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『第二十八話・1 : 竜襲の夜(The Sky Alarm)
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その夜のことだった。
静寂の塔に、突然――裂けるような警鐘が鳴り響いた。
音が空気を裂いた瞬間、世界が一度、息を止めた。
風が凍り、灯が揺らぎ、塔の影がわずかに震える。
その沈黙を切り裂くように、鐘が二度、三度――空を叩いた。
それは“警鐘”というより、“目覚めの合図”に近かった。
空気が震え、光の紋が壁を駆け上がる。
音は確かに鐘のはずなのに、どこか悲鳴のようでもあった。
まるで“塔の内側”から誰かが叩いているような、底知れぬ響き。
甲高い波が夜空を裂く。
それは、ただの鐘ではなかった。
魔力の波を帯びた“防衛の鐘”──
古の時代、国を滅ぼしかけた“何か”の再来を告げると伝えられる、伝説の警告音。
風が逆巻き、雲を裂くような音が遠くで唸る。
塔の最上部に張られた結界が淡く脈動し、
まるで心臓の鼓動を真似るように光が瞬いた。
地の底から響くような低い唸りが、足元を這い上がってくる。
「な、なに……!? 誰が鳴らしてるの……!?」
リリアは息を呑んだ。
鐘楼など、スカイパレスには存在しない。
(……誰が、何に反応して……?)
(……いや待て。ここ“空”だぞ? なにが来るってんだよ……!?)
(これ、もし“空の上の上”つまり、宇宙?とか言われたら、俺もう概念的に詰むぞ!?)
光が一筋、雲間を走った。
塔の中で、何かが“パサリ”と羽音を立てた。
「ひいぃっ!! ちょ、ちょっとリリア!! なに鳴っとるんこれ!? 幽霊ベル!? 亡霊チャイム!? “成仏済みです”って札ぶら下げた方がええんちゃう!?」
(お前かよブッくん!! てかどこにいた!?)
光の粉をまき散らしながら、ブッくんがリリアの肩にバサッと着地した。
羽をばさばささせ、目をぐるぐる回しながら叫ぶ。
「ワイ、夢かと思ったで!? 寝ぼけて“鳩時計”鳴らしたんちゃうか思うたわ!! これ絶対、なんか来とるで!!」
「だからそれが“何か”を聞いてるんだってなば!!」
リリアが額を押さえる。
「上や上! 雲、割れとる!! ってか、見ろあれ!!」
ブッくんの羽先が指した空で、風がざわめき、雲の影がひとりでに裂けていく。
(空軍なんて存在しねぇし、宇宙軍もまだ予算通ってねぇよ!?)
(対空警報とか鳴る場所じゃないんだよここ!! 天空なんだよ!?)
リリアは思わず笑いかけたが、声が出なかった。
背後の空気が、なぜか生き物の呼吸みたいに膨らんでいた。
その瞬間、風が裏返った。
空気が反転し、塔の外壁を走る光の紋が爆ぜるように輝いた。
地の底から押し上げるような脈動が、心臓を直接叩く。
それでも、音は止まらなかった。
塔の内部から。壁の奥から。空気そのものが鳴っている。
まるで、この塔そのものが――目を覚まし、叫んでいるかのように。
その時だった。
鳴り響いていた警鐘をも断ち切るように、鋭い声が空気を裂いた。
振り向くと、そこに銀の鎧を纏った影が立っていた。
――ネイルだった。
「リリア様、スカイパレスの迎撃モードを起動しました。外壁防御魔法展開中、優先レベルΩ(オメガ)へ」
(オメガ!? 聞いたことないって! こういうのって、アルファから順に進化してくもんだろ!?
なんでいきなりラスボスの名前が出てくるんだよ!?)
(昔、AKBの“チームK”見て『AからKまであるんだ、たくさんいるね』とか言ってドン引きされたの思い出すわ!!)
ブッくんが空中でバタバタ暴れながら叫ぶ。
「そらあれや! “想定外の想定外”や! きっと最強、最悪のやつらが来てるんやでぇぇぇ!!」
(やばい、完全に“寝起きイベントフラグ”だぞ、これ……!)
……空気の層が、ひとつ、ずれた気がした。
セラフィーが寝巻きのまま部屋から飛び出してきた。
「なによ!? また“軽く”なんかしたの!?」
(いやいやいやいやいや!! 今回は何もしてねぇから!! 寝てただけだから!!)
(魔法も詠唱もしてねぇのに、なんで勝手にイベント始まってんの!?)
