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調査開始③
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報告書の束を読み終えたときには、既に太陽は西へ沈み始め、空を茜色に染めていた。
王都にいるとき、殺害された騎士達は「血を抜かれて死んでいた」と聞かされていたが、実際には鋭利な刃物のようなもので首を切られていたということが分かった。
一般的なイシューは獣型であり、もしイシューによって殺された場合には鋭い牙によってえぐられる形となることが多い。
「犯人はやはり人間って可能性が高いわね」
他の被害者達の証言を聞くために村の市場へ向かう道すがら、状況についてリンとアンリは互いの知りえた情報を報告しあっていた。
「その話を聞く限りでは、私もそう思います」
「で、アンリのほうは?」
アンリは過去に発生した誘拐事件について詳細を確認していた。
「リンが睨んだとおり、定期的に誘拐事件が発生しているようです」
「やっぱり、あの言い伝えはあながち嘘でもないってことね」
ガザンには『森より悪魔がやってきて、子供を攫う』という言い伝えがあるということを、王都にいるときにリンたちは聞いていた。
単なる言い伝えかと思ってみたが、念のために調べたところ、ガザンでは乳児の誘拐が相次いでいるということが判明した。
「ええ。しかもちょっと面白いことが分かりました」
「面白いこと?」
「誘拐される人数は決まっていないようです。ばらつきもありますし。ただし、その周期が五年に一度です」
「五年に一度……」
「ですが、前々回、つまり十五年前だけは誘拐事件が起こっていないのです」
「ずっと定期的に発生しているのに、十五年前はないなんて、なんか変ね」
リンはアンリの報告を聞いて暫し考え込んだ。
「もし……この犯人が人間だったとして、そもそもちょっとおかしいと思わない?言い伝えでは『森より悪魔がやってきて』と断定している。普通に考えたら悪魔=イシューとなるでしょ?でも今回少なくとも今回の犯行は人間の仕業よ。なんかしっくりこないのよね」
「便乗犯……ということでしょうか?」
うーん、と二人ともしかめ面で呟いた。
「もう少し情報が必要ですね。村に行って、何か分かるといいのですが…」
「そうね」
気づくと既に村の入り口を通りぬけ、市場へと着いていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!!」
威勢の良い声が市場のあちこちから聞こえてくる。
ガザンの村は、村というよりも街とよべる程活気に溢れていた。
王都とまではいかないが、ラスフィンヌはエンティア王国の中でも水源に恵まれていることもあり、村の市場には色とりどりの作物が並んでいる。
「すっごい活気ね。村も賑やかだし…あ、あれ何かな?」
露天に並ぶ珍しい工芸品を見つけるとリンは駆け出した。
「リン、あんまり遠くに行くと、逸れちゃいますよ」
「アンリ!はやく、はやく!!」
「はいはい」
こんなときリンは年よりも幼く見えるとアンリは思った。
戦いの日々のなか、時折見せる年相応の笑顔を、アンリはいつも見ていたいと思う。
だが、それをリンの運命はそれを許してはくれない。
だからこそ、いつか穏やかに笑える日が来るまで、彼女を支えたいアンリは願っていた。
「アンリ!!早く」
リンが遠くで手を振りながらアンリの名を呼ぶ。
それに答えるようにアンリがゆっくりと歩きだし、リンの元へと向かった。アンリが傍に行くと、リンは訝しげに商人を見つめていた。
「どうしたんですか?」
リンの視線の先にはいかにも胡散臭い武器商人が若い男を捕まえてうんちくを述べている。
「兄さんついてるよぉ!この効力の護符がこの値段なんてなかなかないよぉ!」
使い手がみれば明らかに粗悪品であったが、呼び止められた青年は熱心にその護符を見ていた。
