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冥婚

死神

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 誰だか分からないが、この男が人間ではないという事だけは分かった。

 霊的な存在だ。

 霊的な存在にも関わらず、男は結界をあっさりと越えた。

 エレキギターでも持っていそうな出で立ちだが、彼が持っているのは大きな鎌。

 大きな鎌を持っていて、結界をあっさり越えたという事は……

 僕は樒の袖を引っ張ってたずねた。

「この人、樒の知り合い?」
「知り合いだけど、人ではないわ」
「じゃあ樒が昔会ったと言っていた死神?」
「そうよ。死神のロックさん」
「ロックさん?」
「私が勝手にそう呼んでいただけ。どういう経緯で会ったかは、そのうち話すわ」

 どうやら、僕が荻原君を追いかけて部屋を出た後に、この死神が現れて樒に事情を話していたらしい。だから、樒はなかなか出てこなかったのか。

 死神が、飯島露の方を振り向いた。

「よお! 露ちゃん。待たせて悪かったな。受け入れ準備ができたので迎えに来たぜ」

 しかし、パンクロッカーの様な風体は、死神というよりまるで悪魔だな。

 いや……

 僕はタンハーの方を振り向く。

 死神の姿を見て、怯えている幼女。

 可愛らしい姿をしているが、こいつが本来の悪魔なんだよな。
 
「おい! タンハー!」
「ひい!」

 死神ににらまれ、タンハーは小さな悲鳴を上げた。

「俺が目を離しているすきに、いろいろと好き放題やってくれたようだな」
「いやいや、礼には及ばぬぞよ」
「礼なんか言ってねえ! しばくぞ! ゴラア!」
「ひええ! こんな可愛い幼女をいたぶるというのか!」
「今すぐ俺の目の前から消え失せろ! 今回だけはカンベンしてやる」
「それでは、お言葉に甘えて……」

 だが、帰ろうとするタンハーの襟首を樒が捕まえる。

「待ちなさいよ」
「な……なんじゃ! 大女! わらわはもう帰るのじゃ!」
「死神さんは許したけど、私は許さないわよ。たっぷりお尻を叩いてやるわ!」
「ひええ! 鬼! 悪魔!」

 悪魔はおまえだろう。

「よしな。樒ちゃん」

 今にもタンハーの尻を叩こうとしていた樒の手を、死神が掴んで止めた。

「こいつを叩くと、マズイ事になるぞ」
「マズイ事って? どういう事よ? 死神さん」
「こいつ、転生しているんだよ」
「え? 転生?」

 どういう事だろう?

「タンハーだけじゃない。ラーガとアラティも人間に転生している。マーラの奴は、時々娘たちを現世に転生させて、いろいろと悪さをやらせているんだ」

 マジか? いや、それより人間に転生しているという事は、当然戸籍もあるし殴れば暴行罪になる。

「ややこしい事をしてくれるわね」

 樒は悔しそうにタンハーを手放した。
 
 自由の身になったタンハーは、そのままトテテと走って逃げて行く。

 だが、三十メートルほど離れたところで、タンハーは立ち止まりこっちをふり向いた。

「やーい! 大女! 殴れるものなら殴ってみろ! 次は警察沙汰にしてやるぞよ」
「うっさい! とっとと消えろ!」
「ひええ!」

 そのままタンハーは、ピュー! と走り去って行った。
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