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事故物件

低俗番組

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 不意に僕の目の前を、サラリーマン姿の浮遊霊がぎった。

「どうやら、結界が解除されたようね」

 千尋さんの視線が、浮遊霊の動きを追う。

 見えているようだ。

 浮遊霊は壁を抜けて出ていった。

「久しぶりに霊が見えたわ。私の能力は無くなっていなかったのね」

 樒が部屋に戻ってくる。

「お待たせ。結界解除しました」
「ご苦労さん」

 そう言って、千尋さんは僕の方を向く。

「私の能力に問題はなかったけど、肝心の自殺者の地縛霊がいないのは困るわ。かといって浮遊霊では、すぐにどっか行っちゃうから映しにくいし。君、適当な霊を呼び出してくれない」
「呼び出してどうするのです?」
「分かるでしょ」
「分かりません」
「は?」

 この状況で、何を分かれっちゅうんじゃ? 霊を見たいと言うのは分かるけど、なぜそこまでこだわるのだろう?

「ああ! メイクをしていないから分からないのね。テレビの前では着け睫毛を着けて、濃いアイシャドウをしているけど、私は六道魔入よ。分かるでしょ?」
「御船千尋さんじゃないのですか?」
「御船千尋は本名で、六道魔入は芸名なの」
「はあ……そうなのですか」

 よく分からないが、どうやら千尋さんは芸能関係の仕事をやっていて、本名以外に六道魔入という芸名があるらしいという事は分かった。

「もしかして……社さん。あなた六道魔入を知らないの?」
「はい。知りません」
「うそ!?」

 なんかショックを受けているみたいだけど、知らない人は知らないし……

 自分は有名人だから、他人は自分の名前を知っていて当然と思われても困るよなあ。

「六道さん。ショック受ける事ないわよ。優樹ってテレビ見ない子ちゃんだから」

 ちゃんを着けるな!

「え? そうなの?」
「樒。僕がテレビを見ていないって決めつけないでくれないかな。僕だってテレビぐらい見るよ。ニュースとか天気予報とかドキュメンタリーとか大河ドラマとか」

 一番多いのは深夜アニメだけど……

「スポーツとか興味ないからスポーツ番組は見ないし、バラエティなんて低俗番組は見ないから、そういう話題にはついていけないけど、僕だってテレビぐらい……うぐ!」

 突然、樒は僕の口を手でふさいで、耳元で囁いた。

「バカ! ここでバラエティを、低俗だなんて言うな! 出ている人に悪いでしょ」

 え? 出ている人?

「あ……あはは……」

 千尋さんが力なく笑っている……なんで?


「あはは……言われちゃった……『低俗』って、言われちゃった……そうか。私の番組って、低俗だったんだ……あはは……」

 
 あ! 非常にまずい!
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