堕ちた聖女と騎士

茜菫

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「ちゃんと、ぬれていますね」

 エカチェリーナにぬるりとした感触が伝わる。そこはすでに愛液でぬれていた。

「っ……」

 アレクサンドルの指が愛液を絡め、秘裂をそっとなでる。そのまま指を滑らせ、そばにあった小さな蕾をこすると、エカチェリーナの体がびくりと跳ねた。

「ここは、女性が気持ちよくなれるところですよ」

 アレクサンドルがやさしげな声でささやく。そのまま蕾を指でこすられ、エカチェリーナは声をもらした。

「あっ……あぁ……っ」

 蕾から大きな快感が生まれ、体中にひろがっていく。エカチェリーナは逃げ出しそうになったが、アレクサンドルが低い声でとめた。

「続けるんだ」

 指は蕾をこすり続け、エカチェリーナの腰が浮いた。いままで感じたことのない快感にエカチェリーナは喘ぐ。

「あぁっ、ふっ、……ぁ、ん……あああっ」

 快感を与えられ続けたエカチェリーナはいよいよ、はじめて絶頂をむかえた。はしたなく脚を大きく開いたまま、そのまま後ろに倒れ込む。びくんと体を震わせ、ゆっくりと目を開いたエカチェリーナは鏡の中のアレクサンドルと目が合う。

「っ、はぁ……っ」

 眉根を寄せ、アレクサンドルはエカチェリーナを見下ろしていた。そのまま視線を下すと、アレクサンドルは自身をつかみ、前後にこすっているのが見える。

(サーシャ……?)

 エカチェリーナはアレクサンドルのその動きから目が離せなかった。先端から透明な液があふれ、手の動きに合わせてぬちぬちと音を立てる。

「……っ、ふ……」

 アレクサンドルはエカチェリーナを見つめたまま、少し苦しそうにくぐもった声をもらすと同時に、白濁したなにかが鏡に飛び散る。エカチェリーナが呆然とそれをながめていると、息を整えたアレクサンドルが彼女にほほ笑みかけた。

「……気持ちよくなれましたか?」

「っ、ええ……あの、それは……?」

「また明日、教えてあげます」

「また明日……」

 また明日。これからも秘密の夜は続くことを表す言葉だ。エカチェリーナは体を甘く疼かせ、うなずいた。アレクサンドルはエカチェリーナをみおろしながら、目を細めて笑う。

「また明日」

 その言葉を最後に、オルゴールの音が止まった。エカチェリーナは体を起こすと、鏡に映った自分の痴態をぼんやりと眺める。

(私、こんな……)

 指先はぬれ、秘裂からはしとどに愛液があふれて床までぬらしていた。なにも考えられなくなるくらいに気持ちよくなっていて、こんなことになっているなんて気づきもしなかった。

「……サーシャ」

 恥ずかしい、なのにまた明日もと期待もしている。なにもしらなかったエカチェリーナは、アレクサンドルによって変わってしまっていた。



 エカチェリーナがアレクサンドルと秘密の夜を過ごしていても、だれも、彼女の変化に気づかなかった。エカチェリーナは変わった様子を見せることなく聖樹に祈りを捧げ、教徒たちの言葉に耳をかたむける。アレクサンドルもエカチェリーナに対する態度を変えることはなく、ただ騎士としての領分を守り続けている。

 傍目から見れば、なにも変わらない日々が続いていた。

 今日もエカチェリーナは禊に向かった。泉に足を踏み入れると、肌にぴりっとした刺激を感じる。わずかな痛みにまでなった刺激にエカチェリーナは顔を顰めながらも身を清めるが、早々に泉から出た。

