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第十二章

デモンストレーション

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 ロータスの町が見えてきたのは明け方ごろ。

 甲板に上がってみると、ミーチャがエシャーをスケッチしていた。

「ミーチャ。おはよう」

 ミーチャが振り返る。

「おはようございます。カイトさん」

 スケッチブックをのぞき込むと、今にも羽ばたきそうなエシャーが鉛筆で描かれていた。

「上手いものだね。どこで、絵を習ったのだい?」
「孤児院にいるときに、絵師の先生がいて……」
「そっか。ミーチャは将来、絵師になりたいのかな?」
「できれば……でも、僕なんか全然だめだし……」
「そんな事ないって」
「だって、僕……鉛筆でしか描いた事なくて……ベジドラゴンって、こんな綺麗な緑の鱗で覆われているのに、それが描けなくて……」

 いや、それは腕の善し悪しじゃなくて、道具の問題……

 後で、絵の具か色鉛筆をプリンターで出してやろう。

「それは、いいとして、エシャー達はそろそろ群に帰る時間だから、スケッチは……」
「ああ、大丈夫です。もう、記憶しましたから」

 そうだった。ミーチャってカメラの様な記憶力を持っていたんだな。

 僕はエシャーの傍に寄って首を撫でた。

「エシャー。今回は色々とありがとう。助かったよ」

 エシャーも僕の額に、自分の額を擦り付けてきた。

「カイトノタメナラ、喜ンデ」
「これは、今回のお礼」

 風雨に晒されて、ボロボロになっていた古いリボンを新しいリボンと取り替えた。

 もちろん、ロッドとルッコラには、首から下げた籠に、Pちゃんが夜中に作ってくれたクッキーを入れておいた。

「カイト。他ノ女ノ子達モ、コノリボン欲シガッテイル。後デ連レテ来テモイイ?」
「ああ。かまわないよ」
「ジャア、後デ連レクルネ」

 三頭のベジドラゴンは、大空に飛去って行った。

 視線を下に戻すと、船着き場が目に入る。

 そこで町長達が待っていた。



「出でよ! 式神」

 埠頭の上でミクが叫ぶと、石畳の上に置いてあった人型が巨大な鬼アクロへと変化した。

「おおおお!」

 周囲のギャラリーからどよめきが生じる。

 アクロはギャラリーの前で、予め用意してあった鉄板にパンチで大穴を開けた。

「どうも! この子はアクロといって、あたしの家来のようなものでーす」

 アクロの肩に乗っかったミクがギャラリーに挨拶した。

「あんな小さな女の子が操っているのか?」
「あれも、分身魔法なのか?」
「なんでもシキガミとか言って、地球の分身魔法だそうだ」

 正直、こんな見世物みたいな事はしたくなかったのだが、今回は仕方がない。

 ロータスの人達にしてみれば、いきなり現れた僕達は果たして頼りになるのか疑わしいだろう。信用してもらうには、こちらの実力をデモンストレーションする必要があったのだ。

 続いて芽衣ちゃんのロボットスーツが縦横無尽に空を飛びまわった後、埠頭に着陸する。

 僕は町長の横で銃を背負っていた護衛の一人に声をかけた。

「君。その銃で、彼女を撃ってくれないか」

 護衛の男は驚く。

「おい! これはカルカのライフル銃だぞ。いくらなんでも……」
「大丈夫。ライフル銃でも、貫通しないから」

 僕は芽衣ちゃんの方を向く。

「芽衣ちゃん。今から撃つよ」
「はい。いつでもどうぞ」

 桜色のロボットスーツが仁王立ちになって待ちかまえた。

 護衛の男は、恐る恐る銃を向ける。

「おい。本当に撃ってもいいのか? どうなっても知らんぞ」
「大丈夫です。さあ、撃って」

 男は芽衣ちゃんに向かって引き金を引いた。
 
 轟音が鳴り響く。

「あれ? 外れたのかな?」

 首を捻っている男の傍に、芽衣ちゃんのロボットスーツが歩み寄って掌を差し出した。

「大当たりです」

 その掌には、撃ったばかりの銃弾があった。

「うわわ!」

 男は驚いてライフルを落とす。

 まあ、デモンストレーションはこのくらいでいいかな。

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