の相場よ。」

「ごっ……五千っ!?」
目の前が暗転する。

「そ、そんな……! 村の教会じゃ五ゴールドで済んだのに……!」

(アンパン五百個の絶望プライス……っ!?
おいおい、ゼロひとつ増えてんじゃねーか!?)

(……っていうかそれ、絶対“観光客価格”だろ!? 完全に吹っかけてる顔してるぞこの女!)

──と、心の中で盛大にツッコんだところで。
セラフィーが、まるで全部聞こえていたかのように静かに微笑んだ。

「……まあ、払えないでしょうね?」

セラフィーの瞳が、探るように細められる。
その目には慈愛も宿りながら、同時に“試す者”の光が潜んでいた。

「だったら──その代わり、お願いをひとつ聞いてもらえるかしら?」

「お、お願い……?」

「ええ。“来てしまった”ってことは……もう、そういうことよ。」

その声は甘やかに落ちるのに、同時に刃のように鋭かった。
ステンドグラスに映る影が、光を背負いながら黒く染まる。
救済と支配、そのどちらの微笑も、同じ唇に宿っていた。

(──なんか、やばい交渉に巻き込まれた気しかしねぇ。
あの女、やり手だからな……っていうかこれ、完全に次のクエストフラグじゃねーか。)
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