『勇者リリアと魔王のフィアンセ』Eden Force StoriesⅣ(第四部)

風間玲央

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『第四話・5 王都、大炎上中ですけど!?』

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──鐘が鳴り止む頃、王都はすでに混乱の渦に包まれていた。

医療塔前の通りには、人、人、人。
「奇跡の生還者」「勇者リリア再臨」の噂が風よりも早く広まり、
朝の市場よりも先に報道ギルドが駆けつけていた。

魔晶灯のフラッシュが石畳を照らし、空には鳥の群れが旋回していた。
その中心に立つ少女の姿は、まるで神話の頁から抜け出してきた“光の遺子”のようだった。

「リリア様っ! 第三将討伐の真偽をお聞かせください!」

「医療塔を無断で抜け出したとの情報も!?」

「そして──“魔王軍のプリンス・レオ=ヴァナス殿下との婚約”は事実ですか!?」

「さらに、“黄金の六翼を展開し神化状態に移行した”という報告もありますが!?」

押し寄せるマイク型魔導具。
リリアは目をぱちくりさせたまま、セラフィーの後ろに隠れたその瞬間。

「――喧しい」

冷え切った、けれど確かな殺気を孕んだ声が響いた。
さっきまでフリーズしていたはずのネイルが、音もなくリリアの前に立ち、腰のナイフに手をかける。

「不敬なる羽虫ども。これ以上リリア様にその汚らわしい筒を向けるなら……まずはその舌、根こそぎ『摘出』するぞ!」

「やめろォォォ!!! 余計に大炎上するだろ!! 報道の自由をナイフで奪うな!!」

リリアが必死にネイルの襟足を掴んで引き戻す。記者たちが悲鳴を上げて一歩下がる中、リリアの肩の上では、ワン太が「こいつら、マジかよ……」と言わんばかりの、死んだ魚のような目で、狂信者と化したネイルと記者たちの乱闘寸前の空気を眺めていた。

(ワン太! お前もなんか手伝ってよ! なんでそんな『終末を見届けた賢者』みたいな目で悟り開いてんだよ!!)

「ちょ、まっ……質問が多いっ!! 一個ずつお願い!!!」

セラフィーが頭を押さえ、深くため息をつく。

「ほら出た、“婚約と神格を同列に聞く”やつ……記者の混乱が最高潮ね」

「ちょっと待って!? わたし神になったことになってるの!? どこ情報それ!? ていうか誰がそんなこと……」

セラフィーが、半眼で空を見上げたまま答える。

「リーク元、たぶん……ブッくん」

「……お前かああああ!! 身内リークが一番ややこしいやつ!!」

ブッくんは悪びれる様子もなく、ぺらりと頁をめくる。

「いやぁ~ええネタやん。“勇者、六翼を展開して復活!” ギルドでもトレンド一位やで!」

「うわあああ!! 燃えてるじゃんそれ! トレンド入りって炎上の意味だよ!?」

「……ほう、リリア様が、トレンド……」

ネイルがさらに瞳を輝かせ、ブッくんの頁をのぞき込む。

「ならば、その『トレンド』なるものを維持するため、いっそこの場でリリア様を囲むようにして記者全員を私の供物に捧げれば、より神話としての格が上がるのでは――」

「上がらねえよ!! 『勇者、王都前で惨殺事件』ってニュースに上書きされるだけだよ!!」

リリアは頭を抱え、その場にずるずると崩れ落ちた。石畳の上にへたり込み、周囲の群衆がざわつく。
両手で顔を覆いながら、半泣きで空を仰ぐ。

その横で、ワン太はもはや抗うこともやめたのか、ぬいぐるみらしい虚無の瞳で、ひらひらと舞う祝祭の花びらを一点に見つめていた。まるで「もう、勝手にしろよ」と魂で呟いているかのように。

「やめてぇぇぇ!! 勝手に神格バズらせないでぇぇぇ!!」

セラフィーが肩をすくめ、溜息をつく。

「……いっそ本当に神になってくれた方が、面倒少なそうね」

「いや! 現場で崇拝される勇者の気持ちになってみてよ!!」

リリアは両手をばたつかせながら、思わず声を張り上げた。

「“勇者リリア、ついに神へ”とか! 見出しだけで宗教戦争起きるやつだから!!」

セラフィーが苦笑して肩を竦める。

「……その自覚があるうちは、まだ人間ね」

「いやいや! 人間だから! ちょっと光っただけだから!!」

リリアは両手をぶんぶん振って叫ぶ。

(いやまあ――六翼出ちゃったのも認めるし、
レベル一瞬6666まで跳ね上がったのも事実だけどさ!?
でも今ちゃんと戻ったじゃん!! 冷却済みだよ俺!!)

セラフィーは唇の端を上げ、軽く茶化すように言った。

「でも、“ちょっと光る勇者”って響き、嫌いじゃないわ」

リリアは思わず前のめりになる。

「褒めてないよねそれ!? ねえ、褒めてないよね!?」

(あーもうこれ炎上する未来見える!!
“勇者リリア、神化バグでサーバー落とす”とかまとめられるやつ!!
運営!! パッチ当ててぇぇ!!)

――そして王都の空気は、まだ誰も知らない嵐の前触れのように、じわりとざわめき始めていた。
(※主に俺のせいで。)

だが、その「嵐」よりも早く。
扉の向こうから、冷徹な「正論」を纏った鋭い足音が、着実に近づいてきていることに、リリアはまだ気づいていなかった。
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