追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル

文字の大きさ
5 / 22

5話

しおりを挟む
本日の社交界は、ジュール侯爵のお屋敷で催されます。この辺りでは、一番の名家としてその名を轟かせております。

以前、ジュール侯爵の御一家はかなり変わっている。という、お話を聞いた事がありました。

通常、貴族というのは労働してお金を得る事は下品である。という考えのもとに生活をしています。階級が上に行くほど、この考えは根強いものがあります。

そのため、自らは手を動かさず領民からの税収が財源となっています。

しかし、ジュール侯爵家はこの考え方に逆行しており、自ら進んで労働を行うそうです。他の貴族の方々からは、そこまでして金が欲しいかと、冷たい眼差しを向けられることもたまにあるそうですが。

反面、領民からの評判は非常に高く、それも相まって税収も好調。非常に潤沢な資産を有しているとの事でした。

そんな侯爵家で行われる、本日の社交界。此度の目玉は、ジュール侯爵の御嫡男がご参加される、という事。社交界には、今まで一度もご出席されたことが無いため、どのようなお姿をされているかを知る人間は、殆ど居ないそうです。
まあ、私もナタリーに教えて貰うまでは、ご子息の存在すら知らなかったのですが。

当然、マリー様の狙いも彼なのでしょう。なにせ、侯爵家との婚姻が決定すれば、それこそ将来は安泰。お家の株も上がるわけですから。

お屋敷に到着すると、マリー様の後ろを付いて歩き、お屋敷の中へと足を踏み入れました。

来場者の受付を行う長机には、男性お二人が座って、手際よく確認作業を行っています。
我々の番まで回ってきたときに、その奥に広がる会場が視界に入りました。

「…綺麗」
思わず、口からそんな言葉が出ていました。
所々に黒曜石が散りばめられた床は、厳かながら優美さを醸し出していました。中央に見えるシャンデリアも豪華賢覧というよりは、寧ろ落ち着いた雰囲気のもので、ジュール侯爵のお人柄を表しているようです。
全体的に慎ましやかな印象すら受けましたが、ちょっとした置物なども含めて、非常に調和の取れた空間です。

「ありがとう御座います」
受付の男性が、私に向かい、ニコリと微笑み、そのような事を仰いました。
私の視線の先を見たからなのか、まるで私の心を読んだかの様な一言です。

何故だか恥ずかしくなり、その男性に一礼をすると急いで会場へと入りました。

「何だか、地味な会場ね。ハッ、侯爵家といっても、羽振りが悪いのかしら。まあ、腐っても侯爵家だし、多少は目を瞑ってあげるけど」
会場を一瞥したマリー様。どうやら、お気に召さなかったようですね。


お母様のドレスの件といい。本当にこの方とは、美的センスが合わないようです。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...