5 / 60
怪盗ミルフィーユの引退宣言
鬼頭邸〈ショコラ〉4
しおりを挟む
「なんや!? ショコラ。なんのつもりや?」
「ミル。これで撃たれても死ぬ事はないわ。でも、最低三十分は動けなくなるはずよ。この状況で、それが何を意味するか分かっているわね」
「落ち着きいな、ショコラ。そないな事したら、あんたまで逮捕されるで」
「あたし十四歳だもん。横暴な従姉妹にそそのかされたって言えば済むわ」
「少年法を盾にするんかい。えげつないやっちゃなあ。でもな、それならモンブランやタルトはどうするつもりや?」
「二人には、あたしから逃げろって言っておくわ」もっとも、あの義理堅い男達が素直に逃げるとも思えないけど……「ミルが約束を守れば済むことよ。アイテムが全部、揃ったら、足を洗うという約束をね」
「おお! そうやった。忘れてへんでえ」
うそつけ!! 今の今まで忘れてたくせに。
「『銭湯に行って足を洗おう』なんてギャグを飛ばしたら、即座に撃つわよ」
「あ……あはは……何言うてんねん。そないアホな事言うわけないやろ」
そう言っているミルのこめかみに、ツーっと汗が流れるのをあたしは見逃さなかった。やっぱり考えていたな。
「じゃあ、足は洗うのね」
「当然や。うちが今まで約束をやぶった事あるか?」
「あのねえ、そういう風に言うと、まるで約束守ったことが、あるみたいじゃない」
「失礼な!! うちは約束を意図的に破った事はあらへん。ただ、覚えてへんだけや」
なんじゃい、そりゃあ?
「じゃあ、今回の約束、思い出したからには、守ってくれるんでしょうね?」
「も……もちろんや。第一、アイテムは揃ってもうたし、もう盗む必要はないやろ」
「そうね。でも、あたし達が外宇宙に行くのに必要な資金は、まだ足りないわ。もし、ミルがそれを調達するために怪盗ミルフィーユを続けようって了見なら、あたし撃つわよ」
「そ……そんな事あらへん」
「じゃあここで誓って。怪盗ミルフィーユは本日を持って引退します。明日からは真っ当なオーパーツハンター竹たけノ(の)内うち魅瑠みるに戻りますって」
まあ、オーパーツハンターも真っ当な仕事とは言い難いが、怪盗よりましだろう。
「わぁった! わぁった! 言えば良いんやろ。怪盗ミルフィーユは本日を持って引退します。明日からは真っ当なオーパーツハンター竹ノ内魅瑠に戻ります。これでええな?」
甘い! 口約束を信じるほど、あたしは甘くないぞ。
あたしはポケットからB5用紙のポスターを取り出した。
「じゃあ、これを壁に貼って」
あたしはポスターをミルに渡した。
「何や? これ」
怪訝な顔をしてミルはポスターを広げる。そこには……
『貴重なオーパーツを専門に盗む怪盗ミルフィーユは、今回を持って引退させて頂きます。長い間、ご声援ありがとうございました』
「な……なんか、マンガの最終回みたいな文章やな」
「なんでもいいでしょ。早く貼って」
「しかし、こんなもの貼ったら、まるで引退するみたい……」
「何だって!?」
「なんでもあらへん!」
ミルは、そそくさとポスターを貼った。
これでよし。ミルの性格からして、あたしとの約束はどうせ守らないけど、世間に公表してしまったことは律義に守るはずだ。
バタン! 不意に扉が開いた。見るとそこに一人の警官が立っている。
しまった!? 時間をかけ過ぎたか?
「しー! 僕だ、僕」
警官は帽子を外した。帽子と一緒に顔も外れる。これもホロマスクだ。三十代半ばの男性の顔を写したホロマスクの顔の下から、十代後半の美少年の顔が現れる。
「タルトやないか。どないしてん?」
「どないもこないも、何をぐずぐすしてるんですか!?」
彼はあたし達の仲間の一人、宮下瑤斗。年はあたしより四つ上のお兄さんだけど、あたしはいつもタルトって呼び捨てにしている。 さっき天窓を指差して『おい! 天窓のところに誰かいるぞ』と叫んだのは彼だった。
タルトは十八才の現役大学生……だったのだけど、今は休学中で、ミルの所へはアルバイトのつもりでやって来た。
もちろんミルが泥棒やってるなんて知らずに……
知った時は、かなり驚いていた。驚いてはいたが、彼はあっさりと協力者になってしまった。どうやら、ミルに一目惚れしたらしい。
しかし、これは彼の人生最大の過ちだと、あたしは確信している。
ミルみたいな女に惚れたら人生終りだ。一日も早く彼は、おのれの過ちに気が付くべきだわ。だいたいにして、なんだって彼みたいなハンサムボーイが、ミルみたいなオバンに夢中になるのよ。
すぐそばに若くて、可愛くて、頭も良いあたしみたいな女の子がいるというのに……そこのおまえ、笑うな。
ちなみに彼は、ダウジングという特技がある。振り子とか占い棒を使って、地下に埋まっている物を見つける、一種の超能力だ。
そういう能力のある人をダウザー(水脈占い師)と言って、昔からヨーロッパでは井戸を掘るのに活躍していた。
近代になっても、古い水道管を捜すにその能力が使われている。
もちろん、遺跡発掘現場では重宝されていた。
「とにかく、急いで下さい。すでに三体のダミーミルフィーユが、警察の手に落ちてるんですよ。早く逃げなきゃ、警察が騙された事に気が付いて戻ってくるでしょ」
ダミーミルフィーユってのは、今回の仕事のために用意したアンドロイドだ。
適当に逃げ回って、警察を攪乱するのが目的。
さっき、天窓のところにいたのもその一つで、全部で五体用意したから、あと二体が警察から逃げ回っているはず。
「ミル。これで撃たれても死ぬ事はないわ。でも、最低三十分は動けなくなるはずよ。この状況で、それが何を意味するか分かっているわね」
「落ち着きいな、ショコラ。そないな事したら、あんたまで逮捕されるで」
「あたし十四歳だもん。横暴な従姉妹にそそのかされたって言えば済むわ」
「少年法を盾にするんかい。えげつないやっちゃなあ。でもな、それならモンブランやタルトはどうするつもりや?」
「二人には、あたしから逃げろって言っておくわ」もっとも、あの義理堅い男達が素直に逃げるとも思えないけど……「ミルが約束を守れば済むことよ。アイテムが全部、揃ったら、足を洗うという約束をね」
「おお! そうやった。忘れてへんでえ」
うそつけ!! 今の今まで忘れてたくせに。
「『銭湯に行って足を洗おう』なんてギャグを飛ばしたら、即座に撃つわよ」
「あ……あはは……何言うてんねん。そないアホな事言うわけないやろ」
そう言っているミルのこめかみに、ツーっと汗が流れるのをあたしは見逃さなかった。やっぱり考えていたな。
「じゃあ、足は洗うのね」
「当然や。うちが今まで約束をやぶった事あるか?」
「あのねえ、そういう風に言うと、まるで約束守ったことが、あるみたいじゃない」
「失礼な!! うちは約束を意図的に破った事はあらへん。ただ、覚えてへんだけや」
なんじゃい、そりゃあ?
