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7話
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明らかに動揺を隠せない、マリー様。
それもそうでしょう。この辺りで最も名家といわれる侯爵家に対する狼藉は、直ぐにでも貴族同士の間で広まっていきます。
侯爵家を馬鹿にした女。この評判は、今後の婚姻に関しても、恐らくはマリー様がご想像されている以上に不利に働くことになるはずです。
それでも、何とか取り繕うとマリー様は弁解を始めました。
「い、嫌ですわ。リュカ様ったら、そうならそうと、早く仰って下されば宜しかったのに。まさか、ゴーティエ侯爵家のご子息だったなんて」
「ええ、ですから申し訳ないと謝罪しましたよ」
ニコニコとした表情を浮かべている、リュカ様。但し、注意して見れば分かります。その目はまるで商品の良し悪しを判別する時の、商人のそれでした。しかし、そのことにマリー様は気が付けなかったのでしょう。
謝罪をして貰った自分の方が、優位であるという不等号が、彼女の頭に浮かんだのでしょうか。パアッとした、笑みを浮かべると、まさに驚愕の発言をされました。
「そうですわよね!普通はそんな事、分かりませんもの。まあ、でも良かったですわ。私も気分を害していませんから。でも、そうですわね。もしも悪い、とお感じになっているのでしたら、この後私の事をエスコートして下さいません」
自分の事でないのに、冷や汗が止まりません。これは、盛大に言葉の選択を誤りましたね。その証拠にリュカ様の目は、完全に粗悪品を見るかのように、冷めたものへと変貌しましたから。
「成程、エスコートですか。時に、マリー様。一つ質問したいことがあるのですが。貴方は、ニコラさん、という御仁をご存じですか?」
何の話をしているのか、分からないというマリー様。
「ニコラさんですか?いえ、初めてお聞きした名前ですが、その方が何か?」
その言葉を聞いて、リュカ様は、ハアと小さくため息を吐かれました。
「貴方は、ご自身の領土における、最大の納税者のお名前も憶えていないのですか。その方より、以前からご相談を受けていましてね。彼は素晴らしい葡萄酒を作ることで有名なのですが。領主からの、過剰な納税額の要求のせいで、葡萄酒造りに全く投資が出来ないと」
「はあ。それが何か?」
「彼の相談というのは、貴方の父上が収める領土内では、これ以上の事業の発展が望めないため、我がゴーティエ家の領土に移住したいという申し出です。貴方の父上にご相談しても、もっと金を納めろ、の一点張りで、話にならなかったとか」
私は昨日の事を思い出していました。
我が家の親愛なるメイドである、ナタリー。彼女から昨日こっそりと聞いていたのは、正にこの事でした。
ニコラ氏が、彼女の父が治める伯爵家に対して、納めている金額はかなりのものです。具体的には、全体の20%近くにも及ぶそうです。只でさえ浪費癖があり、見栄ばかりをはってきたのです。ここで、ニコラ氏が去れば今の生活は間違いなく送れません。
それどころか、マリー様と彼女の父上を見ていれば分かりますが、借金をしてでも、生活水準を下げる等考えないでしょう。
そうなれば、迎える未来は破滅です。
マリー様にも、話の内容が分かってきたようです。高額納税者が領土から去るという、非常に宜しくない事態が迫っていることを。ですが、何故今このような話をしているのかは不明なようでした。このままだと、無用にリュカ様のお怒りを買う様な発言をすることは想像に難くありません。
自分でも馬鹿な行動をしたと思います。今まで、散々彼女に罵られ、苦しい思いをしてきたのですから。ですが、それでも幼少の頃より仕えてきました。数える程度ですが、昔は彼女に優しくして貰ったこともありました。一瞬、その時の記憶が甦ってしまい思わず助け舟を出そうと、彼女の肩に触れました。
この行動が、私の行く先を大きく変える事になるとは思いもしませんでしたが。
それもそうでしょう。この辺りで最も名家といわれる侯爵家に対する狼藉は、直ぐにでも貴族同士の間で広まっていきます。
侯爵家を馬鹿にした女。この評判は、今後の婚姻に関しても、恐らくはマリー様がご想像されている以上に不利に働くことになるはずです。
それでも、何とか取り繕うとマリー様は弁解を始めました。
「い、嫌ですわ。リュカ様ったら、そうならそうと、早く仰って下されば宜しかったのに。まさか、ゴーティエ侯爵家のご子息だったなんて」
「ええ、ですから申し訳ないと謝罪しましたよ」
ニコニコとした表情を浮かべている、リュカ様。但し、注意して見れば分かります。その目はまるで商品の良し悪しを判別する時の、商人のそれでした。しかし、そのことにマリー様は気が付けなかったのでしょう。
謝罪をして貰った自分の方が、優位であるという不等号が、彼女の頭に浮かんだのでしょうか。パアッとした、笑みを浮かべると、まさに驚愕の発言をされました。
「そうですわよね!普通はそんな事、分かりませんもの。まあ、でも良かったですわ。私も気分を害していませんから。でも、そうですわね。もしも悪い、とお感じになっているのでしたら、この後私の事をエスコートして下さいません」
自分の事でないのに、冷や汗が止まりません。これは、盛大に言葉の選択を誤りましたね。その証拠にリュカ様の目は、完全に粗悪品を見るかのように、冷めたものへと変貌しましたから。
「成程、エスコートですか。時に、マリー様。一つ質問したいことがあるのですが。貴方は、ニコラさん、という御仁をご存じですか?」
何の話をしているのか、分からないというマリー様。
「ニコラさんですか?いえ、初めてお聞きした名前ですが、その方が何か?」
その言葉を聞いて、リュカ様は、ハアと小さくため息を吐かれました。
「貴方は、ご自身の領土における、最大の納税者のお名前も憶えていないのですか。その方より、以前からご相談を受けていましてね。彼は素晴らしい葡萄酒を作ることで有名なのですが。領主からの、過剰な納税額の要求のせいで、葡萄酒造りに全く投資が出来ないと」
「はあ。それが何か?」
「彼の相談というのは、貴方の父上が収める領土内では、これ以上の事業の発展が望めないため、我がゴーティエ家の領土に移住したいという申し出です。貴方の父上にご相談しても、もっと金を納めろ、の一点張りで、話にならなかったとか」
私は昨日の事を思い出していました。
我が家の親愛なるメイドである、ナタリー。彼女から昨日こっそりと聞いていたのは、正にこの事でした。
ニコラ氏が、彼女の父が治める伯爵家に対して、納めている金額はかなりのものです。具体的には、全体の20%近くにも及ぶそうです。只でさえ浪費癖があり、見栄ばかりをはってきたのです。ここで、ニコラ氏が去れば今の生活は間違いなく送れません。
それどころか、マリー様と彼女の父上を見ていれば分かりますが、借金をしてでも、生活水準を下げる等考えないでしょう。
そうなれば、迎える未来は破滅です。
マリー様にも、話の内容が分かってきたようです。高額納税者が領土から去るという、非常に宜しくない事態が迫っていることを。ですが、何故今このような話をしているのかは不明なようでした。このままだと、無用にリュカ様のお怒りを買う様な発言をすることは想像に難くありません。
自分でも馬鹿な行動をしたと思います。今まで、散々彼女に罵られ、苦しい思いをしてきたのですから。ですが、それでも幼少の頃より仕えてきました。数える程度ですが、昔は彼女に優しくして貰ったこともありました。一瞬、その時の記憶が甦ってしまい思わず助け舟を出そうと、彼女の肩に触れました。
この行動が、私の行く先を大きく変える事になるとは思いもしませんでしたが。
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