追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル

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6話

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既に、社交界は始まっておりました。

特に畏まった、始まりの挨拶があるわけでもないようです。

運ばれてきた飲み物を受け取ると、マリー様は様々な男性に対して積極的にお声掛けを始めました。

「初めしてぇ。私、マルタン伯爵の娘のマリーと申します」
先程までの表情とは打って変わり、満面の笑みを振りまいていました。伯爵家に劣る家系には興味が無いようで、そうと分かると、すぐさま別の殿方のもとへとご挨拶に伺っていました。

邪魔にはならない様に。
との、ご命令でしたので、私は飲み物を受け取ると隅の方へと向かい、取り敢えずは静かに1人でやり過ごすことにしました。とはいえ、父から引き立て役に任命されましたので、後程マリー様の素晴らしいところを、殿方達にしっかりと説明してあげなくてはいけませんね。

そんな風にして、隅で固まっていると一人の男性に声を掛けられました。
「こんばんは。皆様とお話はされないのですか?」
「ご、ごきげんよう。確か、受付にいらっしゃった方ですよね?」

先程はしっかりと、見ていませんでしたが、随分と整ったお顔立ちをされていました。
黒い髪の毛はサラサラとしており、少々鋭い眼差しは理知的な印象を受けます。

チラチラと、会場にいるご令嬢たちが、彼に対して熱い視線を送っているのも頷けます。

「ええ、そうです。それで、折角のパーティーだというのに、お一人でどうされたのですか?」
「こういった場には、久しぶりに参加をさせて頂きましたので、どういった風にお話をさせて頂こうかと考えていましたの」
嘘はついていませんよ。

「そうでしたか。それでしたら、私とお話をして頂けませんか?実は、私もこういった場は不慣れなものでして」
「ええ、喜んでお相手させて頂きます」
「それは良かった。申し遅れました。私はリュカと申します」
「私は、クロエと申します」

正直、乗り気ではありませんでした。1人で考えたいこともありましたので。ですが結果として、有意義な時間を過ごさせて頂きました。リュカ様は、非常にお仕事に熱心な方の様で様々なお話を聞かせて下さいました。そして私も、それに応えるような形で言葉のやり取りを行いました。

「すいませんでした。クロエさん。貴方のお話が非常に興味深いもので、気が付いたら仕事の話ばかりになってしまって」
「いえ、私の方こそ。リュカ様は大変博識なのですね」
正直、社交界には相応しくないお話だったのかもしれませんが、このようなお人と話せるのでしたら、また参加してみたいと思ってしまいます。

そんな風にしていると、マリー様がこちらに近づいて参りました。

「あら、クロエ。随分と楽しそうにしているじゃないの。そういう男がタイプなのね」
ニヤニヤとしたお顔から察するに、また、何か私にけしかけたい事でもあるのでしょうか。

「マリー様…ええ。こちらの、リュカ様のお陰で楽しい時間を過ごしております」

マリー様に彼をご紹介すると、リュカ様は軽く彼女へ会釈をしました。その挨拶を鼻で笑うマリー様。

「たしか。貴方は受付に居た方でしたわね。良いのかしら?こんなところで油を売っていて。ご主人様に怒られるのではなくて」

そんな嫌味を、リュカさんは軽くあしらわれました。
「ええ。もう殆どの方のご参加が確認出来ましたので。それより、パーティーは楽しまれていますか?多くの男性との、会話を楽しまれていたようにお見受けしましたが」

その態度が、マリー様の逆鱗に触れたようです。
「だから!受付を行っている従者の身でありながら、当たり前の顔をしてこの場に参加している事が問題だと言っているのよ。馬鹿じゃないの!」

ここまで言われても、リュカさんは笑顔を浮かべたままです。流石に初対面の方にここまで言われたら、怒りそうなものですが。

マリー様の大きなお声を聞いて、何人かの方々がこちらを見ています。

「そうですね。いや、誤解させてしまって申し訳ない。父の言いつけで、皆様のお顔とお名前を覚えるため受付をするようにと命じられていました」

この言葉で、私はこの方の正体に気が付きました。驚きの余り表情を崩してしまいそうになりました。しかし、当のマリー様は、どうやらお気づきになっていないようです。

はあ?という表情をリュカ様に向けられます。

そんなマリー様の目を、リュカ様はゆっくりと見据えました。

「申し遅れました。私はリュカ・ゴーティエと申します。本日は当家主催のパーティーに、ご参加頂きありがとう御座います。マリー様」

ようやく、マリー様もお気づきになったようです。その言葉を聞いた、マリー様のお顔が、だんだんと青ざめていく様は、不躾ながら中々愉快なものでした。
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