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第一部
年下騎士の奮闘(3)
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レイモンドは何とか他の者には絡まれずに研究室にたどり着き、ほっと息を吐く。王宮の敷地内にある、薬草庭園の中にひっそりと建てられた、エレノーラ専用の研究室だ。彼女の薬と魔法の知識は価値あるものとして保護され、その知識を存分に活かすために用意された場所で、彼女は日中の殆どをここで過ごしていた。その間、彼女が接する人間は護衛の騎士、又は魔道士のみ。その担当の殆どはレイモンドだが、今日は王への謁見と訓練があったため、別の騎士が担当していた。
彼が研究室内に入ると、中は独特の香りが漂っていた。机に向かって何かを書き留めているエレノーラと、そばに控える護衛騎士の二人が見える。サンディブロンドの長い真っ直ぐな髪を後ろで一つにまとめている、切れ長のアメジストの目をした騎士だ。
「ニコラス」
「レイモンド、遅かったですね。噂はもう届いていますよ」
彼もレイモンドとは同じ師を仰いだ兄弟弟子であり、騎士団宿舎では同室、騎士としては先輩で、彼は何かとよく世話になっている。アグネスのことは彼も知っているので、噂を聞いて何があったかだいたい察しがついているのだろう。
(ニコラスはエレノーラと同い歳なんだよな…羨ましい)
レイモンドはエレノーラよりも年下であることを少し気にしていた。
「レイモンド!」
長いブルネットの髪を揺らし、アンバーの目を大きく開いて笑顔を浮かべたエレノーラは、立ち上がるとレイモンドの元へ駆け寄った。彼は腕を広げて抱きついてきた彼女をしっかりと抱きとめる。レイモンドはすりすりと胸に頭を擦り寄せてくるエレノーラに、顔がにやけそうになるのを堪えた。
「…ここで引き継ぎましょう。彼女を部屋まで送るのは、貴方に任せます」
それを終始、ニコラスが無表情に見ていたことに気づき、レイモンドは少し慌てる。
「…………わかりました。…そうだ、ニコラス。皆が今夜は酒盛りだと言っていました」
「そうですか。私は予定があるので、参加しませんが…おめでとうございます。それでは」
レイモンドはその場を辞したニコラスを見送り、エレノーラと向かい合う。彼は今朝、王との謁見で結婚の許可を貰いに行くと彼女に伝えてあった。彼女の嬉しさを滲ませた表情から、既にその結果は耳に届いているのだろう。
「エレノーラ…無事に、許可を貰えた」
「ふふっ、嬉しいわ!ありがとう、レイモンド」
エレノーラはつま先立って、レイモンドの唇にキスをした。彼はそのままもっとキスをしたい気持ちが湧いてくるが、まだ仕事中だと自制する。
「今日の仕事は終わったから、部屋に帰るわ」
「じゃあ、部屋まで送る」
「うんうん、お願い!それで、今夜は…あ、皆で酒盛りだったかしら」
「そんなの、別に…」
エレノーラはレイモンドの唇に指を押し当て言葉を止めると、笑って首を横に振った。
「だーめ。レイモンド、私たちは何時でも祝えるんだから。…ね、祝ってくれる人がいるんだから、祝われてきて?」
祝ってくれる人がいるという言葉に、レイモンドは黙り込んだ。エレノーラを祝う人は、全くいないとは言わないが、殆どいないだろう。どんな想いでその言葉を口にしたのかは察するに余りあり、彼は頷くしかなかった。
彼が研究室内に入ると、中は独特の香りが漂っていた。机に向かって何かを書き留めているエレノーラと、そばに控える護衛騎士の二人が見える。サンディブロンドの長い真っ直ぐな髪を後ろで一つにまとめている、切れ長のアメジストの目をした騎士だ。
「ニコラス」
「レイモンド、遅かったですね。噂はもう届いていますよ」
彼もレイモンドとは同じ師を仰いだ兄弟弟子であり、騎士団宿舎では同室、騎士としては先輩で、彼は何かとよく世話になっている。アグネスのことは彼も知っているので、噂を聞いて何があったかだいたい察しがついているのだろう。
(ニコラスはエレノーラと同い歳なんだよな…羨ましい)
レイモンドはエレノーラよりも年下であることを少し気にしていた。
「レイモンド!」
長いブルネットの髪を揺らし、アンバーの目を大きく開いて笑顔を浮かべたエレノーラは、立ち上がるとレイモンドの元へ駆け寄った。彼は腕を広げて抱きついてきた彼女をしっかりと抱きとめる。レイモンドはすりすりと胸に頭を擦り寄せてくるエレノーラに、顔がにやけそうになるのを堪えた。
「…ここで引き継ぎましょう。彼女を部屋まで送るのは、貴方に任せます」
それを終始、ニコラスが無表情に見ていたことに気づき、レイモンドは少し慌てる。
「…………わかりました。…そうだ、ニコラス。皆が今夜は酒盛りだと言っていました」
「そうですか。私は予定があるので、参加しませんが…おめでとうございます。それでは」
レイモンドはその場を辞したニコラスを見送り、エレノーラと向かい合う。彼は今朝、王との謁見で結婚の許可を貰いに行くと彼女に伝えてあった。彼女の嬉しさを滲ませた表情から、既にその結果は耳に届いているのだろう。
「エレノーラ…無事に、許可を貰えた」
「ふふっ、嬉しいわ!ありがとう、レイモンド」
エレノーラはつま先立って、レイモンドの唇にキスをした。彼はそのままもっとキスをしたい気持ちが湧いてくるが、まだ仕事中だと自制する。
「今日の仕事は終わったから、部屋に帰るわ」
「じゃあ、部屋まで送る」
「うんうん、お願い!それで、今夜は…あ、皆で酒盛りだったかしら」
「そんなの、別に…」
エレノーラはレイモンドの唇に指を押し当て言葉を止めると、笑って首を横に振った。
「だーめ。レイモンド、私たちは何時でも祝えるんだから。…ね、祝ってくれる人がいるんだから、祝われてきて?」
祝ってくれる人がいるという言葉に、レイモンドは黙り込んだ。エレノーラを祝う人は、全くいないとは言わないが、殆どいないだろう。どんな想いでその言葉を口にしたのかは察するに余りあり、彼は頷くしかなかった。
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