31 / 141
第31話 巫女かく語りき
しおりを挟む
「よお、遅かったな……って、なんか人増えてねぇか!?」
地下から出てくるなり、近くにいたマルコが声をかけてきた。
ビトラを見て、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ああ、この子は砦の地下に幽閉されていてな。助け出した」
「マジか。まさか、あの大破壊の中生き延びたのがいたとはな。嬢ちゃん、運が良かったな」
マルコの近くには、セバスとケリイもいる。
ケリイはまだ目覚めていないな。
あれだけの魔術をぶっ放した直後だからな。当然か。
他の冒険者たちも、砦跡の近くに移動してきているようだ。
周りを見回してみれば、マルコ組だけじゃなく、女神組をはじめ他の冒険者たちも驚いたような顔でこっちに注目している。
「む。ふぉふぉにふぁしょーへんはははふはふふふ」
「口に食い物を入れたまましゃべると何言ってるかわからんぞ」
「……む。ここには挑戦者がたくさんいる」
ビトラがほおばっていたゲイザーの串焼きとニーズヘッグのローストをごくんと呑み込むと、言い直した。
言い直しつつ、俺の服の端をぎゅっと握るビトラ。
その小さな手が、ほんの少しだが震えていることを俺は見逃さなかった。
なんだよ今さら。
確かに『挑戦者』は魔王候補だ。
だがお前、さっき与える覚悟があるって言ったんじゃなかったか?
と、ここで煽るのは、さすがに鬼畜が過ぎるな。
「大丈夫だ。もうお前の分は消滅してる。さっき、言ったろ?」
「む。忘れていたわけではない」
だがその言葉を聞いて安心したのか、服を握る彼女の手が緩まった。
「挑戦者ぁ? なんだそれ」
マルコが怪訝な顔になった。
「なんだなんだ? 女の子が地下に捕まってたのか?」
「お、誰だその子。こりゃまた、ずいぶんと可愛らしい子じゃねーか」
と、その様子を遠巻きに眺めていた女神組やらその他の冒険者が、ぞろぞろと俺たちのもとに集まってきた。
口々に、質問を浴びせてくる。
「ふ。美しいお嬢さん。私の名は――」
「ああ、この子はな」
空気の読めないキラキラ野郎は容赦なくインターセプトしつつ、とりあえず砦の地下であったことを簡単に説明してやる。
砦の地下にペッコの本体が巣くっていたが、発見してすぐに死んだこと。
ビトラという少女が、この地下に『幽閉』されていたので助け出した、ということ。
一応、『挑戦者』というのは彼女の中では冒険者のことだとも言っておいた。
もちろん面倒なので彼女が魔力核の中で眠っていてペッコの養分にされていたっぽいこととか、パレルモとは別の『魔王の巫女』らしいことは伏せている。
この辺は、俺とパレルモ以外が今知るべき情報じゃないからな。
ちなみにビトラは地上に出てくる直前に姿を変え、今は緑肌ではなく、普通の人間の姿だ。もちろんちゃんと服も着ている。
ビトラは見た目どおりに、植物に関する魔術を使うらしい。
俺が彼女に、地上に冒険者たちがたくさんいることを伝えると、すぐさまツタのような細長い植物を喚び出し、あっという間にローブを編み上げてしまった。
人間の姿なのは、俺の提案だな。
緑肌で植物のような髪の彼女を冒険者連中の面前に晒すのは、説明が少々面倒だし。
彼女に寄生していた(?)ペッコの能力から変身能力があるんじゃないかと踏んで提案してみたら、あっさり人間の姿に変化した。
人間の姿でも、相変わらずの無表情だが。
そんな感じで、ビトラは俺に言うことに素直に従ってくれている。
彼女は、例の首輪がケリイの攻撃でペッコもろとも消滅したことを聞いたあと、俺についてくると言い出した。
……まあ、そうだろうな。
さっきの彼女の話が本当ならば、その選択肢しかないと思う。
なにしろ、魔王の俺に、その巫女のパレルモが一緒にいるわけだから。
俺は地下で聞いたことを思い返す。
胸くそ悪い、魔王と巫女の関係を。
◇
「挑戦者は神器に選別され、魔王の力のまず半分を与えられる。
力を得た魔王は側にいる生け贄たる巫女を喰らう。
そうして巫女の蓄えた生命力や能力などをすべてその身体に取り込み、そこではじめて、完全な魔王としての機能を全うする。
そして、それが巫女にとっての最上の悦びであり、覚悟。
だから、巫女パレルモを食べずにいるライノを、不思議と言った」
「それは、食い物という意味での、食べる、だよな? 捕食する、とか」
俺はまだヒリヒリする頬をさすりながらも、ビトラに確認する。
ちなみにパレルモはまだ顔が真っ赤だ。
ずっと地面を見ているばかりで、こっちに目を合わせてくれない。
ビトラの話す調子に合わせてノリで聞いてしまったが、さすがにパレルモには早すぎたジョークだったようだ。
しかし、悦びって……文字通りムシャムシャ食われるってことが?