「これは、なんですか?」
「おや、兄さん、護符を知らないのかい?」
「僕はあまり買い物に出ないもので…」
「そうかい。この護符に書かれている言葉は女神ラーダを称える言葉さぁ。呪文の詠唱によってこの文字がイシューに巻きついて、奴等の動きを止めるっていう代物さぁ!」
「へぇ、そんなのが有るんですか」
年の頃は十八、九だろうか。いかにも人が良さそうな顔立ちをしており、世間知らずというのが人目で見てとれた。
そんな青年に付け入る様に商人は畳み掛けた。
「こんないい品はめったに入らないよぉ!三万ギアでどうだいぃ!?」
「そうですか。ではもらえますか?」
「お!毎度有りぃ!!それより兄さん、もっといいものがあるんだよぉ。ここだけの話、『女神の翼』が手に入ったんだぁ。兄さんに是非譲りたいんだがぁ…」
そう言って、白い羽根を青年に見せる。
「女神の……翼?」
「そう、あの伝説の翼だよぉ!めったに手に入らないよぉ!!」
二人のやり取りを終始見ていたリンは、たまりかねたように二人の会話に割って入った。
「おっさん!!いい加減なこと言わないほうが身のためよ!」
「なんだ、この小娘ぇ!」
「さっきこのお兄さんに売った護符だけど、これは粗悪品よね。文字がところどころ間違えているし、文字を描いている塗料も混ぜ物だし。三万ギアぁ!?せいぜい三百ギアがいいところよ!!」
「さっきから黙って聞いてりゃこの小娘ぇ!言いがかりをつける気かぁ!?」
「ふーん。いいがかりねぇ。そういや、おじさん、聖具は取り扱っていないの?何なら言い値で買うよ」
「は?聖具ぅ?」
突然の展開に商人は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、言い値で買うという言葉に反応し、食いつかんばかりに言った。
「お、おうありますともぉ。聖具ですねぇ」
そう言って出してきたのは単なる手袋であった。
「ふーん。これが聖具ね……。おじさん、本当の聖具って言うのはね……」
にっこりと微笑んだリンの表情が一変した。
「このことだよ!」
「ほ、本物ぉ?!」
リンは左手に装着した聖具を、これでもかといわんばかりに、商人に見せ付けた。
「良く見なさい!!これが本物の聖具よ。おじさん、いい加減にしないとすぐさま営業停止にしちゃうわよ!」
「ま、まさかぁ……聖騎士が……ありえない……」
「ふふふ。おじさん、おとなしくお金返そうね」
「は、はいぃぃ!」
半分悲鳴を上げつつ、商人は青年から奪ったお金を渡すと、その場にひれ伏した。
「よろしいよろしい。んじゃ、行きましょうか」
うんうんと頷きながら商人からお金を受け取ったリンは、周囲に人だかりができていることに気づいた。
さっきの口論で野次馬が集まってきたのだろう。
聖騎士として目立ってしまうのは、事件の事情聴取をする際には都合が悪い。
「やば!!ちょっと、はやく行くわよ!」
リンは青年の手をひいてその場を逃げるように離れた。
「あ、あの!!」
しばらく歩いていると青年がたまりかねたように声を掛けた。
「よし、ココまでくればいいかな。はい、お金」
リンは突然足を止め、くるりと踵を返し、持っていたお金を青年に渡す。
「え?あ?あ、ありがとう……ございます」
「ダメですよ、あんなのに引っかかっちゃ。市場では値切って買うのは当たり前なんですからね」
「はい……すみません。よく、アレが偽物って分かりましたね」
「ま、職業柄武器には詳しいですし。っていうより、お兄さん騙されすぎですよ!女神の翼なんてありえないですからね!!」
「女神の翼……ですか?」
「え!もしかして知らないですか……?」
青年はコクリと小さく頷いた。
「お兄さん、本当に使い手?」
「使い手?」
「使い手ですよ!!イシューを倒せる特殊能力者ですよ!ほら、村や街に必ずいるでしょ?」
「すみません、先ほどから言っているイシューというのも見たことがないんです」
