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交流編

(78)とある裏側①

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~ノーヴァ目線~


ー二日前ー


 サーヤが、最近部屋から出てこない。
 事件の後片付けも終わって気づいたけど、どうやら団長曰く部屋の中で本を読んでいるらしい。

 …………大丈夫かな、サーヤ。

 そういえば、この前サーヤと一緒にお菓子作るの約束した。
 いろいろあって忘れてたけど、サーヤを元気づけたいし一緒にできないかな?


「ラーグ」
「…………なんだ」


 厨房に行ってラーグに声をかければ、作業をしていたラーグは作業を止めてこちらを嫌そうに見た。

 うん、あいかわらずだ。

 別に、ラーグの態度に気を悪くするものはこの騎士団内にはいない。
 ラーグの過去的に他者不信になってもおかしくないから。

 実際は、少しは心を開いてくれているとは思う。
 こうして、同じ空間の中にいることができているし。


「厨房、貸してくれない?」
「………………」
「ラーグ、言ってくれないとわかんない」


 黙り込むラーグにそう言えば、雰囲気が少しずつ嫌悪に歪んでいっていることに気が付く。
 ラーグは、俺と同じで表情をあまり表に出さない。
 ジョゼフも、俺も、他の騎士もだいたいラーグの雰囲気で心情を察する。

 ラーグが、嫌そうな反応を示したのは何となく理解できた。
 あいつ、信用できない相手が厨房に入られるの凄く嫌がるし。


「………………嫌だ」
「お願い」


 だからと言って、俺の方もそう簡単には引けないんだよね。
 大好きなサーヤとお菓子のためにも。

 何より…………サーヤと関わればラーグのためにもなる。
 ラーグも、団長と同じように『混血』であることを気にしている。

 でもサーヤはそういうことを気にしないし、何より俺達にはない視点で物事を見ている。


「…………何故だ?」
「サーヤとお菓子作りたいから」
「………………子供に作れる菓子はないぞ」
「サーヤ、知ってるって言った」


 ラーグにそう言えば、嫌悪に歪んでいた雰囲気が殺気に変わった。
 思わずかまえると、あいつは殺意に濡れた瞳で俺を睨んできた。

 …………サーヤがうそをついていると思っているのだろうか。
 まあ、確かに子供が作れるお菓子なんて存在しない。

 でもサーヤの反応からして、あの子は噓をついていない。


「…………嘘だろ」
「嘘じゃないよ。俺が聞いたからね」


 予想通りの言葉を言ったあいつにそう言えば、ラーグから殺意が消えて驚きの雰囲気を浮かべていた。

 あと少し。
 ラーグが、サーヤに興味を持たせれば俺の勝ち。

 でも、そこが難しい。
 ラーグは、子供が大嫌い。
 まあ、ラーグの過去を考えれば仕方がない。

 でも、サーヤは子供らしいかと言えば全く子供らしくない。
 子供の姿をした大人。
 少なくとも、ラーグの記憶の中にある子供たちとは全く違う反応を示すだろう。


「……………………【混血蔑視】の思想を持っているか探れ」
「は?」
「……………………条件だ。…………なぜ対価なしに、嫌いな子供を入れなければいけない」
「わかった」


 ラーグの言葉を聞いて俺は純粋に心の中でガッツポーズをしたけど、対価の話で気分が降下した。
 だって、『思想を持っているか探れ』っていう対価ははっきり言ってかなりきつい。

 サーヤを見てきて思ったけど、サーヤは差別とかそういうものが大嫌いなんだろう。
 前に【混血蔑視】の歴史について書かれた本を読んで、「生ゴミを煮詰めたような糞な内容ね」って呟いていたの聞こえたし。
 その時のサーヤ、すごく怖かった。

 なんだろうね。
 俺達に対してのいつも純粋に信頼している目じゃなくて、道端に落ちているゴミを見るような目だったよ。

 でもそれを隣で聞いていたセレスと副団長はすごく頷いていたし、団長はすごく複雑そうな表情を浮かべていた。
 まあ、確かにあの本は嫌いだ。
 事実あった事だから一応おいている本だけど、はっきり言って団長が大好きな俺達としては見ているだけで気分が悪くなる。

 さて、そんなサーヤに【混血蔑視】の思想を持っているか探るんだ。

 ものすごく、機嫌を損ねるだろう。
 もしかしたら、お菓子の作り方を教えるのを断られるかもしれない。

 いや、でもサーヤは約束とかはしっかりと守る子だし。
 …………やっぱり、教わるんなら気持ちよく教わりたいなぁ。


「その代わり、サーヤが怒ったらラーグが謝ってよ」
「………………怒るわけないだろ」


 呆れたように俺を見るあいつの反応に何も言えなかった。

 高確率で怒るから言ってるんだけど。
 サーヤって、絶対に怒ったら普段の大人しさがどこかに行くタイプだよ。



 …………はぁ、すごく怖いなぁ。
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