俺の感覚じゃ、少なくとも俺が言った意味の方が正しそうな気がするが。
だが、ビトラは首肯したのち、口を開いた。
「……む。ただし、魔王によってその手段はさまざま、と記憶している。
さっきライノが言ったような方法で巫女の力を得る魔王もいる。
精気を吸い取り、身体は廃棄すると。
でも、私の『怠惰』やライノの『貪食』はそうではない」
……マジか。
つーか、魔王はやっぱ魔王だな。
力を得る方法がエグい。
だが、さすがの俺でもパレルモに対して『食欲』を抱いたことなんてないぞ。
というかそもそも、人間を食うという概念がない。魔物は食うがな。
とはいえ、仮に人型の魔物を仕留めたとしても、さすがに食いたいと思わない。
つーか今はむしろ、俺がパレルモを食わせてる立場なんだが……
……そんな感じで、ビトラは自分が知っていることをいろいろと教えてくれた。
彼女の話おおまかにをまとめると、
ひとつ、魔王は神器とかいうモノに選別され、力を得た存在である。
ひとつ、魔王は巫女を喰らい、完全体となる。
ひとつ、完全体となった魔王は本能のまま世界を滅ぼし、次の世界を創造する。
ということらしい。
ちなみに神器は俺の持つ包丁やペッコの首輪など、一見してそうと分からない、日用品の形を取っていることが多いらしい。
とはいえ、祭壇に祀られていたらバレバレだと思うがな。
そしてこれが重要なことなんだが、魔王は俺以外にも存在する。
ペッコは神を自称していたが、まあ『怠惰』の力を有する魔王だったということだ。
能力としては、植物や植物系の魔物を操る、とかそういった感じだろうか。
もっとも、ビトラが言うにはアレは不完全な存在だということらしいが。
完全体の魔王は理性というものが存在しないし、そもそも人の身で倒せるようなモノではないとのことだった。
「つーかパレルモ。お前、この話知らなかったのか?」
「んんっ!? ……魔王ってすごいね! でも私はおいしくないよ? ホントだよ?」
「食うか! つーかお前が俺のメシを食い倒す側だろうが!」
「えへへ」
「えへへ、じゃねーよ……」
ダメだこりゃ。
そもそも話を聞いちゃいねーよこの子は。
とりあえずパレルモの機嫌が回復したものの、この辺の事情を全然知らないらしい。
とはいえ、挑戦者なり魔王の力なりについての知識があることは、初対面のときに確認済みだ。
「全ての巫女が全てを知っているとは限らない。知識の量は、人それぞれ」
ビトラがパレルモのフォローをしてくれたが、完全に基礎知識っぽい話じゃねーか。
まあ、パレルモを見て、ビトラも心なしかあきれた表情をした気がする。
彼女が特別アホなだけなのかも知れない。
まあ、それはそれで別に構わないが……
しかし。
ビトラの話を聞く限り、間違っても魔王の完全体なんかになりたくないな。
理性も何もかも吹っ飛ばして、世界を蹂躙する?
さすがにそれはゴメンだ。
で、それを防ぐ方法はつまるところ、
「巫女を食べなければ俺は俺のままだということなんだな?」
「……む、肯定。でも、それは本来ありえないこと。
なぜなら、魔王の力を得た者は猛烈な飢餓感を感じるはず。
それは抗いようのないもの。だから、近くにいる巫女を食べずにはいられない。
私を取り込んでいた者も、同じだったはず」
ペッコの話はよく分からんな。
奴は割と理性を保っていたように見えたが。
魔力核化したビトラを中途半端な状態で取り込んでいたせいで、完全体に変化するのを免れた、とか?
