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104、はじまりの巫女
しおりを挟む―…あれは……だれ?……
あの白い世界とは違う世界。
でも多分、これは現実世界とは違う空間だ……となんとなく思えた。
(私は気を失ったの?)
そう思うも確認しようがなく、恐らく時が来なければ戻れないような気もするので、諦めて今いる空間を観察した。
そうしたら、暗闇の中檻のような物に囲われて、一人膝を抱えて座る小さな女の子を見つけた。
年齢は多分五歳か六歳くらいだろうか?
黒目黒髪のこの世界ではめったに見ない色を持つ、気の強そうな女の子だ。
どうしてあんな小さな子が一人でこんなところにいるのだろうか?
格子越しに彼女に話しかけてみた。
「貴方はどうしてここにいるの?」
いきなりで驚いたらしい彼女は、しばらく目を見開いたまま声も出せない状態でいたけれど、急に堰を切ったように話し出した。
「なぜここにまた人がいるの?貴方、早くここから逃げて。ここにいたら貴方もあれに食べられてしまうわっ!もう嫌なのっ!誰かがあれに呑み込まれていくのを見るのはっ……もう嫌なのっ!だからっ……だから早くここから出て行ってっ!」
どういうことなのか?
涙目で叫ぶように逃げろと繰り返す彼女をどうにか落ち着かせる。
どうにかこの檻から出せないものか試行錯誤してみたけれど、どうにも破れず、諦めてこのまま話をすることにした。
「私は闇の巫女らしいの……もうここにどれくらいいるのか忘れてしまったし、自分の名前がどんなんだったかも分からないのだけれどね……」
見た目の年齢と話し方が釣り合わないのは、身体だけこの空間の影響を受け成長しないせいらしく、数えるのもばからしくなるくらいこの空間で、闇の精霊に憑りつかれた人々を見送っているらしい。
「こんなちんちくりんでも、きちんと淑女教育は受けていたのよ?だって私が普通に生きていた頃は、王太子殿下の婚約者に決まったばかりだったんだもの」
そう言って儚げな表情を浮かべる彼女は、ぽつぽつと自分の境遇を話してくれた。
彼女は貴族の娘だったらしい。
国の名も両親の名もすっかり忘れてしまったけれど、彼女の婚約者である王太子が呼んでくれた愛称だけは覚えているらしく、ボソッと『リズ』という名だけ教えてもらえた。
そして……ここにこうしていることになった切っ掛けも語ってくれた。
「ここは多分だけど、闇の精霊しか入れない……と思う。だって今まではずっとそうだった。暴走して私と婚約者をここに閉じ込めたの……それが始まり……」
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