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18話
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翌日
「…おはようございます。クロエさん」
「あら、おはようございます。体調は如何ですか?」
お酒を呑みすぎて寝てしまったリュカ様は、ここで一泊することになりました。
今も若干気だるそうなお顔をされています。
「いや、不覚です。ペース配分を間違えてしまいました」
「昨日は沢山お呑みになっていましたものね」
そのやり取りを聞き、ナタリーがキッチンから顔を覗かせました。
「リュカ様。おはよう御座います。朝食はどうなさいますか?」
「すみません。少々気持ちが悪くて、コーヒーだけ頂けますか。ブラックで」
「かしこまりました」
私とリュカ様は、そのコーヒーを飲みながら、早速今後の業務についての会議を行う事にしました。
「まずは、するべきことを明確にしておきましょう」
先ほどまで青白い顔をしていたリュカ様でしたが、コーヒーで目が覚めたのでしょう。静かな口調ではありますが、気合十分という表情を浮かべながらそう仰いました。
「そうですね。必要な事だと思います」
「それでは、第一はやはりというべきか、ニコラ氏の件ですね。この件に関して状況ご説明をさせて頂きます。現在ニコラ氏は移住の準備を行っています。今から一月後を目途に我が領土に生活基盤を完全に移行する予定です。ニコラ氏の移住に際して我々と協議した結果、彼にお願いする業務は大きく分けて二つです。一つは、私たちが以前から耕していた広大な土地があるのですが、現在はあまり手が回っておらず、何とか畑の体を保っている状態です。そこの管理をお願いしました。もう一つは、彼の得意分野である葡萄酒のコンサルタント業務です。我々の領土における葡萄酒の技術力向上に尽力して頂きます」
「成程、承知しました。やはりというべきか一つ課題がありますね」
リュカ様は、小さく頷かれました。
「はい。単純に作物の量が増えても、買い手が増えるわけではありません。そこで、私とクロエさんで少しでも多く新規で購入してくれる販売先を見つける必要があります。先ずは、現在のニコラ氏の土地から購入している顧客を当たっていきたいと思います」
「そうですね。私も以前の取引先に当たってみます」
アントニー子爵の取引先の殆どは主に、母と私とで開拓したものです。お声がけをすれば、何名かは直ぐにでも切り替えてくれるという自信はありました。
「足を使う泥臭い作業になるかと思いますが、大切な事です。全力で臨みましょう」
「少々気掛かりなのは、アントニー子爵とマルタン伯爵がどう動いてくるのか…」
あのお2人の事です。私たちを追い込むために何かしらの妨害を行ってくるでしょう。
「ええ、彼らが正攻法で来るとは限りませんから注意しておく必要もありますね。ですが当分は大丈夫かと。子爵は、クロエさんの抜けた穴を埋めるために慌ただしくしているでしょう。伯爵に至っては、愛娘のマリー嬢の事とニコラ氏の件で頭を悩ませている頃です」
リュカ様の言動は確かなものでしょう。ですが、一つだけ私の中に疑念がありました。伯爵は中々どうして腹黒い人物です。
自分の為ならば…
固まったまま動かない私を、リュカ様は心配そうに見つめていました。
「クロエさん?どうかしましたか」
「いえ、少々深く考えすぎていました。大丈夫です」
「そうですか?では、お話を続けますね」
そうして私たちは、今後の方針について固めていきました。集中していると時間の経過というのはあっという間です。気が付けば、日が落ちてきて空は薄暗くなっていました。
「…それでは、本日はここまでにしましょうか」
あっという間に感じましたが、体は正直です。会議が終わるころには、我々は疲労感を隠せないといった様子になっていました。集中力を保つというのは疲れるものですから。
「ではクロエさん。明日もまた来ますが、先ほどの流れで行っていきましょう」
「承知しました。それでは明日、お待ち申し上げていますね」
そしてリュカさんはお屋敷へとお帰りになりました。
「お疲れ様でした。お嬢様」
お見送りを終えて、再び机に座ったところでナタリーが紅茶を淹れてくれたのですが、疲労からか一気に眠気が訪れ頭がボッーとして参りました。
「ありがとう。確かに疲れました。でも、楽しくもあるの。こんな風に誰かと一緒にお仕事を進めるのは始めての事だから」
クスリと、笑みを浮かべるナタリー。
「それは良かったです。お話を伺っていましたが、やはりというべきかリュカ様は商いにもとても秀でた方でしたね。お人柄も素晴らしい方ですし」
「ええ。だからかしら?欲が出てしまったの」
「欲…ですか?」
「まだ何も始まっていないというのに、あの方とだったら、もっと面白い事が出来るのではないかと。優しいあの方を出来る事ならずっとお傍で支えたいと…」
ナタリーはその言葉を聞いて、少々顔を赤らめています。何故かしら?