まあ、ヤツのことはどうでもいいな。
ちなみにビトラは昔は普通に巫女として遺跡を管理していたらしいが、ある日を境にぱたりと挑戦者が来なくなったので、ヒマをもてあました挙句、自ら魔力結晶化して惰眠を貪ることにしたらしい。
で、気がついたら俺たちが目の前にいた、と。
なんとも『怠惰』の巫女らしいダラけっぷりだ。
もっとも、そのダラけっぷりのお陰でいまここで俺たちと話をしていると考えれば、何が良い方向に転ぶかは分からない。
「ところで、ライノ。私の神器は今、どこ。気配がない」
「ん? ああ、首輪のコトかあれなら消滅したぞ、多分。俺……の眷属がペッコもろとも吹っ飛ばした」
「消滅?」
ビトラの眠そうな目が、一瞬だけ開き、またすぐ元に戻る。
「ああ。この目で確かに見た」
「……ライノは嘘をついていない。どこを探っても、神器の気配を感じられない。この世界から、完全に消えている」
そう言って、ビトラは長い息を吐きだした。
まるで安堵したように、肩の荷が降りたかのように。
まあ、覚悟だなんだって言ったって、食われたくないよな、普通。
そしてビトラが言葉を継ぐ。
「神器を失ったはぐれ巫女は、他の理性なき魔王の糧とされる運命。だから……意思ある魔王であるライノが私を拾い、その責任を取るべき」
おいおい、ずいぶんと殺伐とした仕様だなそれ。
「巫女を糧とした魔王はさらに力を得て、世界に滅びをもたらす。それはきっと、ライノの望むところではない。だからライノは、私を拾うべき。そしてさきほどのご馳走をたくさん与えるべき」
確かに世界が滅びるのは困るが、途中から自分を拾って貰う趣旨が変わってきていやしませんかね、ビトラさん?
というか、俺のメシ食いたいだけだよねそれ?
「ライノは……私を拾うのは、イヤか?」
なんとも言えず黙っていると、ビトラの蔦髪がなんかシュンってなった。
顔の方は相変わらずの無表情だが。
……はあ。
まあ、別にもう一人くらい食わせるのは問題ないだろ。
巫女なら、魔物狩りの戦力にもなるだろうし。
「仕方ないな。そのかわり、食材調達のためキリキリ働いて貰うからな」
というわけで、『怠惰の巫女』ことビトラが俺たちの仲間(?)になった。
地下から出てくるなり、近くにいたマルコが声をかけてきた。
ビトラを見て、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ああ、この子は砦の地下に幽閉されていてな。助け出した」
「マジか。まさか、あの大破壊の中生き延びたのがいたとはな。嬢ちゃん、運が良かったな」
マルコの近くには、セバスとケリイもいる。
ケリイはまだ目覚めていないな。
あれだけの魔術をぶっ放した直後だからな。当然か。
他の冒険者たちも、砦跡の近くに移動してきているようだ。
周りを見回してみれば、マルコ組だけじゃなく、女神組をはじめ他の冒険者たちも驚いたような顔でこっちに注目している。
「む。ふぉふぉにふぁしょーへんはははふはふふふ」
「口に食い物を入れたまましゃべると何言ってるかわからんぞ」
「……む。ここには挑戦者がたくさんいる」
ビトラがほおばっていたゲイザーの串焼きとニーズヘッグのローストをごくんと呑み込むと、言い直した。
言い直しつつ、俺の服の端をぎゅっと握るビトラ。
その小さな手が、ほんの少しだが震えていることを俺は見逃さなかった。
なんだよ今さら。
確かに『挑戦者』は魔王候補だ。
だがお前、さっき与える覚悟があるって言ったんじゃなかったか?