「困ったわね」

 室内に戻ろうとしたところで、話し声が耳に届く。エカチェリーナは思わず足を止め、柱の影に隠れてこっそりと聞き耳を立てた。

「北が枯れたそうよ」

「もう? 次の降臨の予言はまだ下りてないのに……」

「仕方がないわ」

 司祭らの声だ。エカチェリーナは内容が理解できなかったが、聞いてはいけないものを聞いてしまったような罪悪感を覚える。

「私たちのために、いまの聖女さまにはもう少しがんばってもらわないとね」

「そうね。聖樹の恵みがないと、やってられないもの」

「いまで確か、三年だったかしら」

「なら、あと二年くらいが限界ね」

 エカチェリーナの心臓がどくんと跳ねた。聖女は聖樹に祈りを捧げ、同時に神聖力も捧げている。それが聖樹を健やかに保つために必要なことだからと言われ、エカチェリーナはこの三年間、なんの疑問も抱くことなく続けてきた。

(聖樹の……みんなのために、私、がんばらないと……)

 がんばらないといけない。そう思ったエカチェリーナはそれに不満を覚えた。先ほどの二人の司祭の会話は、まるでエカチェリーナがそうすることが当然のような、それどころかもっとと要求しているような言い方だ。

(……私、ちゃんとがんばってきたわ)

 三年間、エカチェリーナは言われた通りに毎日聖樹に祈りを捧げてきた。祈りが終われば教徒の話に耳をかたむけ、夜は部屋から出てはいけないと言われ、それにも文句一つ言わずに従い続けてきた。

 ――なのに。

(限界だなんて……どうして、私が……)

 エカチェリーナの心に暗い感情が浮かぶ。振り払えないその感情にエカチェリーナは足を囚われ、その場にしゃがみ込んだ。

(私……私は……)

 エカチェリーナは動けなくなってしまった。そのまましばらくうずくまっていると、だれかがエカチェリーナのそばにやってくる。

「聖女さま、大丈夫ですか?」

 エカチェリーナが顔を上げると、そこには赤毛の侍女が立っていた。心配そうに顔を覗き込んでくる少女に、エカチェリーナはなんとか笑みを浮かべる。

「……大丈夫よ」

「あまり大丈夫そうに見えませんが……」

「……あなた、ミシャ、だったわね」

「え? あ、はい、ミシャです。覚えていただいて光栄です!」

 ミシャはうれしそうに笑った。ミシャは聖女つきの侍女だが、エカチェリーナはミシャだけではなく、侍女らと親しくなることはなかった。

 エカチェリーナは侍女らとあまり親しくし過ぎないように言われていたし、侍女らもおそらく同じように言われていたのだろう。名を呼ぶこともなければ、雑談することもほとんどなかった。

 そんな中で、ミシャはこっそりと本を差し入れてくれたり、こうして心配してくれたりと、ほかとはすこし違った。エカチェリーナは少し気を緩め、自然な笑みを浮かべる。

「本当に大丈夫よ。ありがとう」

「……もしかして、痛いですか? あの水……」

「えっ、どうして……」

 エカチェリーナは驚いて目を見開き、声をもらした。あわてて両手で口を塞ぐも、すでに肯定したも同じだ。

(ミシャ……?)

 エカチェリーナは不思議そうにミシャを見つめる。ミシャは小さく笑うと、何事もなかったかのようにエカチェリーナに手を差し伸べる。

「聖女さま……戻りましょう」

「え……ええ、そうね」

 エカチェリーナはその名をつぶやくと、ミシャの手を取って立ち上がる。ミシャは愛嬌のある笑顔を向け、その笑顔にエカチェリーナもつられてほほ笑んだ。

「ありがとう、ミシャ」

「光栄です」

 ミシャはそれ以上はなにも言わず、エカチェリーナを中へと促す。エカチェリーナもなにも言わず、室内に戻っていつも通りに振る舞った。

 中身のない祈りを捧げ、教徒たちの話を聞き流し、エカチェリーナの一日は過ぎていく。いつも通りのように見えて、わずかに、けれども確実に歪みは生まれていた。
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