地球は世界のまんなか…じゃないらしい

こひな

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友情は大事です

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インターホンを鳴らして数分…。
思わず物思いに耽ってしまったけれど…まぁ…いいだろう…うん。
 
 
それにしても、呼び出しに応答がないのだけれど…この場合は数回鳴らしてもいいのだろうか?
 
 
別に急ぎでの用事ではないので、時間的なものはいいのだけれど、なにぶん男の…男子高校生の一人暮らしだ。普通だったら…だいぶだらけていたりするだろう。
それに、不摂生だったりして体調崩したりとありそうだけれど、航太についてはそれは無いだろうと推測。
 
 
風邪でもひいたか?
そんな事を考えていたら、スマホにメッセージが入ってきた。
 
 
「ごめん。風邪ひいたみたいで、熱もあるし声も出ないので、今日の予定はキャンセルで。治ったら連絡するよ」
 
 
とまぁ、なんとも水臭いメールだった。
とりあえずどうすべきか…なんて考える事もなく、とりあえず開けろと打ち込み返信。
熱があって寝込んだ奴を放って帰るほど、友達甲斐がないオレじゃない。
最低限、メシ食わして薬飲ませて帰ろう。
おあつらえ向きに、本日の手土産はミカンだ。
少し前、八百屋に買い物に行った夏樹が、おまけで(おまけなのに)大量に貰ってきた。
なんでも…結婚のお祝いだそうだ。
 
 
風邪にはビタミンCである。
胃腸炎とかでなければな。
 
 
そうこうしている内に、玄関の鍵が開き、パジャマ姿のヨレヨレした航太が出てきた。
一応、おでこには熱を冷ますシート、マスクをして喉の保護はしている。
まぁ…基本だな。結構、マスクの重要性を知らない人が多い中で、航太は合格点の対処をしている。
 
 
「僕が風邪をひいても、誰も心配してくれないしね。せいぜい、テーブルにお金置いておいて、酷い時は病院に行ってきなさい程度だよ」
 
 
と笑えない事を言っていたのを思い出す。
今は高校生だから、ある程度自分の事は自分で出来るが、これで年齢が低かった日には、いわゆるネグレクトというものになってしまうんだろう。
 
 
ここ数年、児童虐待やネグレクトが社会問題になっているが、ようやく表面化しただけであって、事案はきっと昔からあったはずだ。
航太の場合は…こう言っちゃ不味いんだとは思うけど、多分まだ良い方だったのかもしれない。
 
 
お金を置いて行くだけまだまともよ…というのは夏樹の弁だ。
親も居ず、何日も食料がない状態で過ごし、外に助けを求められないまま、餓死寸前で見つかるというのが、この夏にも1件あったそうだ。
暑かったせいもあり、脱水症状もだいぶ進んでしまい、だいぶ危なかったと聞いた。
 
 
それに比べたら……と思いつつ、航太をベッドに寝かせ、蒸しタオルを作って汗を拭かせる。おかゆを作りつつ、冷蔵庫の中身を確認して、ふと家の中を見回す。
 
 
ざっと目に入る所だけでも、だいぶ物がないのがわかる。
 
 
家族と一緒にいても僕は一人だから…と言っていた航太。
ここにはもう未練はないのかもしれない。
体調が良くなったら、何もかも話して、一緒に行くのも良いかもしれない。
起きていられず寝てしまった航太を見て思う。
 
 
今日はとりあえず、おかゆとミカンと、手作りイオンウォーターを置いて、帰るか。
「明日またくるから」とメモを残して。
 
 
 
 
 
オレってかいがいしいかも。自画自賛だ。
そう思ったのはここだけの話だ。






航太が風邪で寝込んだ日からしばらく、夏樹と母さんに話をし、しばらく航太の家に泊まることにした。
最初は逆で、家に連れてこようかと思ったけれど、みんなに風邪が移るからと航太が拒んだこともある。
 
 
オレの家事スキルもあり、バランスのいい食事・規則正しい生活に慣れた航太は、3日程で熱が下がり、4日目にはほぼ問題なく動けるようになってた。
 
 
「カイトはいいお嫁さんになれるね~」
 
 
と言われたけど…正直、あまり嬉しくない。
オレは嫁になりたいんじゃなくて、嫁を貰うんだ!
幸いにも、夏樹は一人暮らしをしていたせいか、家事はばっちりである。
 
 
 
航太の体力も戻り、大事な話をしても、問題なさそうなので、当初の目的に戻る。
なんにしても準備期間は多くあった方がいい。
 
 
 
 
 
「なぁ、航太…この間のさ引越しの事なんだけど…」
 
 
異世界の事について、どう説明したものかと思い、とりあえず無難に話し出す。
一応ちゃんと前置きしたぞ?
頭おかしいとか思うなよ…とか、ふざけてるわけじゃない…とか言ってな。
 
 
まぁ、オレのオオカミ姿見ているし、大丈夫だとは思うけれど、
普通、この年で異世界がとか言ってたら、ちょっと引くのが普通だろ?
クラスメイトにも、厨二いたしね。
昨今のラノベブームもあって、厨二も低年齢化しつつあると言えど、高校にもいるにはいるのである。
 
 
しばらく無言で聞いていた航太。
相槌も、へぇ…とか、うん…とか短いものばかりだったけど、解ってくれたようだ。
 
 
 
「カイトと夏樹ちゃんは、こっちで育ったから、あっちの知識とかは聞いた物しかないんだろ?どうせ環境変えるなら、どこ行ったって同じだからさ。そしたら、面白いところがいいと思わない?」
 
 
そう言った航太の目は、気のせいかキラキラしていた。
世の中どうしたって、楽しい事ばかりじゃないのは航太も解っているけれど、こんな経験は普通じゃできないだろ?と言って、最初の意見を翻すことなく、異世界行きを決めた。
 
 
まぁ、本人が良いなら異存はないからな。
 
 
それと、航太には今住んでいるこの家の処分を相談された。
一人でこの家の維持管理はやっぱり大変らしい。自分一人ならもう少し手狭な所が良いんだけどね…と晴々した顔をしていたので、ばあちゃんに聞いてみる事にした。
 
 
何軒も不動産を管理しているばあちゃんなら、どこか良い所知っているだろうと思って。
家の処分が早々に決まってしまった場合は、ウチにしばらく居候すればいいと提案して。
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