『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第二十八話 • 6:暁の竜、ワン太 — The Heart of Light』

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その穏やかな空気を裂くように――
幻影の輪郭が一瞬、激しく波打った。
まるで誰かが、この通信を無理やり断とうとしているかのように。

「……今、冥府の龍たちは魔王カルマ=ヴァナスと結託し、覚醒前のワン太から“転生の核”を奪い取ろうとしている。
その目的は、インペリアル・ドラゴンの再臨を永遠に封じ、
奪った核をもって冥府龍王〈アビス=ネザレイド〉を現世へと甦らせること――。」

「ゆえに、勇者よ――その子を守れ。
やつらの手に“核”を渡せば、この世界は冥府に飲み込まれることになる。」

言葉が途切れると、風が静まり返った。
空を満たしていた光のきらめきが、雪のように音もなく舞い落ちる。
光の粒が地に触れるたび、世界が息をひそめる。

その静寂のあと――
アルカン=ルシアの声が、深く、少しだけ低くなった。

「この儀が終われば、我は完全にこの世を離れよう。
魂は分かたれ、ワン太の中へと融けていく。
やがて、そこに“新たな力”が芽吹くだろう。
それはもう、我ではない。
――だが、我が記憶も祈りも、その魂の奥に宿るはず。」

「その時、再び“声”を聞くことがあるならば――
それは“インペリアルドラゴン”としてではなく、
“新たに生まれた最強の龍”ワン太のささやきとして、世界に届くだろう。」

一瞬、風が止んだ。
空の光がわずかに歪み、あたりの音という音が吸い込まれていく。

次の瞬間――空が低く唸り、幻影の周囲に黒い影が浮かび上がった。
闇の翼を持つ竜たち――その気配だけで、リリアの息が白く凍る。

「奴らの狙いは明白だ。
まだ弱き“転生体”を討ち、輪の継承を断つこと。
ワン太の命が潰えれば、我の魂もまたこの世に還れぬ。
それを知るがゆえ……やつらは、光そのものを絶やそうとしておるのだ。」

「……すまぬ。リリアよ。
そのために、そなたの地を巻き込み、数多の命を危険に晒したこと。この老いし龍の、千年の恥とする。」

リリアは息を呑んだ。
胸の奥がじんわりと疼き、責任と、愛しさと、わずかな怖さが一度に混じっていく。

けれどその奥で、静かに何かが息を吹き返した。
“守る”という言葉が、誰かに与えられた使命ではなく、自分自身の意思として脈打っていた。

――ザー……ッ。

言葉の途中で、空全体にざらつくような音が走った。
光の幻影が大きく揺らぎ、輪郭がノイズに飲まれていく。

「……リリ……ア……ワン……タ……ヲ…..守……れ……」

最後の一音が掠れた瞬間、空を覆っていた光が弾け、紋章が消えた。

残されたのは、ひとつの言葉――「守れ」。
リリアの胸の奥で、その響きだけが、いつまでも焼きついていた。

……次の瞬間、世界が現実を取り戻した。
眩しい風が頬を撫で、胸の奥で鼓動がふたたび強く鳴る。
その拍動の中で、リリアはようやく悟った。

(ワ、ワン太が……転生体……)

今まで黙ってじっと聞いていたブッくんが、羽音をばさばさと荒げて、声を裏返らせた。

「な、なんでそんなピンポイントで!? ワン太なんや!? よりによってマスコット枠やぞ!?」

「いや待て待て! ワン太ってそんな重要キャラやったん!? どこのシナリオ分岐やねん!!」

羽をばたつかせながら、ブッくんは半ばパニック気味に空中でぐるぐる回転した。

「ワン太、ワイより確かに強いけどな!? でもそういう話ちゃうやろ!?」

「ワン太がやられたら世界終わりって、スケール急に神話級やで!? バランス調整どうなっとんねん!!」

「……落ち着いて、ブッくん」

セラフィーが小さくため息をつきながら杖を突き立てた。
「世界の均衡より、あんたのテンションのほうが今いちばん危ういわよ。」

そう言いながらも、彼女の指先はブッくんと同じように小刻みに震えていた。
それは理屈ではなく、本当の恐怖を知っている者の震えだった。

その言葉に、場の空気がふっと静まる。
ブッくんも羽音を止め、あたりには淡い光の粒が、風に溶けるように漂っていた。

ワン太はきょとんとした顔のまま、ただ、尾の先をゆっくりと一度だけ振った。
その瞬間、瞳の奥で小さな光がきらりと跳ねた。
まるで、自分が“とんでもないもの”を託されたことなど、少しも気づいていないかのように。

ブッくんが羽を再び震わせて、ぽつりと呟いた。

「……どないな展開やねん。」

「インペリアルドラゴンの魂の半分が、ワン太に入ってて、残り半分が転生中って……
それ、宇宙戦争映画のオープニング設定やん……?」

その冗談めいた声に、誰も返す言葉を持たなかった。
風が少しだけ鳴り、雲の切れ間から差した光が、静かに彼らを包む。
まるで“世界そのものが一度、深呼吸した”かのようだった。

リリアは上空を見上げた。
そこには、まだ微かな金色の光が漂っていた。

(――守るなんて言葉じゃ足りない。
だって、あの小さな体の中に、“世界の命運”がかかっているんだ。)

胸の中に芽生えた決意が、ゆっくりと形を帯びていく。

(だけど……実際に守られてんのは、俺らなんだけどな。)

(ワン太の防御力とHP、おそらく今生きてる生物の中で最強だぞ……。)

(ドラゴンが何十匹襲ってこようが、あいつには、傷一つつけられねーよ……)

焼け焦げた風の匂いの中に、どこか懐かしい温もりが混ざっている気がした。
それは、ずっと傍にいた“命の鼓動”――ワン太の体温のようでもあった。

やがて、雲の切れ間から光が差す。
夜を押しのけるように、金色の朝日がゆっくりと昇っていった。

リリアは、腕の中のワン太を見つめた。
その小さな体から伝わる鼓動は、確かに世界と繋がっている気がした。
光がリリアの頬を照らし、ワン太の影を淡く伸ばす。
それは、風の音にも似た、“使命”の鼓動だった。
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