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第十二章

乗合竜車 2

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 とにかく、話が終わったようなので翻訳ディバイスを日本語⇔ナーモ語に戻した。

「カイト」

 ん? ミールが僕の耳(本来の方)に口を寄せた。片言の日本語で話しかけてくる。

「ナーモ語……聞かれる……日本語で……」

 エラはナーモ語が分からないはず。という事は、隣の女……

「あの女を知っているのかい?」
「一年前……会っている……ナーモ語……会話した」

 翻訳ディバイスのスイッチは切った方がいいかな?

「あんたら……」

 隣に座っているナーモ族の中年女性に話しかけられた。
 
「何か?」

 やはりこういう事があるからスイッチは切れないな。

「あの帝国人の女を、刺激しちゃだめだよ」
「はあ? 別に刺激なんか」
「さっき、あいつの目の前でカップルがいちゃついていたら、突然怒り出して雷魔法を使ったのだよ」

 それで、みんな遠巻きにしているのか。

「連れの女は話が分かるみたいだが、怒らせると自分も宥められないから、刺激しないようにと言っていた。だから、二人ともあいつの前でいちゃいちゃしちゃだめだよ」 
「大丈夫です。そんな事はしません」
「ええ! したかったのに」

 ミールが不満そうに言う。

 十分の一サイズとは言え、どっちにしてもPちゃんがいては無理だろう。

 背後でエラが何か言った。

 翻訳ディバイスを日本語⇔帝国語に変更。

「いつになったら、ロータスに着くのだ?」

 連れの女が答える。

「後十五分ほどですから」
「まったく、なんで私が乗り合い竜車なんかで」
「仕方ないでしょ。馬だと、目立ちすぎます。ロータスには帝国軍がいるのですよ。だいたい、なんでドローンを落としたのですか?」
「いや……なんでって、ドローンに見つかったら拙いだろ」
「隠れてやり過ごせば良かったのです。落としたりしたら、そっちにドローンを落とせる能力のある者がいると分かってしまうでしょ。こんなところに日本人や台湾人がいるはずがない。そうなると、脱走したあなただという結論に達して、ロータスの町で馬に乗って来る者を待ちかまえているはずです」

 そうか。エラの奴、ドローンを帝国軍の追っ手が差し向けた物と思っていたのだな。

「乗り合い竜車なら、大丈夫だとでも言うのか?」
「ナーモ語を話せないあなたが、乗り合い竜車なんかに乗れるはずがないとみんな思っているはずです。私と行動をともにしていることは、誰も知らないはずですから」

 この女、何者だろう?

 まあ、いい。ミールが知っているみたいだから……

 それより、帝国軍がいると分かっているのに、なんでこいつはロータスに?

 程なくして、竜車はロータスの町中に入っていった。

 町の中心部に近づくに連れて、人通りが増えてくる。

 その光景を見ていてエラは言った。

「検問なんか、やっていないではないか?」
「ううん。敗走中なので、そんな余裕がなかったのかもしれませんね」
「まったく。だったら馬でくればよかった」
「その馬をどこにつないでおくつもりです? 私達が取引をしている間に、つないでいる馬か帝国軍に見つかったりしたら、あなたがいることがばれるのですよ」

 取引? 何を取引するというのだろう?

「取引さえ終わればこっちのものだ。帝国軍など私の実力で蹴散らしてやる」
「忘れないで下さい。ブツが手に入っても、私が加工しないと使えないのですよ」
「そうだった」

 加工? ん? ミールが僕の袖を引っ張った。

 本来の耳を、ミールの口元に寄せる。

「取引……レッドドラゴン……肝」

 レッドドラゴンの肝!? そうか!

「魔法回復薬の材料か?」

 僕の問いにミールはコクコクと頷く。

 エラの奴、脱走した時に魔法回復薬を持ち出せなかったな。
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