夢の続きへ

光那涼

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プロローグ

1話

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『生きている限りどんな大きな怪我を負っても、病気になったとしても、絶対君を治すから』

『だから、死なないで、生きて帰ってきてね』

ーーあぁ、これは記憶の夢だ。
 中学に上がってから何度も何度も見ているこの記憶の夢。はじめは霞んで見えなかったこの記憶の夢は日を経つごとに鮮明になっていって、これは治癒術師と魔法騎士の恋物語なんだと今でははっきりとわかるようになった。
 中世ヨーロッパのような世界で魔法という変な力がある不思議な世界。記憶の夢はいつも、歴史に残るような戦争がはじまる一週間前からはじまる。記憶の夢を見る時は空中に浮いているような感じで見ていた。
 
『大丈夫だ。必ずーーのところに生きて帰ってくる。この戦いに勝ったら戦争が終わる』

『そしたら、王都を出て、誰もいない静かな場所で一緒に暮らそうか』

 治癒術師は真剣な顔をして、心配そうな顔をして、泣きそうな顔をして、そんなことを言うものだから、顔を背けながら魔法騎士はそんなことを言った。少し恥ずかしいようで顔に熱が集まるのが見ていてわかる。

『そう……だね。じゃあ俺はいい場所がないか探しておくことにするよ』

 心配そうな表情は消えなかったがそれでも少し吹っ切れた顔をしてからかいも含めた声音でそういう彼はすごく、綺麗だった。

ーーこれが彼らの幸福の時間の最後だというのはもう何度も見ているからわかっている。

 
『ねぇ、ねぇ! 目を開けてよ……お願いだから目を開けて!! 一緒に暮らすんでしょう? いい場所を見つけたんだ。空気が澄んだ森の中で近くに綺麗な川があって……絶対気に入るから……っ ーー!!』

 戦争は混戦した。あちこちで魔法や、矢が飛び交い剣のぶつかる音が響く。
 魔法剣士は剣に魔法を纏い、敵をなぎ倒していった。そして敵将と戦い、激戦の末、首討つことに成功した。が、魔法剣士は満身創痍で剣を地面に突き立ててやっと立てる状態だった。だから、後ろから毒を纏っている剣で刺されても対応はできなかった。完全なる不意打ち。敵の生き残りが仇と言い放ち背に剣を刺したのだった。異変に気づいた仲間達にその生き残りは倒されたが、魔法剣士は地面に倒れ込んだまま動けなかった。
 強力な毒らしくすぐに全身に周り、治癒術師達が駆けつけた時にはもう死の直前だった。

『ごめ……ゆだ、んし、た……いっしょ、に、すめそ、う、にない、や……』

 ボロボロ涙を流す治癒術師に手を伸ばしながら、だがその顔に手は届かず魔法騎士は力尽きてしまう。

 ここでぷつんっと目の前が暗くなり意識が浮上する。この続きは何故か見れなかった。だから、このあと治癒術師がどうなったのか、魔法騎士は死んでしまったのかわからなかった。

+++

 涙が頬を伝っていくのがわかる。
 夢を見たあとはいつも心苦しい。大きな声で泣き出したい衝動に駆られるが、そんなの自分らしくもないと柴野高那しばのこうなは思った。
 高那の前世はあの魔法騎士だ。約束も守れず恋人を置いて逝った、愚か者。
前世のことだし、もうとうに過ぎてしまったことだが、どうしても後悔が拭えなかった。
 高那はそっと目を閉じ、感情に引きづられないように夢を整理する。そうすることで前世過去現世を分けられることが出来た。
 そうして10数分たっただろうか。
 気分が落ち着いてきた高那はふかふかのシングルベッドから上半身だけを起こし、ベッド脇にあるチェストの上の時計を見た。

「……七時六分か。学校に行く準備をしないとなぁ。それにそろそろ顔を洗ってこなければ目が赤くなるな……いや、もう赤くなってるかも」

 高那は軽く伸びをしベッドを下りて制服や肌着を準備して、目を軽く擦りながら洗面所に向かった。

「あー、やっぱり赤くなってる」

 洗面所につき、大きな鏡を見て、高那は呟いた。染めたこともない真っ黒な髪にすらりと整った顔。クールでかっこいいと学校で評判の高那の目は真っ赤に腫れていた。取り敢えず、このままではまずいと思い、脇にある棚からフェイスタオルを出し、先に洗顔をしなきゃと顔を洗って出したフェイスタオルで拭き、棚からもう1枚フェイスタオルを出して水で濡らして目元に置いた。目が赤くなったまま学校には登校したくはない。それに、生徒会のあいつ・・・ にバレたら厄介だ。目が赤いまま会ったらあいつ・・・はこう言うだろう。

ーーはっ、泣いたの?あんたが?以外だねぇ~。その澄ました顔が涙に濡れて歪むところを、ぜひとも見たかったね~!ははは!あ、泣くなら今度は俺のとこで泣いてね。たっぷりいじめてあげるから。

「ちっ、嫌なことを考えたな」
 
 あぁ、考えただけで腹が立つ。
 ムカムカしてきた高那はもういいだろうと目元のフェイスタオルを取り、目の前のシンクにぶつけた。
 
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