『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)

風間玲央

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『第二十九話 • 1: ハトポッポに絡みながら、竜の謎を語る朝に。』

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翌朝。
明け方まで続いた戦闘のせいで、朝は少し遅れて訪れた。
やわらかな陽が差し、焦げた風の残り香がかすかに漂っている。

霞の残る空の下で、リリアはまだうまく回らない頭の中を、ドーナツを片手に必死に理していた。
昨夜の出来事は夢のようで――けれど、掌に残るワン太のぬくもりだけは、確かに現実だった。

今でも、あの小さな命が世界の命運を握る“転生の核”だなんて、とても信じられない。

だけど、世界がときに冗談みたいな理屈で回っていることくらい、リリアはもう嫌というほど知っていた。
だからこそ、胸の奥のどこかで――何かが“つながり始めている”気がしてならなかった

リリアは、ふっと息を吐いた。
インペリアルドラゴン――アルカン=ルシアが言っていたことを、もう一度思い出す。

「この地に転生した我が半身……それがすなわち、ワン太だ」

その言葉が頭では理解できても、胸の奥ではまだ実感として咀嚼できずにいた。
どうしても“ぬいぐるみのワン太”のイメージが邪魔をして、現実味を帯びてこない。

(ほんとに、あのワン太が……? あのモフモフが、インペリアルドラゴンの半身……?)
(いや、考えれば考えるほどおかしい。どうして竜が、あんな姿に?)

(百歩譲って、“竜のぬいぐるみ”ならまだわかる。
でも、ワン太は犬だぞ? 犬のぬいぐるみだぞ!?
どういうことだよ、それ!?)

自分の中で考えているだけじゃ、頭がこんがらがる。
リリアは、たまらず、近くにいた鳩に話しかけていた。
「……ちょっと聞けよ、ハトポッポ」

羽をふくらませて首をかしげる鳩に向かって、リリアは半ばやけくそ気味に続けた。
もう完全に“リリア”の仮面は外れていた。
声のトーンも言葉遣いも、素の“颯太”に戻っている。

「なあ、聞いてくれよ。竜の魂がぬいぐるみに転生してたって話、どう思う?
しかも犬だぞ、犬のぬいぐるみだぞ!? ぼっぽって鳴いてる場合じゃねぇだろ!
これどういう理屈で、そんなことになるんだよ!?」

鳩は、首を傾けて「ぽっぽ」と鳴いた。
「……そうだよな。俺もわかんねぇよ。」

そう呟いたリリアは、額を押さえて空を見上げた。
世界がとんでもない法則で回ってるのは、もう知ってる。
けれど、さすがに“犬ぬいぐるみ=竜の半身”は、想定外すぎた。

「ハトポッポ、逃げずに聞けよ!」
リリアは続けた。
もう完全に、酔っ払いの絡み酒と変わらないテンションだった。

「そもそもさ、俺の魂がリリアに還ったんなら、ワン太はただのぬいぐるみに戻るはずだったんだよ。
なのにさ、気づけばあいつ――当たり前みたいな顔してドーナツ食ってんだよ。」

「しかも、街に出るたびにドーナツ屋の前でピタッと止まるんだ。
毎回だぞ? 完全に“常連客”の動きだろ?」

「“期間限定・はちみつバターリング”が出たときなんかさ、どんなに引っ張っても動かなくて。
看板をじーっと見上げたまま、買ってくれるまで絶対に動かねぇし。
あの真剣さたるや、聖剣でも抜こうとしてんのかってレベルだったんだぞ!
何者だよあいつ……お前わかるか、ハトポッポ?」

鳩は「ぽっぽ」と再び短く鳴いた。
「だよな。俺もわかんねぇ。」
リリアは、頭をかいてため息をつく。
(そもそも、命がけで選ぶもんじゃねぇしな、ドーナツは……)

「あの時は、自分の魔力にまだ反応してるだけだと思っていたけど──
今思うと、ちゃんと香りを嗅いで、もぐもぐと美味しそうに噛みしめながら食べてる姿は、それじゃあとても説明できないよな。」

「しかもあいつ、“おかわり”要求のときだけ尻尾で机をトントン叩くんだぜ。
あの律儀なリズム、もはや客というより職人の域だったよ。
意思疎通より先に“注文システム”を覚えたんじゃないかってレベルだ。」

「つか、ハトポッポ! 俺のドーナツつつくんじゃねー!!」
リリアは叫んだ。
「昼食のメニューに、焼き鳥加えちまうぞ!!」

鳩は“ぽっぽ”と鳴いて、一歩だけ下がる。
けれどその目は、まだドーナツに釘づけだった。
「……お前、命知らずだな」
リリアは苦笑して、砂糖の香りをもう一度確かめるように、軽くかじった。

「そういえば、ワン太の鉄壁の防御力で、戦闘中、何度も助けられたこともあったな……」

「俺らを庇って、火の玉が直撃したときも、煙の中から、まるで何事もなかったみたいに立ち上がってさ。
尻尾の先で、ぱちんって火の粉を払ってたんだ。
あの時、焦げ跡ひとつなくて――正直、俺、不思議に思ったんだよ」

「なぁ、ハトポッポ。普通、火の玉くらったら丸こげになるだろ?
なのに、あいつは全くの無傷だったんだぞ。
冷静に考えたら、防御力どうこうの話じゃねぇよな……物理的にありえねぇ」

鳩は困ったような顔で、小さく「クルッポー」と鳴いた。
羽が少し震え、朝の風に混じって消えていく。
その響きが、やけに遠く感じた。
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