床下が低く唸り、塔全体が振動する。
風が渦を巻き、カーテンが内側に吸い込まれる。
空気の圧が、音を押しつぶす。
──そして、夜空の端で、雲が赤く光った。
「……なに、あれ。」
セラフィーの声が震えた。
雲を裂くようにして、巨大な影が現れる。
風が悲鳴を上げた。冷気が肌を刺し、夜の色そのものが震える。
鱗が月光を反射し、金属よりも硬質な光がちらつく。
そのたび、光が屈折して塔の壁に無数の影を描き、
まるで空そのものが生き物のように蠢いていた。
その背から、紅蓮の翼が展開された。
光の奥で、風が止まった。
空も、塔も、彼女たちの呼吸さえも、凍りつく。
次の瞬間――世界が、裂けた。
ブッくんが羽をばたつかせ、悲鳴のように叫んだ。
「ぎゃあぁぁ!! ドラゴンや!! ドラゴンの群れやぁぁぁ!!」
その言葉を遮るように、空が閃光で割れた。
雲の奥で、いくつもの影がうねっている。
雷でも、嵐でもない。
──竜の咆哮だった。
静寂の塔に、突然――裂けるような警鐘が鳴り響いた。
音が空気を裂いた瞬間、世界が一度、息を止めた。
風が凍り、灯が揺らぎ、塔の影がわずかに震える。
その沈黙を切り裂くように、鐘が二度、三度――空を叩いた。
それは“警鐘”というより、“目覚めの合図”に近かった。
空気が震え、光の紋が壁を駆け上がる。
音は確かに鐘のはずなのに、どこか悲鳴のようでもあった。
まるで“塔の内側”から誰かが叩いているような、底知れぬ響き。
甲高い波が夜空を裂く。
それは、ただの鐘ではなかった。
魔力の波を帯びた“防衛の鐘”──
古の時代、国を滅ぼしかけた“何か”の再来を告げると伝えられる、伝説の警告音。
風が逆巻き、雲を裂くような音が遠くで唸る。
塔の最上部に張られた結界が淡く脈動し、
まるで心臓の鼓動を真似るように光が瞬いた。
地の底から響くような低い唸りが、足元を這い上がってくる。
「な、なに……!? 誰が鳴らしてるの……!?」
リリアは息を呑んだ。
鐘楼など、スカイパレスには存在しない。
(……誰が、何に反応して……?)
(……いや待て。ここ“空”だぞ? なにが来るってんだよ……!?)
(これ、もし“空の上の上”つまり、宇宙?とか言われたら、俺もう概念的に詰むぞ!?)
光が一筋、雲間を走った。
塔の中で、何かが“パサリ”と羽音を立てた。
「ひいぃっ!! ちょ、ちょっとリリア!! なに鳴っとるんこれ!? 幽霊ベル!? 亡霊チャイム!? “成仏済みです”って札ぶら下げた方がええんちゃう!?」
(お前かよブッくん!! てかどこにいた!?)
光の粉をまき散らしながら、ブッくんがリリアの肩にバサッと着地した。
羽をばさばささせ、目をぐるぐる回しながら叫ぶ。
「ワイ、夢かと思ったで!? 寝ぼけて“鳩時計”鳴らしたんちゃうか思うたわ!! これ絶対、なんか来とるで!!」
「だからそれが“何か”を聞いてるんだってなば!!」
リリアが額を押さえる。
「上や上! 雲、割れとる!! ってか、見ろあれ!!」
ブッくんの羽先が指した空で、風がざわめき、雲の影がひとりでに裂けていく。
(空軍なんて存在しねぇし、宇宙軍もまだ予算通ってねぇよ!?)
(対空警報とか鳴る場所じゃないんだよここ!! 天空なんだよ!?)
リリアは思わず笑いかけたが、声が出なかった。
背後の空気が、なぜか生き物の呼吸みたいに膨らんでいた。
その瞬間、風が裏返った。
空気が反転し、塔の外壁を走る光の紋が爆ぜるように輝いた。
地の底から押し上げるような脈動が、心臓を直接叩く。
それでも、音は止まらなかった。
塔の内部から。壁の奥から。空気そのものが鳴っている。
まるで、この塔そのものが――目を覚まし、叫んでいるかのように。
その時だった。
鳴り響いていた警鐘をも断ち切るように、鋭い声が空気を裂いた。
振り向くと、そこに銀の鎧を纏った影が立っていた。
――ネイルだった。
「リリア様、スカイパレスの迎撃モードを起動しました。外壁防御魔法展開中、優先レベルΩ(オメガ)へ」
(オメガ!? 聞いたことないって! こういうのって、アルファから順に進化してくもんだろ!?
なんでいきなりラスボスの名前が出てくるんだよ!?)
(昔、AKBの“チームK”見て『AからKまであるんだ、たくさんいるね』とか言ってドン引きされたの思い出すわ!!)
ブッくんが空中でバタバタ暴れながら叫ぶ。
「そらあれや! “想定外の想定外”や! きっと最強、最悪のやつらが来てるんやでぇぇぇ!!」
(やばい、完全に“寝起きイベントフラグ”だぞ、これ……!)
……空気の層が、ひとつ、ずれた気がした。
セラフィーが寝巻きのまま部屋から飛び出してきた。
「なによ!? また“軽く”なんかしたの!?」
(いやいやいやいやいや!! 今回は何もしてねぇから!! 寝てただけだから!!)
(魔法も詠唱もしてねぇのに、なんで勝手にイベント始まってんの!?)
床下が低く唸り、塔全体が振動する。
風が渦を巻き、カーテンが内側に吸い込まれる。
空気の圧が、音を押しつぶす。
──そして、夜空の端で、雲が赤く光った。
「……なに、あれ。」
セラフィーの声が震えた。
雲を裂くようにして、巨大な影が現れる。
風が悲鳴を上げた。冷気が肌を刺し、夜の色そのものが震える。
鱗が月光を反射し、金属よりも硬質な光がちらつく。
そのたび、光が屈折して塔の壁に無数の影を描き、
まるで空そのものが生き物のように蠢いていた。
その背から、紅蓮の翼が展開された。
光の奥で、風が止まった。
空も、塔も、彼女たちの呼吸さえも、凍りつく。
次の瞬間――世界が、裂けた。
ブッくんが羽をばたつかせ、悲鳴のように叫んだ。
「ぎゃあぁぁ!! ドラゴンや!! ドラゴンの群れやぁぁぁ!!」
その言葉を遮るように、空が閃光で割れた。
雲の奥で、いくつもの影がうねっている。
雷でも、嵐でもない。
──竜の咆哮だった。
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