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交流編

(114)終わりを飾るは赤き花

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~目線なし~


 灰色の壁。壁から伸びた鎖。
 その鎖は、一人の男の手首に繋がっていた。


「何が駄目だったんだ? …………全く話が違うじゃないか」


 小さな声でブツブツと呟き、俯いている男。
 
 騎士団の牢の中には、王子の命を狙い結果的には失敗した暗殺者たちがつながれていた。
 広い一つの部屋に二・三人がつながれている中、どこか恐ろしい気配を感じて暗殺者たちは顔をあげる。

 そこには、二人の男が立っていた。

 隣にいた暗殺者が何かを叫ぶ。
 いや、叫んだはずだった。
 声は、出されなかった。

 何故かって?

 隣にいた暗殺者の首が転がり、その瞬間赤くて温かな液体が周りに飛び散っていたから。


「赤ほど、美しいものはないと思うのですよ」


 赤く染まった武器をうっとりとした表情で見ながら呟く背の高い男。
 どんな姿なのかは、わからない。
 全体的にボヤっとして、気配だけがそこにいるような存在。

 そんな男の存在が、暗殺者たちの心に恐怖心を植え付ける。


「美しく、妖しい色。それと共に暖かさすらも感じる色。ねぇ、貴方もそのように思いませんか?」
「えー、俺どーでもいー」
「まったく…………」


 うっとりとした高身長の男は隣にいる一人の少年に話しかけるが、少年は退屈そうにするだけだった。
 そんな少年の反応に、男はため息を吐く。

 少年が顔を向けるたび、その先にいる暗殺者たちは震える。
 そしてその反応を見るたび、少年は心底愉快だと言いたげに歪んだ笑みを浮かべる。


「ねぇ、貴方も黙っていないで何か言ってはどうです?」
「ひっ」


 少年に悪態をついていた男は、目の前で震えている暗殺者に顔を向ける。

 暗殺者は、男の姿が見えなかった。
 だが、その声と視線で何となく自分に聞かれていることに気づいた。
 それと同時に、首がなくなった仲間を見て間違えれば次は自分だと考える。

 暗殺者は、震える体を気合いで抑え笑顔を浮かべる。


「お、俺もそう思う! 赤はいい色だな!」
「ええ、ええ。そうでしょう」


 上ずった声音でそう言えば、帰ってくれるのはとても嬉しそうな声だった。

 勝った!
 俺は、死なない。

 男の反応を見て、暗殺者は自身の安全を確信した。

 この調子でなんとかすれば、きっと自分は安全だ。

 そう思った瞬間、スパンッという軽やかな音とゴトリという何か重い物が落ちる音が室内に響く。


「…………え?」


 何が起こった?
 何が落ちた?

 そう思った瞬間、暗殺者を襲ったのは言葉では言い表せないような痛みと熱さだった。

 痛みにもだえ苦しみ、慌てて痛む部分を見ればあるはずの腕が一本なくなっていた。


「**#***?***!!」
「あはっ、何て言ってるのかわかんね~」


 叫び声をあげる暗殺者に、反対方向にいたもう一人の生き残りを殺した少年が愉快そうな声音で言う。

 対して、暗殺者の腕を落とした男は暗殺者の声が煩わしいのか苛立った雰囲気を纏っている。


「ああ、せっかく美しい赤に染まったと言うのに…………そのような美しくない叫び声では美しさが半減してしまいます」
「え~、そーかなー? でも、顔は面白いじゃん」
「わかっていませんね。あのような悲鳴、まったくもって美しくありません」
「ふーん…………ありゃ、もう動かなくなった」


 型や苛立った声で、片や愉快そうな声音で話す男と少年。
 一つ言えることは、明らかにこの状況下で話しているような声音ではないということ。

 だが、それを指摘できる者は何処にもいなかった。
 本来ここに繋がれていたはずの犯罪者たちは、全員この二人によって絶命していたからだ。

 噎せ返るような血の匂いが漂う部屋の中で、二人はまるでお茶会で愚痴を言い合うように話す。


「何処かにいないのでしょうか…………美しくて白い肌を持ったレディは」
「白ー?」
「ええ、そうですよ。白ほど、赤にはえる色はありません。何より、白色が染まっていくところってとても興奮しません?」


 ため息を吐きながら言う男に、首をかしげながら聞き返す少年。

 少年は、男の感性が理解できていなかったようだった。
 ただ、その声音から男に対して興味があったから一緒にいるようにも思える。

 そんな少年の反応を気にしていないのか、男はどこかうっとりとした声で話す。


「俺には、一生わからねーわ。あ、でもチビちゃんも白かったっけ?」
「チビちゃんと言うと、貴方に目をつけられてしまった憐れなリトルレディの事でしょう?」


 少年の言葉に、男は憐みの声音で言う。

 実際、男にとってもこの少年の感性が理解できていなかった。
 ただただ、自身と同じ立場で自身を恐れずについてくる少年のことを一応気に入ってはいた。

 時々、生意気な言葉に殺意が沸くが。


「えー、ひどくね?」
「だって、事実でしょうし。ああ、でも白い肌と言うのは興味がありますね」
「は、チビちゃんは俺のだし」


 心が良そうに言う少年だが、男はそれを無視して少年のとある情報に興味を持つ。

 白い肌を赤色で染めたい。
 殺人すらも一種の芸術と言ってしまう男の興味をくすぐる情報だ。

 そんな男の興味を持ったような反応に、少年は不機嫌なのを隠さずに言う。


「おや、リトルレディはまだ誰の所有物でもないでしょう?」
「……………………うっざ」
「まあ、いいです。私は私で自由に動くので、貴方も自由にすればいいでしょう。私は、新たな作品の材料を探すのに忙しいので」




 そう言いながら姿を消した男に、少年は呆れたような声音で呟いた。





「え~…………











ジャックちゃん自由すぎね?」



 そんな言葉を最後に、少年は姿を消した。

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