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19話(アントニー子爵視点)
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あのバカ娘!腹が立つことこの上ない。まさか隠れて侯爵家と繋がっていたとは。あんな屑といえども侯爵家との関りがあるのならば使い道もあったというのに。
加えてあのバカは、一人前に引継ぎの資料などという名目で大量の紙ごみを残していきおった。実に下らん、大したこともしていない癖に、まるで自分が懸命に働いていたと云わんばかりでは無いか。
まあいい。
それよりもだ。あいつらが出て行ってから数日だが、部屋の中が少々散らかってきた。貴族である私が掃除などをする必要はない。新たにメイドを雇う事にするか…今度は主人に歯向かう様な無能では無く、飛び切り有能なのを吟味して選ぶことにしよう。
そうと決まれば早速募集を掛ける必要があるな。多くの人間から働かせて下さいと連絡があるはずだ。なにせ私の世話が出来るのだから。一時は落ちぶれかけた屋敷を復権させた、そんな私の手腕と名声を知る者は多くいるだろうしな。
今後の予定を立てていたが、訪問を知らせる呼び鈴が室内に鳴り響いた。
通常ならメイドに行かせるところだが仕方が無い。マルタン伯爵がお出でになったらと思うと、居留守も使えないしな。
面倒だが、仕方なしに私は門へと向かう事にした。
「誰だ、お前は?」
ドアを開けると目の前には中年の男が立っていた。何となく見覚えはあるが誰だったか?
「これはアントニー子爵。ご無沙汰しております。フザン商会のジルで御座いますが、覚えていませんか?突然のご訪問申し訳ない。クロエ様にお渡ししたいものが御座いまして」
フザン商会だと。
聞き覚えがある。この辺りではある程度の規模を誇る商会だったはずだ。この家とも繋がりがあったのか。
「いや、忘れていたわけでは無いぞ…クロエね。あのバカなら先日絶縁して我が屋敷を出て行った。行先は知らんぞ」
何だ?何故血相を変えているのだ、この男は。
「出ていかれた?!それでは、これからの取引の窓口は何方がなさるのですか?」
「取引?それなら私がする。当主である私が行うのだ。勿論問題などあるまい」
不安そうな表情を浮かべたジルとかいう男は、鞄から大きめの封筒をごそごそと取り出すと私に渡した。
「本日はこれをお渡しに伺いました。クロエ様とお話を進めさせて貰っていたのですが」
「何だ、これは?」
「詳しくは中身をご査収頂きたいのですが。端的に申し上げますと契約の更新手続き書です。現在購入させて頂いている家畜の件ですが、今後は一層取引量の増加が見込まれますので」
それは素晴らしい話ではないか。一層家畜が販売できるから、私の懐が潤うという話だろう?
「そこで実際に前年比の30%増以上の生産が見込める、という証明をお願いしたいのです。詳細な記載内容は中の書類に書いています。2か月以内を目途に御提出頂ればと」
「それはどういう事だ?」
証明だと。何故そんな面倒なことをしなければならないのか?
「は?えっと、どうご説明致しますか…つまりですね。我々はもっと貴方様より家畜を買いたいのですが、本当に我々が求める量を継続的にご提供頂けるのかという証明が欲しいのです。そうで無ければ我々も怖くてお取引が開始できません。なにせクロエ様のご要望で、商会側は現物の取引前に一定の金額を現金にてお支払いする契約ですし」
成程な。つまりは領民に一層生産の速度を上げるように指示を出せばいいという事か。やはり簡単な仕事では無いか。あのバカ娘は無駄にこの私を挑発しおってからに。まあ、あれが小娘に出来る最大限の復讐という訳か…浅はかだと云わざるを得ないな。
「了解した。この紙も期限内に提出することを約束しよう」
「本当ですね?お願いしますよ。我々の…今後の為にも」
不躾な男だ。この私を誰だと思っているのか。
「それでは失礼致します」
男は帰っていった。見たところ私と変わらない位の年齢だと思うが、いい年をして慌ただしく移動とはな。これだから平民は優雅さに欠ける。
「それでは仕事に取り掛かるか。だが既に日も落ちて来たな。明日からでも十分であろう。本日は貴族らしく優雅にワインでも呑み休むか。急ぐこともあるまいしな、どうせ領民共に喝を入れに行くだけだ」
私がワインを呑もうとした時だ。
パリン!
