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第二部
私の可愛い旦那様(6)
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「それは…その…」
「あんまり冷たくしちゃうと…その、ちょっと、まずいかなあって」
国敵である享楽の魔女の元にいた魔女ということで、多くの人々の薬草の魔女への評価は地を這うくらいまで落ちきっている。あの年若い騎士のように、エレノーラを好意的に見ている人は珍しい。彼女はそんな珍しい相手に冷たい態度をとり、それが失われてしまうのは少し怖かった。彼女がそんな気持ちを込めて伝えると、レイモンドは少し落ち込んだように眉尻を下げる。
「…そう、だな。ごめん、僕が大人気なかった」
エレノーラはレイモンドが落ち込むとは思わず、彼女の方が慌ててしまう。
「えっ…あ、ううん、私も逆の立場だったら嫌だと思うもの」
「あの状況だけ変えても、僕とエレノーラは同じ立場にはならない」
彼女はその言葉に返す言葉もなかった。レイモンドは国敵を倒したこの国の英雄的存在、対して彼女はその国敵の元にいた魔女、土台が違いすぎる。
(うぅ、今の、結構お腹にぐっときたなあ…)
こうして奇跡的に夫婦になった二人だが、エレノーラは立場に差があまりにもあることを改めて自覚する。レイモンドが多少冷たい態度を取ったとしてもその立場は揺るがないが、彼女は悪化する一方だ。三年近く地道に国に尽くしているが、それでもまだまだ彼女の評価はすこぶる悪い。
レイモンドのように、エレノーラが各地を巡っていた頃に彼女に助けられたと恩を感じている人や、レイモンドの先輩であるニコラスのような、彼女に同情的な人もいる。けれど、それは少数であって、そうでない人の方が多い。
「今まで通りでいい」
「でも…」
エレノーラがそれ以上何かを言う前に、レイモンドが片手で彼女の唇を塞いだ。
(ここは唇で塞いでくれてもいいのよ)
なんて考えられるくらいには、エレノーラは余裕があるらしい。彼女はそのまま上目でレイモンドを見ると、彼は少し顔を赤くして目を逸らした。
「ちょっと、妬くかもしれないけど…その分、エレノーラが僕が好きだってこと、教えてくれるだろ」
エレノーラはその言葉に両手を握りしめ、何度も深く頷く。彼女は今すぐにでも口付けたかったが、レイモンドの手が邪魔で出来なかった。エレノーラが期待するように目を輝かせてレイモンドを見つめると、彼は少し周りを見回す。誰もいないことを確認すると、彼はその手を退けたので、彼女はそのまま飛びついて口付けた。
「ちょ、エレ…っ」
エレノーラが何度も口付けると、レイモンドは諦めたのか、それを受け入れる。彼女の腰に腕を回し、彼女の髪に指を差し入れると、深く口付け直した。
「…続きは、戻ってからにしよう」
「うんうん!」
唇が離れ、至近距離でそう呟いたレイモンドに彼女は二つ返事で頷く。そのせいでおでこがぶつかってしまって、可笑しくなって、二人して笑った。
「あんまり冷たくしちゃうと…その、ちょっと、まずいかなあって」
国敵である享楽の魔女の元にいた魔女ということで、多くの人々の薬草の魔女への評価は地を這うくらいまで落ちきっている。あの年若い騎士のように、エレノーラを好意的に見ている人は珍しい。彼女はそんな珍しい相手に冷たい態度をとり、それが失われてしまうのは少し怖かった。彼女がそんな気持ちを込めて伝えると、レイモンドは少し落ち込んだように眉尻を下げる。
「…そう、だな。ごめん、僕が大人気なかった」
エレノーラはレイモンドが落ち込むとは思わず、彼女の方が慌ててしまう。
「えっ…あ、ううん、私も逆の立場だったら嫌だと思うもの」
「あの状況だけ変えても、僕とエレノーラは同じ立場にはならない」
彼女はその言葉に返す言葉もなかった。レイモンドは国敵を倒したこの国の英雄的存在、対して彼女はその国敵の元にいた魔女、土台が違いすぎる。
(うぅ、今の、結構お腹にぐっときたなあ…)
こうして奇跡的に夫婦になった二人だが、エレノーラは立場に差があまりにもあることを改めて自覚する。レイモンドが多少冷たい態度を取ったとしてもその立場は揺るがないが、彼女は悪化する一方だ。三年近く地道に国に尽くしているが、それでもまだまだ彼女の評価はすこぶる悪い。
レイモンドのように、エレノーラが各地を巡っていた頃に彼女に助けられたと恩を感じている人や、レイモンドの先輩であるニコラスのような、彼女に同情的な人もいる。けれど、それは少数であって、そうでない人の方が多い。
「今まで通りでいい」
「でも…」
エレノーラがそれ以上何かを言う前に、レイモンドが片手で彼女の唇を塞いだ。
(ここは唇で塞いでくれてもいいのよ)
なんて考えられるくらいには、エレノーラは余裕があるらしい。彼女はそのまま上目でレイモンドを見ると、彼は少し顔を赤くして目を逸らした。
「ちょっと、妬くかもしれないけど…その分、エレノーラが僕が好きだってこと、教えてくれるだろ」
エレノーラはその言葉に両手を握りしめ、何度も深く頷く。彼女は今すぐにでも口付けたかったが、レイモンドの手が邪魔で出来なかった。エレノーラが期待するように目を輝かせてレイモンドを見つめると、彼は少し周りを見回す。誰もいないことを確認すると、彼はその手を退けたので、彼女はそのまま飛びついて口付けた。
「ちょ、エレ…っ」
エレノーラが何度も口付けると、レイモンドは諦めたのか、それを受け入れる。彼女の腰に腕を回し、彼女の髪に指を差し入れると、深く口付け直した。
「…続きは、戻ってからにしよう」
「うんうん!」
唇が離れ、至近距離でそう呟いたレイモンドに彼女は二つ返事で頷く。そのせいでおでこがぶつかってしまって、可笑しくなって、二人して笑った。
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