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第六章

セクハラの定義

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「はあ! はあ!」
 ボロボロになった竹刀を持って立つミールの足元に、竹刀以上にボロボロになったアンダーが横たわり、ピクピクと痙攣している。
「ミールさん。落ち着いて、これ以上やると暗黒面に堕ちちゃいますよ」
「だ……大丈夫よ。Pちゃん。殺したりしないから。こいつにはまだ、聞き出したい事がいっぱいあるし……」
 アンダーの猫耳を木の枝で突いてみたが、反応がない。
 こりゃ、尋問はしばらく無理かな。
「Pちゃん、治療頼む」
「了解しました」
「カイトさん、すみません。ついやり過ぎました」
「まあ、仕方ないさ。それに、今すぐこいつを城に行かせるわけには行かないだろう。怪我が、治った頃がちょうどいい」
 なぜ、こいつを城に行かせるかというと、ミールの分身の代わりに、こいつを脅迫して偵察をさせるためなのだが……
 まあ、しばらくは動かせそうにないから、その計画は後でやることにして……
「ところでミール。このボロボロの状態で、こいつの分身を作ったとして、使い物になるのかい?」
「カイトさん。それは大丈夫です。分身もボロボロの状態になりますが、見かけだけです。情報を聞き出すのに問題はありません」
「そうなんだ」
 便利というか、ご都合主義というか……
「それで、ミール。君の気持を聞いておきたいのだけど……」
「あたしの気持ちですか?」
「そう。君の……うわわ!」
 ミールは、いきなりガバっと僕に抱き着いてきた。
「あたしのカイトさんへの気持ちは、もちろん……」
「え? いや……それは……」
「それは、なんですか?」
「それは、嬉しいけど……今、聞いてる事は、そういう事ではなくて……」
「今『嬉しい』と言いましたね?」

 な……なんか……罠にはめられたような……

「痛たたた……なに、するのですか? Pちゃん」
 Pちゃんに猫耳を引っ張られて、ミールはようやく僕から離れた。
「ミールさん。発情している場合ですか。今の話を聞いていなかったのですか?」
「聞いていましたわよ。だから、こうしてアンダーを成敗したじゃないですか」
「アンダーを成敗するのはいいですが、尊敬していた元上司の奥さん子供が、このロクデナシに監禁されている事を忘れていませんか?」
 ミールは、ハッと何かを思い出したような表情をした。
「やーねー、忘れるわけ、ないじゃないですか。ハハハ……」
 忘れていたな……
 ちなみに僕が聞こうとしていたミールの気持ちというのは、ダモンの妻子を助ける気があるかという事だったのだが……
「だったら、ご主人様にセクハラしていないで、救出プランの一つでも練ったらいかがですか?」
「セクハラとは心外ですわ。セクハラは、相手が嫌だと思うかどうかで決まるのです。例えばアンダーがあたしのお尻を触ったら、セクハラで即死刑ですけど、カイトさんに、あたしのお尻を触られても、嫌だと思った事なんて一度もありません」
「こらこらこら! その言い方だと、まるで僕がそういう事をしているみたいに聞こえるじゃないか!」
「ええ。現実のカイトさんは、そんな事をしませんが、あたしの脳内カイトさんがやるのです」
「脳内のご主人様に、そういう事をさせないで下さい」
「いいじゃないですか。脳内でのことなら」
「では、アンダーが脳内で、ミールさんを凌辱していると分かったら、どんな気持ちになります?」
「今すぐ、アンダーに油をかけて火をつけたい気持ちになります。ハッ! まさか? カイトさん。あたしに油をかけて、燃やしたいと思っていますか?」
「思ってない! 思ってないから」
「カイトさんは、嫌だと思っていないと言っています。よって、あたしのやっている事はセクハラではありません」
「どういう理屈ですか?」
「あのさあ……二人とも……それどころじゃないんだけど……」

 ミールの分身たちが城から出発したのは、それから三十分後。
 城から離れたところで、分身を消した。
「結局、ここを攻撃することになるのか」
 僕は航空写真の一点を指差した。
 アンダーの分身を作って聞き出した結果、ダモンの妻子が監禁されているのは、最初に僕らが襲撃を予定していた関所だった。
 関所は、城よりも先に帝国軍に占領されていた。
 ネクラーソフはアンダーが拉致した妻子を、ここへ連れてきていたのだ。
「Pちゃん。忘れ物はないかい?」
「必要な物は、すべて積み込みました」
 キラ・ガルキナが使っていたテントだけを残して僕たちは出発した。
 今、その中にいるのは、アンダーとそれを見張っているミールの分身。
 この男は次の作戦のために、ここに残したのだ。
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