急にグラスの脚部分が折れ中身ごと床に散らばった。
「ああクソ!おい、さっさと片付けろ!」
しかし、その声に応える者はいない。
「…まず明日はメイドを探すか」
誰も居ないその屋敷に虚しく子爵の声が響いた。
加えてあのバカは、一人前に引継ぎの資料などという名目で大量の紙ごみを残していきおった。実に下らん、大したこともしていない癖に、まるで自分が懸命に働いていたと云わんばかりでは無いか。
まあいい。
それよりもだ。あいつらが出て行ってから数日だが、部屋の中が少々散らかってきた。貴族である私が掃除などをする必要はない。新たにメイドを雇う事にするか…今度は主人に歯向かう様な無能では無く、飛び切り有能なのを吟味して選ぶことにしよう。
そうと決まれば早速募集を掛ける必要があるな。多くの人間から働かせて下さいと連絡があるはずだ。なにせ私の世話が出来るのだから。一時は落ちぶれかけた屋敷を復権させた、そんな私の手腕と名声を知る者は多くいるだろうしな。
今後の予定を立てていたが、訪問を知らせる呼び鈴が室内に鳴り響いた。
通常ならメイドに行かせるところだが仕方が無い。マルタン伯爵がお出でになったらと思うと、居留守も使えないしな。
面倒だが、仕方なしに私は門へと向かう事にした。
「誰だ、お前は?」
ドアを開けると目の前には中年の男が立っていた。何となく見覚えはあるが誰だったか?
「これはアントニー子爵。ご無沙汰しております。フザン商会のジルで御座いますが、覚えていませんか?突然のご訪問申し訳ない。クロエ様にお渡ししたいものが御座いまして」
フザン商会だと。
聞き覚えがある。この辺りではある程度の規模を誇る商会だったはずだ。この家とも繋がりがあったのか。
「いや、忘れていたわけでは無いぞ…クロエね。あのバカなら先日絶縁して我が屋敷を出て行った。行先は知らんぞ」
何だ?何故血相を変えているのだ、この男は。
「出ていかれた?!それでは、これからの取引の窓口は何方がなさるのですか?」
「取引?それなら私がする。当主である私が行うのだ。勿論問題などあるまい」
不安そうな表情を浮かべたジルとかいう男は、鞄から大きめの封筒をごそごそと取り出すと私に渡した。
「本日はこれをお渡しに伺いました。クロエ様とお話を進めさせて貰っていたのですが」
「何だ、これは?」
「詳しくは中身をご査収頂きたいのですが。端的に申し上げますと契約の更新手続き書です。現在購入させて頂いている家畜の件ですが、今後は一層取引量の増加が見込まれますので」
それは素晴らしい話ではないか。一層家畜が販売できるから、私の懐が潤うという話だろう?
「そこで実際に前年比の30%増以上の生産が見込める、という証明をお願いしたいのです。詳細な記載内容は中の書類に書いています。2か月以内を目途に御提出頂ればと」
「それはどういう事だ?」
証明だと。何故そんな面倒なことをしなければならないのか?
「は?えっと、どうご説明致しますか…つまりですね。我々はもっと貴方様より家畜を買いたいのですが、本当に我々が求める量を継続的にご提供頂けるのかという証明が欲しいのです。そうで無ければ我々も怖くてお取引が開始できません。なにせクロエ様のご要望で、商会側は現物の取引前に一定の金額を現金にてお支払いする契約ですし」
成程な。つまりは領民に一層生産の速度を上げるように指示を出せばいいという事か。やはり簡単な仕事では無いか。あのバカ娘は無駄にこの私を挑発しおってからに。まあ、あれが小娘に出来る最大限の復讐という訳か…浅はかだと云わざるを得ないな。
「了解した。この紙も期限内に提出することを約束しよう」
「本当ですね?お願いしますよ。我々の…今後の為にも」
不躾な男だ。この私を誰だと思っているのか。
「それでは失礼致します」
男は帰っていった。見たところ私と変わらない位の年齢だと思うが、いい年をして慌ただしく移動とはな。これだから平民は優雅さに欠ける。
「それでは仕事に取り掛かるか。だが既に日も落ちて来たな。明日からでも十分であろう。本日は貴族らしく優雅にワインでも呑み休むか。急ぐこともあるまいしな、どうせ領民共に喝を入れに行くだけだ」
私がワインを呑もうとした時だ。
パリン!
急にグラスの脚部分が折れ中身ごと床に散らばった。
「ああクソ!おい、さっさと片付けろ!」
しかし、その声に応える者はいない。
「…まず明日はメイドを探すか」
誰も居ないその屋敷に虚しく子爵の声が響いた。
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