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閑話.1
しおりを挟むとある少年~豚に捕まったセトの話~
お母さんのお使いで露天商に買い物にでかけた。その帰り道に近道を使ったんだ。
お母さんからは近道の周りは危ないから通っちゃダメだって言われてたけど、今まで危ないことなんてなかったし、いつも使っている道だから、何も思わずに通ってたんだ。
そうしたら後ろからいきなり真っ暗なったんだ。あとで目隠しされて大きな袋にいれたんだろうなって分かったけど、理解したところで遅すぎた。
開放されたときには立派な部屋の中にいて、他にも僕とあまり歳の変わらない子達がいた。
いきなり知らない場所に連れてこられて驚いて固まってしまった。気がついたときは後ろのドアが閉まる音で正気に戻った。
突然のことでどうしたらいいかわからないし、知らない場所、知らない人たちしかいない、そんな心細さから不安で涙が溢れてきてしまって号泣してしまった。
誰かわからないけど、僕と体格が変わらないのに、僕を抱きしめて、ゆっくりと背中とか頭を撫でてくれる子がいた。
その子の名前はニールくんっていうらしい。僕より少し大きいけど、話は大人の人としている気分になる。ちょっとちぐはぐな子だった。
ここは貴族様の屋敷で、部屋で、貴族様を慰めるために集められた子達の場所だっていうことしかわからなかった。
ただ、貴族様を慰めることは辛くて、しんどくて、痛い。優しくしてくれることもあるけど、無茶苦茶にされる時もあるし、慰めろと命令されるときは体がおかしくなる。
本当はしたくないのに、刺激が欲しくてたまらなくて、自分が壊れていくのがわかるんだ。
ニールくんは体がおかしくなるのはいけない薬のせいなんだって教えてくれた。自分の体が分からなくなって信じられなくなっていたんだけど、ニールくんのおかげで自分のせいじゃないんだってわかってほっと安心した。
ある時、ニールくんはしんどそうに横たわっている子の前でぶつぶつと呟いているとこを見てしまった。よく聞き取れなかったけど、
『どうしてこんな幼気な子にまで手を出したりするの?!本当に最低なやつ。早いところどうにかしないと本当に壊されてしまう!』
ニールくんはここの一番偉い人にお気に入りらしい。だからニールくんだけ他の子と違ってちょこっとだけ優しくしてもらっているところがある。
それが気に入らないと文句を言っている子もいた。
ニールくんの呟きを一緒に聞いたのがその文句を言っていた子だからそのあとは大変だった。
いけない薬を使われた時には必ず、ニールくんがおいしいジュースを作ってみんなに配っていた。
僕と一緒にニールくんの呟きを聞いた子がニールくんのジュースにも体がおかしくなるものが入ってるんじゃないかって、言い始めたんだ。
ニールくんは貴族様にいつまでもお気に入りでいるために、他の子に意地悪するんだって。
酷い言葉をたくさん言われたのに、ニールくんは怒ることはしなかった。ただ、悲しそうに周りの子を見ていたんだ。
『うん。ごめんね、君たちも辛いよね。僕のことは嫌いのままでいい。でもこのジュースのことだけは信じてほしい。このジュースには体に溜まったいけない薬をやっつけるものなんだ。体に悪いものじゃないからね。』
そういうと手に持っていたジュースを一気に飲み干した。
『ほら、僕の体には何にも起こらない。毒じゃない体に優しいジュースだから、しんどそうにしている子達に飲ませてもいいかな?』
ニールくんは周りにいる子達にも聞くように辺りを見渡していた。
みんなが反応に困って黙っていると、ニールくんはゆっくりと横たわっている子に手を添えてゆっくりとジュースを飲ませてあげていた。
ジュースの美味しさも手伝ってかその子はジュースを全部飲んだ。そのままその子は寝てしまったんだけど、一時間もしないうちに穏やかな表情になって、呼吸も落ち着いてきたのがみんな分かった。
それ以降、ニールくんは悪い子じゃなくていい子なんだってみんなに伝わって、どんどん仲良くなっていったんだ。
それだけじゃなくて、大人達の目を盗んでいろんな遊びを教えてくれた。
かくれんぼ、静かな鬼ごっこ、宝物探し、他にも色々と。最初はちょっと変わった面白い遊びだと思ったけど、大人達の目をごまかせることもできるようになったし、慰めろと命令されることも少なくなった。
それに気がついた子からどんどん真面目に遊ぶようになって最後の方では大人の訓練みたいだねって言い合ってたんだ。
薬を使われすぎるとジュースだけじゃ治らなくなってくる子もいる。そういう子はまた他の貴族様にあげちゃうんだって。
どんな人かわからないから怖い。まだニールくんや他の子がいるここの方がまだ安心する。
でもニールくんは行き先を知っているらしく不安な顔をしていた。その顔をみていいところじゃないんだってわかってしまった。
