突然、天才令嬢に転生してしまった ③ 【南の国編】【西の国編】

ぷりりん

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恍然大悟 ④

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「じゃーオラがセルンオジサンと一緒に食べるよー!」

 ニロから包みを貰ったリット君がそう言って身を乗り出した。そしてニロはナック君にねだられ、2人で分けることになった。

 まあ、ナック君は本当にニロのことが大好きなのね。

 そうしてポカポカと葉の隙間から差し込んでくる日差しの下で、のんびりとご飯を食べた。

 少し冷めたが、美味しい~! やはりご飯はいいね。せっかく南の国と外交を結んだのだから、これから王国にも米は流通しないかな。なんて考えていた時。

「やーいやーい! 誰かアットの中を掃除したやがー!」

 ミアンさんがアタフタと駆け寄ってきた。

「ああ、昨日余とフェーが片付けたのだ」

 ナック君に食べさせながらニロがそう答えた。

「ニロとフェーやったやがー! それで汚れてたやがー!」
 
 ミアンは驚きながらも、はあ、と困ったようにため息をついた。

「二人共気持ちは嬉しいやい、やしが、今後はやめてくれー! 女神のアットを掃除したら聖女様の気分を害してしまうわけさー!」

 わざわざ餅米と蝋燭を置きに来るのに、掃除しないのはそういう訳だったのか。

 明らかにまだ女神を信じているミアンさんに大丈夫だと声をかけたい。でも立場上安易に発言できない。信仰は人々の自由なのに、こんな気持ち……歯痒いわ。

「すべての罪を許してくれる聖女様ならそのくらいで気分を害さないよ、婆さん」

「ふむ。セルンの言う通りだ、ミアンさん。聖女ならきっと理解してくれる故、案ずることはない」

 いつも喧嘩ばっかりする2人だが、こういう時に限って息ピッタリだ。……頼もしいわ。

「やしが…ー」

「大丈夫」

 思い切ってミアンさんに声を発した。

「アット、素敵、だから、……大切に、しよう」
 
 初めて聞いた私の声に驚かされたのか、ミアンさんは硬まってしまった。

「素敵やと、言ってくれるのは、お嬢さんくらいやっさ……」

 ふっとミアンさんの顔に暗い色が浮かんだ。

「お嬢さん、ワッチはアットが大好きやっさ……。若い頃、お盆ジョーになると皆が餅米を持って、アットの周りに置いたやい。それでワイワイして、楽しかったやっさー」

 確か南ではこう言う風習だったわね。

「15歳の時、悪戯心で餅米を高く投げたらや、それが丁度ある男の頭に落ちちゃってやい、彼がすごい怒ったわけで、仕方なく結婚してやったやい、ひゃひゃっ!」

 言いながら、ミアンさんは陽気に笑った。

 旦那さんとの思い出話か。ミアンさん、懐かしそうな表情をしているわ。

「聖女様を信じてないわけじゃないが、アットはワッチらの文化やった。ワッチらの一部やったやい……」

 自分の一部、か。

 聖女教の基盤を強めにきた私は、ある意味彼らの文化を殺しにきたのと同じだ。時代はこうして流れるとニロは言ったが、本当にこれでいいのか?

 アットを残す方法はないのかな……と悩んだところ、リット君の声が聞こえてきた。

「なーなー、ババー! 王都の神殿に餅米を持っていけばいいじゃん! そこでみんなでワイワイすりゃいいじゃん!」

「はあ……そーやい、その通りやい。やしが、アットは観光客を惹きつけてくれる。それでオメエの親は生計を立てたやい。その収入がなくなったから、仕方なく王都へ出稼ぎに行ったやっさー」

「えー! アットのほかにも仕事はあるはずなのにー!」

「そう簡単に見つかれば、苦労しないやい。……はあ、そもそも、一番可哀想なのはオメエの弟やい。生まれてから一度も親と会ったことないやっさー」

 そう言ってミアンさんはナック君を見た。

 ナック君はリット君の弟だったのか。
 そうか、親は二人揃って出稼ぎに出たから、会えてないのね……。

  「ふむ。そうか。それは寂しいであろうな、ナック」

 ニロはナック君の頭を撫でて、心痛げにつぶやいた。

「だいじょうぶ!」

 そう宣言すると、ナック君はニロと私の手を繋ぎ、それを高く掲げた。

「ナック、新しいかちょく、できたから、だいじょうぶ!」

 ……新しい家族?

 やにわにナック君の描いた絵が頭に浮かんだ。

 家族3人で仲良く手を繋ぐ、微笑ましい絵だった。でも、その下に書いてあるのは、彼の親の名前ではない。

 確認するように絵に目を落とした瞬間、じわりとまじりが熱くなった。

 ニロ、ナック、フェー
 
 『かちょく!』

 ……そうか。
 そういう意味だったのか。

 ナック君は私とニロから家族の絆を得ようとしたのか。
 さっきまで人懐こくて可愛いと軽く思ったけれど、ナック君は本気だったのね。

 気持ちは嬉しいが、私たちは昨日出会ったばっかりだ。
 そして、あと何日かで私とニロはここを立つ。
 この先もずっと彼の傍にいてあげられない。

 昨日の夜、3人共戦争孤児ではなくて良かったと、こっそり安堵していた。
 
 しかし、運良く親が生きていても、戦争で大切な収入源を失うことだってある。そして、出稼ぎで家族はバラバラになる。生まれてすぐ親と離れ離れになるなんて、想像できない。

 戦争は犠牲になった人々だけではなく、生き残った人の日々にも暗い影を落とし続けている。

 結局私はよくわかっていなかったんだ……戦争の影響を。

 3人は温かみのある、幸せな家で暮らしていると思っていたのに……。

 呆然とその絵を見れば、どっと悲しみが胸にこみ上げてきた。
 
「……どうしたやが? お嬢さん」

 気づけば、頬に何かが滴った。

 あっ、いつの間に!
 