「クロエお嬢様。それってつまり…」
駄目ですね。お話の最中だというのに眠気に抗えそうもありません。最近あまり寝ていなかったし、いつもより頭を使いましたしね。
ナタリーが何か言いかけていたのですが、上手く聞き取れませんでした。
「…おやすみなさいませ。お嬢様」
その言葉を聞くと、私は夢の中へと導かれるのでした。
「…おはようございます。クロエさん」
「あら、おはようございます。体調は如何ですか?」
お酒を呑みすぎて寝てしまったリュカ様は、ここで一泊することになりました。
今も若干気だるそうなお顔をされています。
「いや、不覚です。ペース配分を間違えてしまいました」
「昨日は沢山お呑みになっていましたものね」
そのやり取りを聞き、ナタリーがキッチンから顔を覗かせました。
「リュカ様。おはよう御座います。朝食はどうなさいますか?」
「すみません。少々気持ちが悪くて、コーヒーだけ頂けますか。ブラックで」
「かしこまりました」
私とリュカ様は、そのコーヒーを飲みながら、早速今後の業務についての会議を行う事にしました。
「まずは、するべきことを明確にしておきましょう」
先ほどまで青白い顔をしていたリュカ様でしたが、コーヒーで目が覚めたのでしょう。静かな口調ではありますが、気合十分という表情を浮かべながらそう仰いました。
「そうですね。必要な事だと思います」
「それでは、第一はやはりというべきか、ニコラ氏の件ですね。この件に関して状況ご説明をさせて頂きます。現在ニコラ氏は移住の準備を行っています。今から一月後を目途に我が領土に生活基盤を完全に移行する予定です。ニコラ氏の移住に際して我々と協議した結果、彼にお願いする業務は大きく分けて二つです。一つは、私たちが以前から耕していた広大な土地があるのですが、現在はあまり手が回っておらず、何とか畑の体を保っている状態です。そこの管理をお願いしました。もう一つは、彼の得意分野である葡萄酒のコンサルタント業務です。我々の領土における葡萄酒の技術力向上に尽力して頂きます」
「成程、承知しました。やはりというべきか一つ課題がありますね」
リュカ様は、小さく頷かれました。
「はい。単純に作物の量が増えても、買い手が増えるわけではありません。そこで、私とクロエさんで少しでも多く新規で購入してくれる販売先を見つける必要があります。先ずは、現在のニコラ氏の土地から購入している顧客を当たっていきたいと思います」
「そうですね。私も以前の取引先に当たってみます」
アントニー子爵の取引先の殆どは主に、母と私とで開拓したものです。お声がけをすれば、何名かは直ぐにでも切り替えてくれるという自信はありました。
「足を使う泥臭い作業になるかと思いますが、大切な事です。全力で臨みましょう」
「少々気掛かりなのは、アントニー子爵とマルタン伯爵がどう動いてくるのか…」
あのお2人の事です。私たちを追い込むために何かしらの妨害を行ってくるでしょう。
「ええ、彼らが正攻法で来るとは限りませんから注意しておく必要もありますね。ですが当分は大丈夫かと。子爵は、クロエさんの抜けた穴を埋めるために慌ただしくしているでしょう。伯爵に至っては、愛娘のマリー嬢の事とニコラ氏の件で頭を悩ませている頃です」
リュカ様の言動は確かなものでしょう。ですが、一つだけ私の中に疑念がありました。伯爵は中々どうして腹黒い人物です。
自分の為ならば…
固まったまま動かない私を、リュカ様は心配そうに見つめていました。
「クロエさん?どうかしましたか」
「いえ、少々深く考えすぎていました。大丈夫です」
「そうですか?では、お話を続けますね」
そうして私たちは、今後の方針について固めていきました。集中していると時間の経過というのはあっという間です。気が付けば、日が落ちてきて空は薄暗くなっていました。
「…それでは、本日はここまでにしましょうか」
あっという間に感じましたが、体は正直です。会議が終わるころには、我々は疲労感を隠せないといった様子になっていました。集中力を保つというのは疲れるものですから。
「ではクロエさん。明日もまた来ますが、先ほどの流れで行っていきましょう」
「承知しました。それでは明日、お待ち申し上げていますね」
そしてリュカさんはお屋敷へとお帰りになりました。
「お疲れ様でした。お嬢様」
お見送りを終えて、再び机に座ったところでナタリーが紅茶を淹れてくれたのですが、疲労からか一気に眠気が訪れ頭がボッーとして参りました。
「ありがとう。確かに疲れました。でも、楽しくもあるの。こんな風に誰かと一緒にお仕事を進めるのは始めての事だから」
クスリと、笑みを浮かべるナタリー。
「それは良かったです。お話を伺っていましたが、やはりというべきかリュカ様は商いにもとても秀でた方でしたね。お人柄も素晴らしい方ですし」
「ええ。だからかしら?欲が出てしまったの」
「欲…ですか?」
「まだ何も始まっていないというのに、あの方とだったら、もっと面白い事が出来るのではないかと。優しいあの方を出来る事ならずっとお傍で支えたいと…」
ナタリーはその言葉を聞いて、少々顔を赤らめています。何故かしら?
「クロエお嬢様。それってつまり…」
駄目ですね。お話の最中だというのに眠気に抗えそうもありません。最近あまり寝ていなかったし、いつもより頭を使いましたしね。
ナタリーが何か言いかけていたのですが、上手く聞き取れませんでした。
「…おやすみなさいませ。お嬢様」
その言葉を聞くと、私は夢の中へと導かれるのでした。
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