24 / 32
『第四話・5 王都、大炎上中ですけど!?』
しおりを挟む
──鐘が鳴り止む頃、王都はすでに混乱の渦に包まれていた。
医療塔前の通りには、人、人、人。
「奇跡の生還者」「勇者リリア再臨」の噂が風よりも早く広まり、
朝の市場よりも先に報道ギルドが駆けつけていた。
魔晶灯のフラッシュが石畳を照らし、空には鳥の群れが旋回していた。
その中心に立つ少女の姿は、まるで神話の頁から抜け出してきた“光の遺子”のようだった。
「リリア様っ! 第三将討伐の真偽をお聞かせください!」
「医療塔を無断で抜け出したとの情報も!?」
「そして──“魔王軍のプリンス・レオ=ヴァナス殿下との婚約”は事実ですか!?」
「さらに、“黄金の六翼を展開し神化状態に移行した”という報告もありますが!?」
押し寄せるマイク型魔導具。
リリアは目をぱちくりさせたまま、セラフィーの後ろに隠れたその瞬間。
「――喧しい」
冷え切った、けれど確かな殺気を孕んだ声が響いた。
さっきまでフリーズしていたはずのネイルが、音もなくリリアの前に立ち、腰のナイフに手をかける。
「不敬なる羽虫ども。これ以上リリア様にその汚らわしい筒を向けるなら……まずはその舌、根こそぎ『摘出』するぞ!」
「やめろォォォ!!! 余計に大炎上するだろ!! 報道の自由をナイフで奪うな!!」
リリアが必死にネイルの襟足を掴んで引き戻す。記者たちが悲鳴を上げて一歩下がる中、リリアの肩の上では、ワン太が「こいつら、マジかよ……」と言わんばかりの、死んだ魚のような目で、狂信者と化したネイルと記者たちの乱闘寸前の空気を眺めていた。
(ワン太! お前もなんか手伝ってよ! なんでそんな『終末を見届けた賢者』みたいな目で悟り開いてんだよ!!)
「ちょ、まっ……質問が多いっ!! 一個ずつお願い!!!」
セラフィーが頭を押さえ、深くため息をつく。
「ほら出た、“婚約と神格を同列に聞く”やつ……記者の混乱が最高潮ね」
「ちょっと待って!? わたし神になったことになってるの!? どこ情報それ!? ていうか誰がそんなこと……」
セラフィーが、半眼で空を見上げたまま答える。
「リーク元、たぶん……ブッくん」
「……お前かああああ!! 身内リークが一番ややこしいやつ!!」
ブッくんは悪びれる様子もなく、ぺらりと頁をめくる。
「いやぁ~ええネタやん。“勇者、六翼を展開して復活!” ギルドでもトレンド一位やで!」
「うわあああ!! 燃えてるじゃんそれ! トレンド入りって炎上の意味だよ!?」
「……ほう、リリア様が、トレンド……」
ネイルがさらに瞳を輝かせ、ブッくんの頁をのぞき込む。
「ならば、その『トレンド』なるものを維持するため、いっそこの場でリリア様を囲むようにして記者全員を私の供物に捧げれば、より神話としての格が上がるのでは――」
「上がらねえよ!! 『勇者、王都前で惨殺事件』ってニュースに上書きされるだけだよ!!」
リリアは頭を抱え、その場にずるずると崩れ落ちた。石畳の上にへたり込み、周囲の群衆がざわつく。
両手で顔を覆いながら、半泣きで空を仰ぐ。
その横で、ワン太はもはや抗うこともやめたのか、ぬいぐるみらしい虚無の瞳で、ひらひらと舞う祝祭の花びらを一点に見つめていた。まるで「もう、勝手にしろよ」と魂で呟いているかのように。
「やめてぇぇぇ!! 勝手に神格バズらせないでぇぇぇ!!」
セラフィーが肩をすくめ、溜息をつく。
「……いっそ本当に神になってくれた方が、面倒少なそうね」
「いや! 現場で崇拝される勇者の気持ちになってみてよ!!」
リリアは両手をばたつかせながら、思わず声を張り上げた。
「“勇者リリア、ついに神へ”とか! 見出しだけで宗教戦争起きるやつだから!!」
セラフィーが苦笑して肩を竦める。
「……その自覚があるうちは、まだ人間ね」
「いやいや! 人間だから! ちょっと光っただけだから!!」
リリアは両手をぶんぶん振って叫ぶ。
(いやまあ――六翼出ちゃったのも認めるし、
レベル一瞬6666まで跳ね上がったのも事実だけどさ!?
でも今ちゃんと戻ったじゃん!! 冷却済みだよ俺!!)
セラフィーは唇の端を上げ、軽く茶化すように言った。
「でも、“ちょっと光る勇者”って響き、嫌いじゃないわ」
リリアは思わず前のめりになる。
「褒めてないよねそれ!? ねえ、褒めてないよね!?」
(あーもうこれ炎上する未来見える!!
“勇者リリア、神化バグでサーバー落とす”とかまとめられるやつ!!
運営!! パッチ当ててぇぇ!!)