 すかさず頬を拭ったが、次から次へと温かい水滴が溢れでて、きりがない。

 ど、どうしよう! ……涙が、止まらない!

 焦って俯くと、急にナック君に抱きつかれた。そして、茶色の瞳をうるうるさせて、私を見上げてきた。

「……泣かにゃいで」

 と逆にナック君に慰められてしまった。
 馬鹿みたいだ。だって、一番の被害者は、ナック君なのに……。

「ありがとう」
 重たい唇でそう呟くと、しゃがんでナック君をぎゅっと抱きしめた。
 
 ──ありがとう
 
 それ以外、彼にかけられる言葉がない。
 
 そうしてナック君を抱いていたら、突然彼がもぞもぞと動き出した。
 どうしたのかな? 
 腕の中のナック君を見れば、いつからか、彼はニロの指を握り、軽く引っ張っていた。

 ……ニロにも抱いて欲しいということなのかな?

 同じことを考えたのか、ニロは無言でナック君と私の上に手を回した。

 ニロの体温が、暖かい。

 三人でこうしていると、まるで本当の家族みたいだ。
 
 しかし、今の私たちを繋いでいるのは、愛情ではなく、同情だ。
 ……本物の家族とは根本的に違う。

 家族というのは、その場しのぎの温もりでは代替できない。

 でもナック君にはその違いがわからない。
 だから、こうしてニコニコと嬉しそうに笑えるのだろう。

 ナック君……
 あなたには本物の家族の絆を知ってもらいたい。

 目を瞑り、ナック君を抱いていると、リット君とニタちゃんの不満げな声が聞こえてきた。

「ナックばっかりズルイ! オラだって親と会ってないんだぞー!」
「そーよ! あたしも全然父ちゃんと会えてないのにー!」

 と二人は口を尖らせた。

「ふむ。そうだな、すまない。ほら、入りたまえ」
 そう言ってニロが手を広げると、二人はすぐに飛びついた。

 そうだわ。
 ナック君だけではない。
 この国には、彼らのような子供が多くいるはずだ。

 私はこの国で、聖女として拝められている。
 だから私にしかできないことはきっとある……それを探し出そう!

 固くそう決意して、きれいに涙を拭った。
 気持ちが落ち着いたところで、ミアンさんは仕事に戻った。別れる前に、優しい目で丁重に礼を言われた。ああ、簡単に泣いてしまうのはよくない。人に余計な心配をかけてしまうわ。

 そんな風に反省しつつ、再び子供たちと楽しい時間を過ごした。

 セルンはリット君とじゃれ合い、私はニタちゃんに髪を編んでもらったのだ。
 そしてニロはナック君に文字を教えた。

 そうしているうちに、夕暮れが訪れて、明るいうちに子供たちを家まで送ることになった。

 その道中、セルンとリット君は私たちをくるくると楽しそうに回る。

 「セルン、リット、山道で走るな、危険だぞ」
 とニロが注意したが、

 「大丈夫大丈夫!」
 「そうだー! 大丈夫大丈夫ー!」
 
 二人はお構いなしに追いかけっこする。
 こうしてみると、セルンとリット君って何だか少し似ているのかも。
 もしかして、セルンもやんちゃな子だったのかしら? うふふ。
 
 一人で笑っていると、前を走る二人は足を止めた。
 
「ん? 何だあれ?」
「おー! すごい人だ!」
 
 何だろう? と思い、その方を見ると、港の方で何やら人集りができている。

「オラ見てくるっ!」
 
 そう言って、リット君は一直線に走り出した。
 あっ、すごい速さだわ!

「おい、リット! ……はあ、あいつ、振り向きもしねぇ」
 とセルンが困った顔をすれば、ニロも軽くため息を漏らした。

「とりあえず、リットの後を追おう」
「……あーあ、しょうがねぇ、そうするか」

 そうして、人が大勢集まっている港の方へ向かった。

 この島には、クニヒト家の使用人とその家族しか暮らせない。だから、当然ながら群衆もその使用人を中心にできている。

 クニヒト宰相は王都にいるはずだけれど、もう戻ってきたのかな? 
 そんな風に考えた時、人集りから誰かが現れた。

 ん? この人は……男性?
 
 白い長服に身を包み、長い髪を緩く編んでいる。女性のようにも見えたが、背はすらりと高く、それなりに肩幅もある。

 青色の髪? 珍しいわね。
 あれ、この人、どこかで会ったことがあるかも……。

 そうしてぼんやりと彼を見れば、不意に目が合ってしまった。
 すると彼はぎょっと目をむき、すごい熱い視線を私に送ってきた。

 な、なに、この情熱的な眼差し……少し怖いわ。
 それに目がうるうるして、何だか今にも泣き出しそうだ。……白い肌。容姿からしてこの国の出身ではない。うーん、舞踏会かお茶会で会った人かしら?

 よく覚えておらず困っていると、彼はスタスタと私の方に向かってきた。

 あ、ちょっと待って、まだ名前を思い出せてないわ! 
 
 そう焦っていると、男は速足で私の前にやってきて、どんと床に崩れた。
 
 え、めまい? 熱中症? と一瞬思ったが……

「フェーリ様‼︎ やっと、やっともう一度あなた様に会えました‼︎」
 
 そう言って、男性は私を仰ぎ見た。
 涙で濡れたその可憐な面持ちを目にして、はっと八年前の記憶が蘇る。

 あっ! この泣き顔、間違いない。この人は……

「……キーパー」

 つい、その名を口にしてしまった。





【挿絵ははや様からのお恵みです】
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