「じゃあ、今回の約束、思い出したからには、守ってくれるんでしょうね?」
「も……もちろんや。第一、アイテムは揃ってもうたし、もう盗む必要はないやろ」
「そうね。でも、あたし達が外宇宙に行くのに必要な資金は、まだ足りないわ。もし、ミルがそれを調達するために怪盗ミルフィーユを続けようって了見なら、あたし撃つわよ」
「そ……そんな事あらへん」
「じゃあここで誓って。怪盗ミルフィーユは本日を持って引退します。明日からは真っ当なオーパーツハンター竹たけノ(の)内うち魅瑠みるに戻りますって」
まあ、オーパーツハンターも真っ当な仕事とは言い難いが、怪盗よりましだろう。
「わぁった! わぁった! 言えば良いんやろ。怪盗ミルフィーユは本日を持って引退します。明日からは真っ当なオーパーツハンター竹ノ内魅瑠に戻ります。これでええな?」
甘い! 口約束を信じるほど、あたしは甘くないぞ。
あたしはポケットからB5用紙のポスターを取り出した。
「じゃあ、これを壁に貼って」
あたしはポスターをミルに渡した。
「何や? これ」
怪訝な顔をしてミルはポスターを広げる。そこには……
『貴重なオーパーツを専門に盗む怪盗ミルフィーユは、今回を持って引退させて頂きます。長い間、ご声援ありがとうございました』
「な……なんか、マンガの最終回みたいな文章やな」
「なんでもいいでしょ。早く貼って」
「しかし、こんなもの貼ったら、まるで引退するみたい……」
「何だって!?」
「なんでもあらへん!」
ミルは、そそくさとポスターを貼った。
これでよし。ミルの性格からして、あたしとの約束はどうせ守らないけど、世間に公表してしまったことは律義に守るはずだ。
バタン! 不意に扉が開いた。見るとそこに一人の警官が立っている。
しまった!? 時間をかけ過ぎたか?
「しー! 僕だ、僕」
警官は帽子を外した。帽子と一緒に顔も外れる。これもホロマスクだ。三十代半ばの男性の顔を写したホロマスクの顔の下から、十代後半の美少年の顔が現れる。
「タルトやないか。どないしてん?」
「どないもこないも、何をぐずぐすしてるんですか!?」
彼はあたし達の仲間の一人、宮下瑤斗。年はあたしより四つ上のお兄さんだけど、あたしはいつもタルトって呼び捨てにしている。 さっき天窓を指差して『おい! 天窓のところに誰かいるぞ』と叫んだのは彼だった。
タルトは十八才の現役大学生……だったのだけど、今は休学中で、ミルの所へはアルバイトのつもりでやって来た。
もちろんミルが泥棒やってるなんて知らずに……
知った時は、かなり驚いていた。驚いてはいたが、彼はあっさりと協力者になってしまった。どうやら、ミルに一目惚れしたらしい。
しかし、これは彼の人生最大の過ちだと、あたしは確信している。
ミルみたいな女に惚れたら人生終りだ。一日も早く彼は、おのれの過ちに気が付くべきだわ。だいたいにして、なんだって彼みたいなハンサムボーイが、ミルみたいなオバンに夢中になるのよ。
すぐそばに若くて、可愛くて、頭も良いあたしみたいな女の子がいるというのに……そこのおまえ、笑うな。
ちなみに彼は、ダウジングという特技がある。振り子とか占い棒を使って、地下に埋まっている物を見つける、一種の超能力だ。
そういう能力のある人をダウザー(水脈占い師)と言って、昔からヨーロッパでは井戸を掘るのに活躍していた。
近代になっても、古い水道管を捜すにその能力が使われている。
もちろん、遺跡発掘現場では重宝されていた。
「とにかく、急いで下さい。すでに三体のダミーミルフィーユが、警察の手に落ちてるんですよ。早く逃げなきゃ、警察が騙された事に気が付いて戻ってくるでしょ」
ダミーミルフィーユってのは、今回の仕事のために用意したアンドロイドだ。
適当に逃げ回って、警察を攪乱するのが目的。
さっき、天窓のところにいたのもその一つで、全部で五体用意したから、あと二体が警察から逃げ回っているはず。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる