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呪殺師は可愛い男の子が好き

罠?

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 ヒョーは、ウサギ式神を指しながら僕の方を振り向いた。

「あの式神は、君の仲間だろ?」

 僕は無言でうなずく。

「つまり、この式神を通して、私の要求を伝える事ができるというわけだな」

 いったい、何を要求する気だ?

「御神楽芙蓉よ。久しぶりだな」

 ウサギ式神が、ヒョーの前に降り立った。

「ヒョーさんですね。あるじから、伝言があります」
「身神楽芙蓉は、なんと言っている?」
「挨拶などいい。さっさと、要求を言えと」
「せっかちな奴だな。では、要求する。御神楽芙蓉。五年前の決着をつけたい。この場所で私と勝負しろ」

 勝負なら、さっきからやっているじゃないか?

 ハッ! きっとこの場所では、芙蓉さんに不利な何かがあるんだ。

 ヒョーが僕を人質に取った本当の目的は、芙蓉さんをおびき寄せるため……

「芙蓉さん! 来ちゃだめだ! これはきっと罠だ!」
「優樹キュン。罠なんかないよ」
「じゃあ、なんでここで戦いたいのです?」
「それはだな……」
「ここじゃなくても、さっきから庭で戦っているのでしょ。こんな狭いところで、戦う必要がどこにあるのです?」
「私が、ここで戦いたいのだ」
「なぜ? 理由は?」
「私は……ここが好きなんだ」

 やっぱり、何か罠があるんだ。

「芙蓉さん! 僕はどうなってもいいです。ここへ来ちゃダメ! 罠です」

 不意にヒョーが、僕を抱きしめていた腕に力を込めた。

 怒らせてしまったかな?

「優樹キュン。君は今『僕はどうなってもいいです』と言ったね?」

 え?

「言ったよね?」

 僕は無言で頷く。

「では、私が君にどんな事をしてもいいのだね?」

 えええええ! 危害は加えないって、言ったのに……

「では、こんな事もしてよいのだな」

 何されるの? 怖い!

 恐怖のあまり、僕は目をつぶる。

 その直後……

 ムニュ!

 ん? なんだ? くちびるれるこの柔らかい感触は……

 まぶたを開くと、覆面に包まれたヒョーの顔が、すぐ目の前にあった。

 えええええ!?

 …
 
 ……

 ………

「プハ」

 一分ほどして、ヒョーは僕から口を離した。

「ふふふ。キスは初めてだったかな?」

 初めてじゃないけど……樒にされた時は舌を入れては来なかった。

 ヤバ! 今のって、式神を通じてミクちゃんに見られている。

 当然、樒にも知られてしまっただろうし……いや、別に樒なんか好きじゃないけど……やっぱり、樒は僕の事が好きなのかな? 

 でも、僕は……僕は誰が好きなのだろう?

 氷室先生……

 ヒョーにキスされている間、僕の脳裏には氷室先生の顔が浮かんできていた。

 僕……氷室先生が、好きになっちゃったのかな?

「さて、優樹キュン。お姉さんと、もっと良いことをしよう」
「やめて!」

 僕はヒョーの腕の中でもがいた。

 しかし、元々非力な上に手首を縛られている状態では逃れられない。

「だめよ。君は『どうなってもいい』と言ったのだから」
「やめて下さい。僕……好きな人がいるんです」
「え!? だ……誰!? そのうらやましい女は?」
「そんな事、言えない。言ったら、呪う気でしょ」
「う……そ……そんな事はしない」
「否定する時に、ちょっと間が開いた。呪う気だ」
「う! いや、私はプロだ。金にならない呪いはしない」
「嘘だ」
「では聞くが、君とその女は両思いか?」
「片思いです」
「なら、問題はないな」

 そう言って、ヒョーは僕を強く抱きしめてきた。

「その女の事は、あきらめなさい。君には私がいるから……」

 ヒョーは口を近づけてきた。

「待って! その前に話を聞いて」
「なんだ?」

 僕はウサギ式神の方を向いた。

「その式神を操っているのは、芙蓉さんじゃないんです」
「なに?」
「子供なんですよ。こんなのを、子供に見せちゃダメでしょ」
「子供だったのか。それは教育上よろしくないな」

 このまま止めてくれるかな?

「そこのウサギ。これから大人の時間になる。子供は帰りなさい。帰って御神楽芙蓉に伝えるのです。早く助けに来ないと、優樹キュンが大変なことになるぞと」

 ウサギ式神は、ヒョーの眼前にきた。

あるじからの伝言です。馬鹿にしないで。あたしはそんな子供じゃないと」
「歳はいくつだ?」
「十二歳です」
「十分子供だ。帰って勉強でもしていなさい」
「イヤだ。帰らない。と言っております」
「ダメです。これから、私が優樹キュンにする事は、子供が見ていい事ではありません。帰りなさい」
「ヤダと言っております」
「ぐぬぬ。ならば、強制排除するまで」

 ヒョーは僕のブレザーに手を入れると、ショルダーホルスターに入っていたエアガンを抜き取った。

「これでも食らえ!」
「それだけはご勘弁を!」

 エアガンを撃たれて、ウサギ式神は逃げていった。
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