と、ここで煽るのは、さすがに鬼畜が過ぎるな。
「大丈夫だ。もうお前の分は消滅してる。さっき、言ったろ?」
「む。忘れていたわけではない」
だがその言葉を聞いて安心したのか、服を握る彼女の手が緩まった。
「挑戦者ぁ? なんだそれ」
マルコが怪訝な顔になった。
「なんだなんだ? 女の子が地下に捕まってたのか?」
「お、誰だその子。こりゃまた、ずいぶんと可愛らしい子じゃねーか」
と、その様子を遠巻きに眺めていた女神組やらその他の冒険者が、ぞろぞろと俺たちのもとに集まってきた。
口々に、質問を浴びせてくる。
「ふ。美しいお嬢さん。私の名は――」
「ああ、この子はな」
空気の読めないキラキラ野郎は容赦なくインターセプトしつつ、とりあえず砦の地下であったことを簡単に説明してやる。
砦の地下にペッコの本体が巣くっていたが、発見してすぐに死んだこと。
ビトラという少女が、この地下に『幽閉』されていたので助け出した、ということ。
一応、『挑戦者』というのは彼女の中では冒険者のことだとも言っておいた。
もちろん面倒なので彼女が魔力核の中で眠っていてペッコの養分にされていたっぽいこととか、パレルモとは別の『魔王の巫女』らしいことは伏せている。
この辺は、俺とパレルモ以外が今知るべき情報じゃないからな。
ちなみにビトラは地上に出てくる直前に姿を変え、今は緑肌ではなく、普通の人間の姿だ。もちろんちゃんと服も着ている。
ビトラは見た目どおりに、植物に関する魔術を使うらしい。
俺が彼女に、地上に冒険者たちがたくさんいることを伝えると、すぐさまツタのような細長い植物を喚び出し、あっという間にローブを編み上げてしまった。
人間の姿なのは、俺の提案だな。
緑肌で植物のような髪の彼女を冒険者連中の面前に晒すのは、説明が少々面倒だし。
彼女に寄生していた(?)ペッコの能力から変身能力があるんじゃないかと踏んで提案してみたら、あっさり人間の姿に変化した。
人間の姿でも、相変わらずの無表情だが。
そんな感じで、ビトラは俺に言うことに素直に従ってくれている。
彼女は、例の首輪がケリイの攻撃でペッコもろとも消滅したことを聞いたあと、俺についてくると言い出した。
……まあ、そうだろうな。
さっきの彼女の話が本当ならば、その選択肢しかないと思う。
なにしろ、魔王の俺に、その巫女のパレルモが一緒にいるわけだから。
俺は地下で聞いたことを思い返す。
胸くそ悪い、魔王と巫女の関係を。
◇
「挑戦者は神器に選別され、魔王の力のまず半分を与えられる。
力を得た魔王は側にいる生け贄たる巫女を喰らう。
そうして巫女の蓄えた生命力や能力などをすべてその身体に取り込み、そこではじめて、完全な魔王としての機能を全うする。
そして、それが巫女にとっての最上の悦びであり、覚悟。
だから、巫女パレルモを食べずにいるライノを、不思議と言った」
「それは、食い物という意味での、食べる、だよな? 捕食する、とか」
俺はまだヒリヒリする頬をさすりながらも、ビトラに確認する。
ちなみにパレルモはまだ顔が真っ赤だ。
ずっと地面を見ているばかりで、こっちに目を合わせてくれない。
ビトラの話す調子に合わせてノリで聞いてしまったが、さすがにパレルモには早すぎたジョークだったようだ。
しかし、悦びって……文字通りムシャムシャ食われるってことが?
俺の感覚じゃ、少なくとも俺が言った意味の方が正しそうな気がするが。
だが、ビトラは首肯したのち、口を開いた。
「……む。ただし、魔王によってその手段はさまざま、と記憶している。
さっきライノが言ったような方法で巫女の力を得る魔王もいる。
精気を吸い取り、身体は廃棄すると。
でも、私の『怠惰』やライノの『貪食』はそうではない」
……マジか。
つーか、魔王はやっぱ魔王だな。
力を得る方法がエグい。
だが、さすがの俺でもパレルモに対して『食欲』を抱いたことなんてないぞ。
というかそもそも、人間を食うという概念がない。魔物は食うがな。
とはいえ、仮に人型の魔物を仕留めたとしても、さすがに食いたいと思わない。
つーか今はむしろ、俺がパレルモを食わせてる立場なんだが……
……そんな感じで、ビトラは自分が知っていることをいろいろと教えてくれた。
彼女の話おおまかにをまとめると、
ひとつ、魔王は神器とかいうモノに選別され、力を得た存在である。
ひとつ、魔王は巫女を喰らい、完全体となる。
ひとつ、完全体となった魔王は本能のまま世界を滅ぼし、次の世界を創造する。
ということらしい。
