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決戦! グモブ公爵!
第30話 装備の質が違う
しおりを挟む「随分と無駄に豪華なデュラハンだなおい。並みの剣士なら苦戦するんだろうが……残念だが俺は鉄でも斬れるぜ?」
ヴァーダルは剣を構えたまま獰猛な笑みを崩さない。
デュラハンはアンデッド型であり、鉄の鎧を剣で斬りさくのは難しいので戦士に対してめっぽう強い。
神官を呼んできて浄化するのが正攻法だ。
だがそれは並みの戦士が相手の場合である。鉄の鎧さえぶっ壊せる力を持った者が相手なら話は別だ。
そしてヴァーダルは大きな岩であるゴーレムをも簡単に切り裂き、ドラゴンをも一撃で仕留める男。
並みの戦士ではなくて単体でデュラハンを倒せる。
「そういうわけなんで……死んでくれよ」
ヴァーダルの斬りかかりに対して、デュラハンは構えた剣を腰にしまう。
右腕を無造作に前に出して、剣をガードするように受け止めた。
すると……。
「…………は?」
ヴァーダルの剣は根本からへし折れて、刃が地面にカランと音を立てて落ちた。
奴は茫然と折れた剣を見続ける。
「いやいや……何の冗談だ? 公爵家の上物だぞ? そこらの剣よりよほどよい品だぞ?」
「はん。そんな鉄くずがワシのつくった鎧に刃が立つものかい!」
ブロックが不機嫌そうに腕を組んでいる。
これが俺達の切り札。デュラハンの鎧や剣はドワーフたち謹製の品だ。
デュラハンは鎧に取りついて身体とする。つまりその宿になる鎧の性能次第で強さは著しく変わる。
ならば神の武具をも造れる腕を持ったドワーフたちの鎧ならば、ドラゴンすら圧倒する力を得ることができる。
そして俺達のとっておきは鎧だけではない。
「……チッ!」
「お、おい待て!? ワシを置いてどこに行く!?」
「悪いが命あっての物種なんでね!」
ヴァーダルは現実を認識するや否や、公爵を置き去りにして尻尾をまいて逃げ始めた。
勝てないと分かればすぐに逃げる。この判断の速さは流石と言うところだろうか。
「デュラハンは遅い! 逃げ切れる!」
奴の言っていることは正しい。デュラハンは鉄の鎧を着ているため、どうしても機動力に難が出てしまう。
スタミナは無限なので逃げ切れる速さがなければ、永遠に追いかけられていつか力尽きるが。
だがそんなことは百も承知である。逃がすかよ、都市アルダを汚染して俺を苦しめたお前らだけは。
「ペガサス! デュラハンを乗せて駆けろ!」
即座に傍にやってきたペガサス、そしてそれにまたがるデュラハン!
ここにアンデッドの聖騎士という意味の分からない存在が爆誕した!
ペガサスは恐ろしい速度で駆けて、即座にヴァーダルへと追い付いてしまう。
「ひ、ひいっ!? 来るなぁ!」
折れた剣を構えるヴァーダルに対して、デュラハンは黄金の柄の剣を振るった。
「あ、ああああぁぁぁぁ!? ま、まだ俺は……ころし……」
その一斬はヴァーダルの身体を真っ二つに切り裂いた。
……あの剣は魔剣ティルヴィングのレプリカだ。念のためにとドワーフに造ってもらったのだが特に不要だったな。
ティルヴィングは鉄をも容易に切り裂く魔剣だが、三度使うと所有者の命を奪う呪いを持っている。デメリットが大きいが故に恐ろしい性能を持つ剣だ。
レプリカもその呪いを持っているが……所有者はすでにアンデッドである。
つまりデュラハンならばノーリスクで使えるわけだ!
え? 神の武具とかは使わないんじゃないのかって? もちろん俺は使わないよ?
あんなの人間の手には余るからな。でも魔物なら扱えるからセーフ。
「ひ、ひいっ!?」
グモブ公爵は真っ二つになったヴァーダルを見て腰を抜かした。
この男の処分をどうするかはすでに決めている。
俺がゆっくりと近づいていくと、奴は無様に涙を流し始めた。
「ま、まてっ! ワシは公爵じゃ! ワシを殺しでもすれば王が……!」
「後ろ盾なら俺はアダムス教会なんだが? 王よりも上だから別に怖くもない」
アダムス教会は某ご隠居の印籠みたいなものだ。それに比べれば王など精々が大名程度の権力。
こちらのほうが遥かに強いので聞く必要はない。
こいつがドラゴンを都市アルダの海に落としたせいで、多くの住人が路頭に迷って奴隷に落ちた。
しかも俺の親父が死んだのもこいつのせいだ。あげく俺を性奴隷にしようとしやがった。
生かす必要など皆無である。人的資源としては勿体ないが、資源にするよりも生かしておくデメリットのほうが大きい。
なので最後くらいは役に立ってもらおう。
「ケルベロス、食っていいぞ。ただ頭は残してくれ」
「「「わふっ!」」」
俺が告げたと同時にケルベロスがグモブ公爵に飛び掛かった。
そして三つ首が奴の太った肉を食いちぎり始める……気持ち悪いから目を逸らそう。
「ひいいいぃぃぃぃ!? う、腕がぁ!? やめっ、やめてっ、やめてくれぇぇぇぇ……」
しばらく悲鳴をあげていたが、最期に断末魔の叫びをあげて静かになった。
どうやらご臨終のようだ。これで全て終わったか。
「じゃあ後はこの首を広場に晒して公爵の領地は全て俺が接収する。これで復讐も完了だな」
「けっけっけ。随分とお優しいことで……他の関係者は処分しないのかい?」
魔女がケラケラと不気味に笑いかけてくる。
確かにドラゴンを落としたのが公爵の一存とは限らない。
ヴァーダルの他にも実行犯はいるかもしれない。だがそれを追い続けているとキリがないからな。
「俺のモットーはな。人的資源は大切だ、なんだよ。だからそいつらは殺さず生かさず骨までしゃぶりつくす予定だ」
「具体的には?」
「レイスや吸血鬼のエサとか?」
「……お主、なんだかんだで結構えぐいのう。それ死んだ方がマシでは……」
そんなことは知ったことではない。
あくまで俺は自分の利益のためにそうするのだから。
この世界では人権とか大して考えなくてもいいんだ!
そんなわけで俺達は都市アルダに凱旋していった。
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