――そして王都の空気は、まだ誰も知らない嵐の前触れのように、じわりとざわめき始めていた。
(※主に俺のせいで。)
だが、その「嵐」よりも早く。
扉の向こうから、冷徹な「正論」を纏った鋭い足音が、着実に近づいてきていることに、リリアはまだ気づいていなかった。
医療塔前の通りには、人、人、人。
「奇跡の生還者」「勇者リリア再臨」の噂が風よりも早く広まり、
朝の市場よりも先に報道ギルドが駆けつけていた。
魔晶灯のフラッシュが石畳を照らし、空には鳥の群れが旋回していた。
その中心に立つ少女の姿は、まるで神話の頁から抜け出してきた“光の遺子”のようだった。
「リリア様っ! 第三将討伐の真偽をお聞かせください!」
「医療塔を無断で抜け出したとの情報も!?」
「そして──“魔王軍のプリンス・レオ=ヴァナス殿下との婚約”は事実ですか!?」
「さらに、“黄金の六翼を展開し神化状態に移行した”という報告もありますが!?」
押し寄せるマイク型魔導具。
リリアは目をぱちくりさせたまま、セラフィーの後ろに隠れたその瞬間。
「――喧しい」
冷え切った、けれど確かな殺気を孕んだ声が響いた。
さっきまでフリーズしていたはずのネイルが、音もなくリリアの前に立ち、腰のナイフに手をかける。
「不敬なる羽虫ども。これ以上リリア様にその汚らわしい筒を向けるなら……まずはその舌、根こそぎ『摘出』するぞ!」
「やめろォォォ!!! 余計に大炎上するだろ!! 報道の自由をナイフで奪うな!!」
リリアが必死にネイルの襟足を掴んで引き戻す。記者たちが悲鳴を上げて一歩下がる中、リリアの肩の上では、ワン太が「こいつら、マジかよ……」と言わんばかりの、死んだ魚のような目で、狂信者と化したネイルと記者たちの乱闘寸前の空気を眺めていた。
(ワン太! お前もなんか手伝ってよ! なんでそんな『終末を見届けた賢者』みたいな目で悟り開いてんだよ!!)
「ちょ、まっ……質問が多いっ!! 一個ずつお願い!!!」
セラフィーが頭を押さえ、深くため息をつく。
「ほら出た、“婚約と神格を同列に聞く”やつ……記者の混乱が最高潮ね」
「ちょっと待って!? わたし神になったことになってるの!? どこ情報それ!? ていうか誰がそんなこと……」
セラフィーが、半眼で空を見上げたまま答える。
「リーク元、たぶん……ブッくん」
「……お前かああああ!! 身内リークが一番ややこしいやつ!!」
ブッくんは悪びれる様子もなく、ぺらりと頁をめくる。
「いやぁ~ええネタやん。“勇者、六翼を展開して復活!” ギルドでもトレンド一位やで!」
「うわあああ!! 燃えてるじゃんそれ! トレンド入りって炎上の意味だよ!?」
「……ほう、リリア様が、トレンド……」
ネイルがさらに瞳を輝かせ、ブッくんの頁をのぞき込む。
「ならば、その『トレンド』なるものを維持するため、いっそこの場でリリア様を囲むようにして記者全員を私の供物に捧げれば、より神話としての格が上がるのでは――」
「上がらねえよ!! 『勇者、王都前で惨殺事件』ってニュースに上書きされるだけだよ!!」
リリアは頭を抱え、その場にずるずると崩れ落ちた。石畳の上にへたり込み、周囲の群衆がざわつく。
両手で顔を覆いながら、半泣きで空を仰ぐ。
その横で、ワン太はもはや抗うこともやめたのか、ぬいぐるみらしい虚無の瞳で、ひらひらと舞う祝祭の花びらを一点に見つめていた。まるで「もう、勝手にしろよ」と魂で呟いているかのように。
「やめてぇぇぇ!! 勝手に神格バズらせないでぇぇぇ!!」
セラフィーが肩をすくめ、溜息をつく。
「……いっそ本当に神になってくれた方が、面倒少なそうね」
「いや! 現場で崇拝される勇者の気持ちになってみてよ!!」
リリアは両手をばたつかせながら、思わず声を張り上げた。
「“勇者リリア、ついに神へ”とか! 見出しだけで宗教戦争起きるやつだから!!」
セラフィーが苦笑して肩を竦める。
「……その自覚があるうちは、まだ人間ね」
「いやいや! 人間だから! ちょっと光っただけだから!!」
リリアは両手をぶんぶん振って叫ぶ。
(いやまあ――六翼出ちゃったのも認めるし、
レベル一瞬6666まで跳ね上がったのも事実だけどさ!?
でも今ちゃんと戻ったじゃん!! 冷却済みだよ俺!!)
セラフィーは唇の端を上げ、軽く茶化すように言った。
「でも、“ちょっと光る勇者”って響き、嫌いじゃないわ」
リリアは思わず前のめりになる。
「褒めてないよねそれ!? ねえ、褒めてないよね!?」
(あーもうこれ炎上する未来見える!!
“勇者リリア、神化バグでサーバー落とす”とかまとめられるやつ!!
運営!! パッチ当ててぇぇ!!)
――そして王都の空気は、まだ誰も知らない嵐の前触れのように、じわりとざわめき始めていた。
(※主に俺のせいで。)
だが、その「嵐」よりも早く。
扉の向こうから、冷徹な「正論」を纏った鋭い足音が、着実に近づいてきていることに、リリアはまだ気づいていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる