追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル

文字の大きさ
7 / 22

7話

しおりを挟む
明らかに動揺を隠せない、マリー様。

それもそうでしょう。この辺りで最も名家といわれる侯爵家に対する狼藉は、直ぐにでも貴族同士の間で広まっていきます。

侯爵家を馬鹿にした女。この評判は、今後の婚姻に関しても、恐らくはマリー様がご想像されている以上に不利に働くことになるはずです。

それでも、何とか取り繕うとマリー様は弁解を始めました。

「い、嫌ですわ。リュカ様ったら、そうならそうと、早く仰って下されば宜しかったのに。まさか、ゴーティエ侯爵家のご子息だったなんて」
「ええ、ですから申し訳ないと謝罪しましたよ」

ニコニコとした表情を浮かべている、リュカ様。但し、注意して見れば分かります。その目はまるで商品の良し悪しを判別する時の、商人のそれでした。しかし、そのことにマリー様は気が付けなかったのでしょう。

謝罪をして貰った自分の方が、優位であるという不等号が、彼女の頭に浮かんだのでしょうか。パアッとした、笑みを浮かべると、まさに驚愕の発言をされました。

「そうですわよね!普通はそんな事、分かりませんもの。まあ、でも良かったですわ。私も気分を害していませんから。でも、そうですわね。もしも悪い、とお感じになっているのでしたら、この後私の事をエスコートして下さいません」

自分の事でないのに、冷や汗が止まりません。これは、盛大に言葉の選択を誤りましたね。その証拠にリュカ様の目は、完全に粗悪品を見るかのように、冷めたものへと変貌しましたから。

「成程、エスコートですか。時に、マリー様。一つ質問したいことがあるのですが。貴方は、ニコラさん、という御仁をご存じですか?」

何の話をしているのか、分からないというマリー様。
「ニコラさんですか?いえ、初めてお聞きした名前ですが、その方が何か?」

その言葉を聞いて、リュカ様は、ハアと小さくため息を吐かれました。
「貴方は、ご自身の領土における、最大の納税者のお名前も憶えていないのですか。その方より、以前からご相談を受けていましてね。彼は素晴らしい葡萄酒を作ることで有名なのですが。領主からの、過剰な納税額の要求のせいで、葡萄酒造りに全く投資が出来ないと」
「はあ。それが何か?」
「彼の相談というのは、貴方の父上が収める領土内では、これ以上の事業の発展が望めないため、我がゴーティエ家の領土に移住したいという申し出です。貴方の父上にご相談しても、もっと金を納めろ、の一点張りで、話にならなかったとか」

私は昨日の事を思い出していました。

我が家の親愛なるメイドである、ナタリー。彼女から昨日こっそりと聞いていたのは、正にこの事でした。

ニコラ氏が、彼女の父が治める伯爵家に対して、納めている金額はかなりのものです。具体的には、全体の20%近くにも及ぶそうです。只でさえ浪費癖があり、見栄ばかりをはってきたのです。ここで、ニコラ氏が去れば今の生活は間違いなく送れません。

それどころか、マリー様と彼女の父上を見ていれば分かりますが、借金をしてでも、生活水準を下げる等考えないでしょう。

そうなれば、迎える未来は破滅です。

マリー様にも、話の内容が分かってきたようです。高額納税者が領土から去るという、非常に宜しくない事態が迫っていることを。ですが、何故今このような話をしているのかは不明なようでした。このままだと、無用にリュカ様のお怒りを買う様な発言をすることは想像に難くありません。

自分でも馬鹿な行動をしたと思います。今まで、散々彼女に罵られ、苦しい思いをしてきたのですから。ですが、それでも幼少の頃より仕えてきました。数える程度ですが、昔は彼女に優しくして貰ったこともありました。一瞬、その時の記憶が甦ってしまい思わず助け舟を出そうと、彼女の肩に触れました。

この行動が、私の行く先を大きく変える事になるとは思いもしませんでしたが。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...