『ねぇセト、お願いがあるんだ。明日、あの子が連れて行かれちゃうから行き先を変えたいんだ。ちょっとこの部屋を出るからセトには僕は先に寝たって誰かに聞かれたらそう答えてくれる?これはスパイごっこの続きだよ。』
『スパイゲーム!やる!ボス、ここは自分に任せてください!』
『よし、セト隊員!そのイキだ!ただし、これは極秘ミッション、内密に頼むぞ。普段通りにしていたら、セト隊員は優秀だからバレない!』
極秘ミッションとか、秘密とか、楽しいよね!興奮するとみんなにばれちゃうから深呼吸して落ち着く。大人達にばれないように、周りのみんなにもばれないように、慎重になって潜入ごっこをずっとしてたんだ。
結局誰にも気づかれることなく、ニールくんの帰りを待ってたらいつの間にか寝ちゃってた。
朝、目が覚めると隣にニールくんが寝てて安心した。どうやらミッションコンプリートのようだ。
ニールくんもすぐに目を覚ましてピースをくれたから嬉しくて朝から二人でクスクスと笑っちゃったこともあった。
辛いことがたくさんあった屋敷での生活だったけど、その中にはニールくんの助けがいっぱいあることをみんな分からなくても感じることができていた。
だってニールくんの遊びの中にはそういう遊びもあったから。なんで、成長していることには気付いてくれるのに、ニールくんのことはバレてないって思うのか不思議だったけど、みんなでいつ気が付くか待ってみようって話をしたんだ。
ニールくんが僕たちにそう教えてくれたから。
++++++++++
とある学園教師~リーベルト・シュルツの話~
スパイごっこしたときに助け出した子は有名な学園の先生が保護したという話だ。
薬漬けになって反応なくなった子供はもっとタチの悪い輩に売り払われる。場末の娼館だったりに売り払われることもある。
ニヴェンはどうにか助けようと手を尽くした結果、リーベルトに丸投げということになってしまった。
豚子爵からくすねたお金をリーベルトに匿名で送る。その中に子供が受け渡される場所を示し、穏便にお金で解決してもらう。
騎士や暴力沙汰になるとニヴェンの計画も失敗に終わってしまうから。
子供をお金でやり取りするなんて、正義感の強いリーベルトには苦行だった。
ある日夜中にそろそろ寝ようか支度をしていたとき、ドアから何かぶつかる音がした。
剣を手に持ち警戒しながら外を確認するが不審な人影は見当たらない。そっとドアを開けるとジャリっと重い音と共に、ドアに抵抗がかかる。
ドアの向こう側を覗き込むと地面に皮袋が置かれてある。中を見てみると硬貨がたくさん入っている。
ぎょっと驚くとともに当たりを素早く見渡すが、やはりいつもの景色と変わらない。
警備隊に預けに行かないといけないよな、と思いながら中を再確認すると紙がコインに埋まり、端が見えた。
紙を見ると手紙のようだ。
名前は書いていないが、この近所で子供の違法取引が行われるようだ。それも今日。
騎士など、専門家にお願いした方が良いのではないかと思うが、手紙の送り主は潜入調査のため身動きが取れず、騎士団は大事になってしまい、潜入調査が失敗する可能性があるため、一般市民の一人である自分に頼むこととしたと説明されていた。
手紙の送り主もリーベルトを巻き込むことを心苦しく思うが、リーベルトほど信用のある人物がいないため協力してほしいと言われてしまえば、受けないわけにはいかない。
保護するために穏便に金銭での解決を求められたというわけだ。
正直半信半疑だったが記載されていた場所に行くと本当に男が現れた。子供はどうやら大きい袋に入られており、まるで本物の荷物のように扱われている現場を見て、今まで感じたことのない怒りが込み上げてきたが、まずは子供の保護が最優先だと冷静を装う。
男は馬鹿なようでリーベルトの怒りに気が付かず、お金を受け取るとさっさと帰っていった。
子供は虚な目をして様子がおかしい。とりあえずリーベルトの家に連れて帰り、ベッドに運ぶ。
コインと一緒に入っていた手紙にはこの子は違法薬物、強力な媚薬のせいで意識が混濁しているらしい。廃人になる一歩手前の状態。
解毒薬の作り方まで丁寧に手紙に書いてあった。幸いにも解毒薬を作るためのアイテムなら揃っている。作り方も比較的簡単で、むしろ、こんなに簡単に作れてしまっても大丈夫なのだろうかと心配するほどだ。
違法取引も子供も現実だったため、手紙に書いていることを信じて解毒薬を作り、子供になんとか飲んでもらう。これを一週間は続けなければいけないらしい。しかし今は学園も長期休暇に入っているためリーベルトも急ぎの仕事はない。
手紙の送り主はこういうことも見越して依頼してきたのだろうか?
謎は深まるばかりだが、いくら考えても分からない潜入調査員のことは放っておく。
今は目の前で何も反応を示してくれない、痛々しい子供を助けることが大切だ。
子供にこんなひどいことをする輩を早く捕まえてくれと祈りながら、リーベルトは付きっきりで子供の世話をするのだった。
応援ありがとうございます!
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