追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

4話

翌日の夕刻

「御免あそばせ」
マリーお嬢様が煌びやかな格好で、我が家を訪れました。

「これは、これは！マリーお嬢様。お越しになると言って下さればお迎えに伺いましたのに」
マリー様へ、すり寄る父の腰は大変低い物でした。

「いえ、このくらい構いませんわ。なにせ本日はクロエが、私の社交界に付き添って下さるんですもの。私から伺うのは当然ですわ」

「な、なんとご立派なのでしょう！流石で御座います。どこぞのバカ娘にも見習って欲しいものです」
父は大袈裟なほどに、わなわなと震えて感嘆の声を上げました。

「それと、マリーお嬢様。昨日はうちのバカ娘がとんだご無礼を働いたこと、私からも謝罪させて下さい」
お父様は私の頭を掴むと、強引に頭を下げさせました。

マリー様は、優雅に首を横に振ります。
「いえいえ。アントニー子爵が謝る様な事では御座いませんよ。それより、心中お察し致しますわ。出来損ないが親族に居ると、大変ご苦労されることでしょう」
「はい。全くで御座います。一体どこで、教育を間違えたというのか。いえ、母親の影響なのでしょう。これの母親も大変無能な女でしたので」

そして、お2人は笑い合うのでした。

成程。こうやって父と2人になって、私を馬鹿にしたいがために、いらっしゃったのですか。そして、私だけでならまだしも、故人である母上までも馬鹿にする態度に、怒りを通り越して憐みすら覚えました。

存分に笑われた父は、私の背中を強く叩き催促を始めました。

仕方が無いのでしょうね。

「マリー様。昨日は大変なご無礼、誠に申し訳ございませんでした。謝罪の意も込めて、どうかお受け取り下さい」
私は母から頂いたドレスを、マリー様に差し出しました。

「あら。こうやって見ると大してセンスも良くないわね。ただ、そこまで言うのならば受け取ってあげるわ。感謝なさい」
厭らしい笑みを浮かべた彼女は、大層ご満悦そうです。

「それでは、社交界に行くわよ。お願いだから邪魔だけはしないで頂戴ね」

そうして、彼女はご自分の馬車に乗り込みました。
続いて、私も用意しておいた馬車に乗ると、本日の社交界が催される会場へと向かうのでした。