ちなみに神器は俺の持つ包丁やペッコの首輪など、一見してそうと分からない、日用品の形を取っていることが多いらしい。
とはいえ、祭壇に祀られていたらバレバレだと思うがな。
そしてこれが重要なことなんだが、魔王は俺以外にも存在する。
ペッコは神を自称していたが、まあ『怠惰』の力を有する魔王だったということだ。
能力としては、植物や植物系の魔物を操る、とかそういった感じだろうか。
もっとも、ビトラが言うにはアレは不完全な存在だということらしいが。
完全体の魔王は理性というものが存在しないし、そもそも人の身で倒せるようなモノではないとのことだった。
「つーかパレルモ。お前、この話知らなかったのか?」
「んんっ!? ……魔王ってすごいね! でも私はおいしくないよ? ホントだよ?」
「食うか! つーかお前が俺のメシを食い倒す側だろうが!」
「えへへ」
「えへへ、じゃねーよ……」
ダメだこりゃ。
そもそも話を聞いちゃいねーよこの子は。
とりあえずパレルモの機嫌が回復したものの、この辺の事情を全然知らないらしい。
とはいえ、挑戦者なり魔王の力なりについての知識があることは、初対面のときに確認済みだ。
「全ての巫女が全てを知っているとは限らない。知識の量は、人それぞれ」
ビトラがパレルモのフォローをしてくれたが、完全に基礎知識っぽい話じゃねーか。
まあ、パレルモを見て、ビトラも心なしかあきれた表情をした気がする。
彼女が特別アホなだけなのかも知れない。
まあ、それはそれで別に構わないが……
しかし。
ビトラの話を聞く限り、間違っても魔王の完全体なんかになりたくないな。
理性も何もかも吹っ飛ばして、世界を蹂躙する?
さすがにそれはゴメンだ。
で、それを防ぐ方法はつまるところ、
「巫女を食べなければ俺は俺のままだということなんだな?」
「……む、肯定。でも、それは本来ありえないこと。
なぜなら、魔王の力を得た者は猛烈な飢餓感を感じるはず。
それは抗いようのないもの。だから、近くにいる巫女を食べずにはいられない。
私を取り込んでいた者も、同じだったはず」
ペッコの話はよく分からんな。
奴は割と理性を保っていたように見えたが。
魔力核化したビトラを中途半端な状態で取り込んでいたせいで、完全体に変化するのを免れた、とか?
まあ、ヤツのことはどうでもいいな。
ちなみにビトラは昔は普通に巫女として遺跡を管理していたらしいが、ある日を境にぱたりと挑戦者が来なくなったので、ヒマをもてあました挙句、自ら魔力結晶化して惰眠を貪ることにしたらしい。
で、気がついたら俺たちが目の前にいた、と。
なんとも『怠惰』の巫女らしいダラけっぷりだ。
もっとも、そのダラけっぷりのお陰でいまここで俺たちと話をしていると考えれば、何が良い方向に転ぶかは分からない。
「ところで、ライノ。私の神器は今、どこ。気配がない」
「ん? ああ、首輪のコトかあれなら消滅したぞ、多分。俺……の眷属がペッコもろとも吹っ飛ばした」
「消滅?」
ビトラの眠そうな目が、一瞬だけ開き、またすぐ元に戻る。
「ああ。この目で確かに見た」
「……ライノは嘘をついていない。どこを探っても、神器の気配を感じられない。この世界から、完全に消えている」
そう言って、ビトラは長い息を吐きだした。
まるで安堵したように、肩の荷が降りたかのように。
まあ、覚悟だなんだって言ったって、食われたくないよな、普通。
そしてビトラが言葉を継ぐ。
「神器を失ったはぐれ巫女は、他の理性なき魔王の糧とされる運命。だから……意思ある魔王であるライノが私を拾い、その責任を取るべき」
おいおい、ずいぶんと殺伐とした仕様だなそれ。
「巫女を糧とした魔王はさらに力を得て、世界に滅びをもたらす。それはきっと、ライノの望むところではない。だからライノは、私を拾うべき。そしてさきほどのご馳走をたくさん与えるべき」
確かに世界が滅びるのは困るが、途中から自分を拾って貰う趣旨が変わってきていやしませんかね、ビトラさん?
というか、俺のメシ食いたいだけだよねそれ?
「ライノは……私を拾うのは、イヤか?」
なんとも言えず黙っていると、ビトラの蔦髪がなんかシュンってなった。
顔の方は相変わらずの無表情だが。
……はあ。
まあ、別にもう一人くらい食わせるのは問題ないだろ。
巫女なら、魔物狩りの戦力にもなるだろうし。
「仕方ないな。そのかわり、食材調達のためキリキリ働いて貰うからな」
というわけで、『怠惰の巫女』ことビトラが俺たちの仲間(?)になった。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる