公爵令息はメイドを逃さない

茜菫

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「やっぱり、私にはテオフィルさまの妻なんて……」

「なにがいけない?」

「え?」

「クリステルの憂いを教えて? 全部、片づけるから」

 テオフィルの悪魔の瞳と恐れられる漆黒の双眸がクリステルを囚えている。頬に添えられた手にさほど力は入っていないはずなのに、クリステルはぴくりとも動けず、テオフィルの目から目をそらすことができなかった。

「さあ、言って」

 クリステルは暗く、底しれぬ深いテオフィルの目に吸い込まれそうな感覚を覚える。テオフィルを納得させられる理由を言わなければと思いながらも頭が回らず、わずかに唇を震わせたクリステルは小さな声で答えた。

「な……なにも……」

「よかった。これでもう、私から離れる理由はないよね」

 ぱっと離れたテオフィルは満面の笑みを浮かべ、明るい声を上げた。そこにぞっとするような恐ろしさはなく、いつもと変わらぬテオフィルの笑顔がある。

「クリステル、私はきみが大好きなんだ。だから、私の妻になってくれるよね?」

 テオフィルはクリステル好みの顔に笑みを浮かべ、愛の告白をした。声はやさしく言葉面は問いになっているが、有無を言わせない雰囲気を感じる。大好きなテオフィルのはずなのになぜか逃げ出したくなったクリステルは、承知も不承知も答えず、恐る恐る問いかけた。

「テ……テオフィルさま……本気、ですか……?」

「私の想いを、疑っているのかい?」

 そう言ったテオフィルは変わらず笑顔だったが、その目は笑っていない。クリステルはそれに気づかず、先に立ち上がったテオフィルから差し出された手をとって立ち上がった。

「なら、私の想いをしっかり感じて、わかってもらわないとね」

「え? ……ぎゃっ」

「ははっ、ぎゃって……なにその悲鳴」

 テオフィルはクリステルを軽々と抱き上げた。驚きのあまり、奇妙な悲鳴を上げて首に抱きついたクリステルを笑いながら、テオフィルは彼女を運んで歩いていく。その足の行く先に気づいたクリステルは顔を赤くしたり、青くしたりと大忙しだ。

「テオフィルさま、なにを……ご乱心ですか?」

 悲鳴のように声を上げたクリステルを無視し、テオフィルは彼女をベッドに下ろした。続いてベッドに乗り上げ、首元を緩める彼がなにをしようとしているのかわからないほど、クリステルも無知ではない。

「これから、妻にしかしないことをするんだよ」

「私、妻ではないですが!?」

「クリステルが妻になることは決まっているから、良いんだ」

 テオフィルにクリステルを逃がすつもりなど一切ないのだろう。

「……そう、決まっているんだよ。そのために、私はずっと……」

 テオフィルはクリステルをそばに置くため、さまざまな手立てを講じてきた。クリステル好みに外見も所作もあわせてきたし、彼女を不快にさせる人間も処理してきた。行動を逐一監視させ、男どもは引き離し、妻とする可能性を視野に入れて策を弄した。

「かわいそうなクリステル。私に目をつけられるなんて」

 もちろん、クリステルの同意を得られることが一番望ましいが、得られなくとも構わない。この国の貴重な魔法使いの中でも飛び抜けた実力をもち、いずれは公爵となるテオフィルには、クリステルが望まなくとも彼の望みを叶えるだけの権力があるのだ。

「テ、テオフィルさま……?」

「きみが悪いんだよ?」

 暗い目を細め、うっそりとほほ笑みながらつぶやいたテオフィルはクリステルの顎を片手でつかみ、その唇に自分のそれを重ねた。驚いて息を止めたクリステルだが、そのうち息が苦しくなって口を開く。追い打ちをかけるようにテオフィルが舌を差し入れ、クリステルの舌を捕らえた。

「っ、は……っ、……っ」

 甘い舌の交わりは、クリステルの緊張をほどいていく。唇が離れると、クリステルは体の力が抜けて惚けた表情でテオフィルを見上げた。

「テオフィルさま……」

 クリステルの頭に拒まなければならないという想いはあったが、テオフィルへの想いがそれを打ち消していた。テオフィルはクリステルの背に手を差し込み、器用にも服の紐を解いていく。服が緩み、テオフィルは下のスカートとひと繋ぎになった服を引きずり下ろす、と思ったが。

「へっ……うぅ?」

 テオフィルはスカートをまくり上げ、上の服ごと引き上げた。クリステルの顔が服に覆われ、視界を奪われた彼女は混乱して声を上げた。

「ああ、ごめんごめん」

 そのまま更に服が引き上げられ、クリステルの顔は自由になる。だが、クリステルの両腕は服につられて上がり、頭上で服に絡め取られて自由を奪われた。

「テオフィルさま、これ……っ」

 残ったのは下着のみ、胸をあらわにされて両腕を拘束された状態でクリステルは顔を真っ赤に染めた。クリステルが必死に腕を動かしても拘束がゆるむ様子はなく、テオフィルはそのさまを見下ろしながら彼女の両脚を開かせ、その間に割り入る。

「クリステル、始めようか」

 暗い瞳に情欲を宿し、ほほ笑んだテオフィルはおもむろに懐に手を差し入れ、小さな瓶を取り出した。コルクで封をされた瓶には無色透明の液体で満たされている。

 テオフィルは瓶のコルクを引き抜くと、その中身をクリステルの胸元に垂らした。少し粘度のある液体が肌に落ち、その冷たさにクリステルはびくりと体を震わせる。

「ひえっ」

「ああ、冷たかったね」

 テオフィルは笑いながら残った瓶をそばのテーブルに置くと、液体を両の掌で広げながらクリステルの胸に塗った。テオフィルの手は滑りながら胸をやさしくもみ解し、その頂きにも液体が纏わりつかせrう。クリステルは不思議な感覚に声をもらした。

「あ……?」

 胸の頂きがじんじんと熱を帯びていく。その反応を確認したテオフィルが両方の頂きを指で摘むと、クリステルは甘い声を上げた。

「ひゃあっ」

「効いているみたいだね」

「こ、これ、なに……っ」

「クリステルの体に合わせた、媚薬さ」

「び、びやく……? あ、合わせた?」

「初めてだし、クリステルが痛がる姿も見たいけれど、痛くてもう嫌ってなったら困るしね。私も初めてだし……クリステルの体に合うよう、結構がんばったんだよ?」

 痛がる姿を見たいという発言や、体に合うようにとはどういうことなのか、なぜ媚薬を持ち歩いているのか。さまざまな突っ込みどころがあったが、クリステルはそれどころではなかった。
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