霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
142 / 314
冥婚

別れ

しおりを挟む
「さてと……」

 タンハーの姿が街角に消えてから、死神は飯島露の方をふり向いた。

「露ちゃん。つらい思いをさせて、すまなかったな」

 飯島露はにっこりと微笑ほほえみ、首を横にふる。

「いいよ。おかげで、荻原君の気持ちが分かったし……」
「そうか。それじゃあ、今から君を霊界に案内するが、別に急ぐ必要はない。彼との別れをすませておきな」
「うん」

 飯島露は、荻原君の前に歩み寄る。

「荻原君。恐い思いをさせてごめんね」
「いいんだよ。それに、僕は本当に飯島さんの事が好きだったし、死んでからもチョコを持ってきてくれたと分かって、すごくうれしかったんだ」
「そっか。いつから、あたしの事、好きだったの?」
「最初に、相合い傘をした時からかな?」
「なあんだ。じゃあ、あたし達、ずっと相思相愛だったんだね」
「ごめん。僕の方から、もっと早く告白していれば……」
「あたしこそ、ごめんね。本当は、分かっていたんだ」
「え? 何が?」
「荻原君を、連れてっちゃいけないって……でも、ハーちゃんからスマホを渡されて、霊界に一緒に逝けるって言われて……そんなことやってはいけない。荻原君を死なせてはいけない。分かっていたのに、期待しちゃって……」
「飯島さん……」
「でも、ハーちゃんの言っていた事は、すべて嘘だった。最初から、あたしを悪霊にするのが目的だったのよ。まんまと、騙されたのね。それに、もし荻原君が死んでも、一緒には逝けなかったと思う」
「どうして?」

 飯島露は、死神の方を振り向く。

「そうなのでしょう? 死神さん」

 死神はうなずいた。

「ああ。霊界と言っても、いろいろとあってな。俗に言う天国とか地獄というのはないが、それに近い世界はある。一緒に死んでも、二人の魂は別々の世界に逝くことになっただろう」

 やはり、そうだったのか。

「それにな、露ちゃんはすぐに転生するから、霊界にはそんなに長くはいないんだよ」

 荻原君が死んだとしても、二人が結ばれる事は最初から無かったんだな。

「あんな事故さえなかったら……あたし達、付き合えたのにね」

 だよね。あんな事故さえ、なかったら……

「一パーセントだったんだ」

 ん? 一パーセント? そんな事を言った死神の方へ僕はふり向いた。

「死神さん。一パーセントって? なんの確率?」
「あの場所で、露ちゃんが事故にって死ぬ確率だ。本来なら一パーセントだった。だから、どうせ死なないだろうと、受け入れ準備なんかしていなかった」
「人の死期って、きっちり決まっているのじゃないの?」

 死神は首を横にふる。

「決まってはいない。あくまでも、確率だ。だから、死神は死ぬ確率の高い奴から優先的に受け入れ準備を進める。だけどな、確率が低くても死ぬ人はいるのだよ。そういう人の魂は、四十九日以内に受け入れ準備をしないと、この世を彷徨さまよう事になる。冬原ふゆはら小菊こぎくのようにな」

 え? 誰?

「あの……それって……誰です?」
「ん? ああ! まだ、名前を聞き出せていないのか」
「僕の知っている人ですか?」
「ああ。よく知っているはずだ」

 誰だろう? 仕事がら、霊と関わることは多いし……

「とにかく、人の死期というのは明確に決まっていないから、こういうトラブルは少なくないんだよ。ただし、何に転生するかは決まっているけどな」
「え? じゃあ、飯島露さんがこれから何に生まれ変わるかは、決まっているのですか?」
「ああ。それが決まったから、迎えにくることができたんだ。ただ、いつどこの誰に転生するかは、守秘義務があって死神の口からは言えないんだ」

 死神にも守秘義務があるのか。それじゃあ仕方ないな。

「だから、一ヶ月後に、露ちゃんが荻原新の隣家の娘に転生するなんて、口が裂けても言えないな」

 裂けやすい口だ……

「ああ! そうだ。ちょっと待っていて」

 荻原君は突然何かを思い出して、家の中に入っていった。

 程なくして、白い小さな包みを持って出てくる。

「飯島さん。これを」

 荻原君は、飯島露に包みを差し出した。

「これは?」
「今日は、ホワイトデーだよ」
「そうだったね。用意してくれていたんだ」
「うん。霊界に逝くのは恐いけど、飯島さんの事は好きだったし……もし、逝くことになったら、渡そうかなって……」

 ん? 樒に肩を叩かれてふり向いた。

「優樹。私には?」

 と言って手を差し出す。

「家にあるよ。仕事が終わってから」
「わーい!」

 それはそうと、飯島露は幽霊だけど受け取れるのかな?

 あ! やっぱり無理だったか。

 荻原君の持っている包みを掴もうとするが、すり抜けているだけ……

 それを見かねた死神が、アドバイスをしてくれた。

「そういうのは一度、露ちゃんを祭っている祭壇か仏壇にお供えするといい。そうするとそこから、霊的物質として取り出せる」

 なるほど……

 しかし、彼女を祭った祭壇とか仏壇とかは、飯島家までいかないとないよな。

 さすがにそんな時間は……

「露ちゃんを祭ってあればいいのよね?」

 樒が何か思いついたようだ。

「それなら近くにあるじゃない」

 近く?

「事故現場よ」

 そうだった! あそこには飯島露の小さな遺影があって、花や供物が供えられていたんだった。

 早速、僕たちは事故現場へ向かう。

 だが、その場所は一人の男によって荒されていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...