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第十六章

ワームホールから反撃

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 エラの放ったプラズマボールが、《水龍》甲板上にいた最後の帝国兵を焼き払った。

 ワームホールから新手が出てくる様子はないが……

「エラ!」

 僕の呼びかけにエラは振り向く。

 僕は《水龍》甲板上に開いたワームホールを指さした。

「ワームホールを狙ってくれ。その向こうに敵がいる」
「心得た」

 エラは、数発のプラズマボールをワームホールへ向けて放つ。

 だが、プラズマボールが届く前に、時空管が抜かれてワームホールは消滅した。

 惜しい……だが、これで攻略法が見えてきたぞ。

 敵はワームホールから戦力を送り込めるが、逆にこっちもワームホールから反撃できる。

 ワームホールの向こうは、おそらく地下施設第六層の時空穿孔機。

 ワームホールの向こうに攻撃を仕掛けて、時空穿孔機さえ破壊できれば、これ以上ワームホールは開けないはず。

 できればロケット砲を撃ち込みたいところだが、司令塔のハッチを押さえられている状況では《海龍》艦内へ装備を取りにいけない。

「ミール。落ちないように捕まっていて」
「はーい」

 ミールが抱きついてくるのを確認すると、僕は左腕だけでミールを抱き、右腕一本でショットガンを抜いた。

 今、このショットガンのカートリッジには、散弾ではなくスラッグ弾の一種、リーサル弾が入っている。

 これで時空穿孔機を破壊できなくても、正面にオペレーターがいれば殺傷するぐらいは期待できるだろう。

 狙いは《海龍》司令塔付近に開いたワームホール。

 ワームホールを狙える位置に移動すると、イリーナが僕の意図を察したようだ。

「カイト・キタムラ。ワームホールの向こうを狙っているようだけど、分かっているの? この状況でショットガンなんか撃ったら、ミーチャを巻き添えにするわよ」
生憎あいにくだな。このショットガンに装填しているのはスラッグ弾だ」
「スラッグ弾!? まずい! マーカーを!」
「はっ!」

 イリーナの部下が、バックパックから棒状の物体を取り出してワームホールに射し込む。

 かまわず僕は、ショットガンのトリガーを引いた。

 だが、一瞬早く時空管が抜かれてワームホールが閉じる。

 スラッグ弾は、何もない虚空を空しく通り過ぎていった。

「ちちい! 惜しかった」
「でも、カイトさん。これで敵の退路が無くなりましたよ」 
「そうだな。ミール」
「いや、若造。それは甘いぞ」

 オボロに跨がっているジジイの方を振り向く。

「どういう事だ?」
「あいつら、ワームホールが閉じる前に棒をさし込んだじゃろう」
「ああ。あれはいったい?」
「あれはマーカーと言って、エキゾチック物質の棒じゃ。あれを挟めば、ワームホールは完全に閉じる事がなく、時空穿孔機を使ってもう一度同じ場所にワームホールを開く事ができる」
「やっかいだな」

 そんな事を話している間に、新たなワームホールが開いた。

 今度ワームホールが開いたのは、《海龍》艦首前方五キロ付近。そこから出てきたのは、ヘリコプタータイプのドローン数十機。

 僕は艦内のマー美鈴メイリンに、主砲で迎撃するように指示を出した。

 程なくして甲板が左右に開き、八十ミリ電磁砲レールキャノンがせり出してくる。

 出てくると同時に、射撃開始。

 ドローン群の中で対空誘導砲弾が炸裂し、数機のドローンを落とした。

 だが、撃ち漏らしたドローン群がこっちへ向かってくる。

「芽依ちゃん。橋本君。迎撃を頼む」
「「了解!」」

 芽依ちゃんと橋本晶が、甲板から空中に飛び上がった。

 そのまま二人は、ドローン群へ向かっていく。

 甲板上に残っているのは、ミクとキラだけ。

「キラ。分身体を出してミクを守ってくれ」
「了解した」

 キラは短剣を抜く。

「くれぐれも、こっちから攻撃には行くな。奴らは君の分身体がその場所を離れたら、ミクの背後にワームホールを開く気だ」
「なるほど。分かった」

 キラは分身体を出すと、ミクを伴い主砲の影に隠れる。

 その間にも、芽依ちゃんと橋本晶はドローン群に向かっていた。

 ドローンからは小型ミサイルを放ってくるが、二人は火炎弾フレアとチャフを駆使し、ひらりひらりと避けて突き進む。

「落ちなさい! 壊れなさい! 砕けなさい!」

 芽依ちゃんが銃撃で次々とドローンを落としていった。

「でやあ!」

 芽依ちゃんの撃ち漏らしたドローンを、橋本晶が切り落としていく。

 だが、ワームホールからは新手のドローンが続々と……切りがない。

 ならば、僕が行ってワームホールを直接銃撃……待てよ。あのワームホール、艦隊から離れすぎている?

「ミール」
「なんです? カイトさん」
憑代よりしろはいくつ残っている」

 ミールは、憑代を入れているポシェットを開いてのぞき込んだ。

「ひいふうみい……七つです」

 それだけあれば、なんとか……

 僕はミールにそっと耳打ちして作戦を話すと、《海龍》司令塔から死角になる位置に降りた。
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