そのときのリンの顔は、まるで麦茶だと思って飲んだ飲み物が天汁だってといような衝撃を受けた表情だった。
さすがにその様子を見て、青年は自分が変なことを言っているということを自覚したようだ。
「やっぱり……変なことなんでしょうか?」
「まぁ……一度くらいはイシューを見たことがあるいうのが普通だと思うけど……。あなたはきっと幸せなのね。戦いの無い世界で過ごしてきたんだわ」
リンにとっては縁遠い世界に生きる青年を、少し羨ましいと思った。
「イシューっていうのは人間を糧とする化け物のことよ。森や闇に隠れ住んでいて、こいつらにあったらほぼ確実に殺されてしまう。だからこそ、それに対峙する使い手がいるのよ」
「そうなんですか。いままで森に入っても何にも起こらなかったんで、知りませんでした」
「それは幸運だわ。使い手はさっきあなたが買おうとしていた護符でイシューを縛ることができるの。もっとも一定時間が経過するとイシューの呪縛は解けちゃうけどね」
「え!!じゃぁ、その化け物を倒すにはどうすればいいんですか!?」
「人間の力ではイシューは封じることができても、倒すことは出来ないの」
「倒すことはできない…」
「そう。唯一イシューに滅びをもたらすことが出来る武器、それが女神の翼よ」
「それがさっきの武器ですか?」
「え、これ?これは聖具っていう武器だけど、残念ながらイシューを滅ぼすことは出来ないわ」
確かに聖具は使い手の持つ武器の中で最強であるが、イシューを封印する力に秀でているだけで、滅ぼすことは出来ない。
「女神の翼は伝説の武器。女神ラーダが地上に与えた奇跡の1つよ。イシューに殺されていく人間を憐れんだ女神がその翼を地上に捧げたものって言われているけど、実際にはそんな武器は発見されていないっていうわ」
「でも、実在する武器なんですよね?」
「たぶん……ね。国を挙げて探しているらしいけど、未だに見つかっていないところをみると、それも怪しいかもしれないわね」
「そうですか……」
その時、遠くからリンを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、アンリだわ!やば!!すっかり忘れてた!もう、私帰るね。お兄さん、もう騙されちゃだめですよ」
アンリの元に帰ろうとしたリンを、青年は呼び止めた。
「もう一つだけ聞いていいですか!!」
「ん?何?」
「その女神の翼は、神様も倒すことができるのでしょうか?」
王都にいるとき、殺害された騎士達は「血を抜かれて死んでいた」と聞かされていたが、実際には鋭利な刃物のようなもので首を切られていたということが分かった。
一般的なイシューは獣型であり、もしイシューによって殺された場合には鋭い牙によってえぐられる形となることが多い。
「犯人はやはり人間って可能性が高いわね」
他の被害者達の証言を聞くために村の市場へ向かう道すがら、状況についてリンとアンリは互いの知りえた情報を報告しあっていた。
「その話を聞く限りでは、私もそう思います」
「で、アンリのほうは?」
アンリは過去に発生した誘拐事件について詳細を確認していた。
「リンが睨んだとおり、定期的に誘拐事件が発生しているようです」
「やっぱり、あの言い伝えはあながち嘘でもないってことね」
ガザンには『森より悪魔がやってきて、子供を攫う』という言い伝えがあるということを、王都にいるときにリンたちは聞いていた。
単なる言い伝えかと思ってみたが、念のために調べたところ、ガザンでは乳児の誘拐が相次いでいるということが判明した。
「ええ。しかもちょっと面白いことが分かりました」
「面白いこと?」
「誘拐される人数は決まっていないようです。ばらつきもありますし。ただし、その周期が五年に一度です」
「五年に一度……」
「ですが、前々回、つまり十五年前だけは誘拐事件が起こっていないのです」
「ずっと定期的に発生しているのに、十五年前はないなんて、なんか変ね」
リンはアンリの報告を聞いて暫し考え込んだ。
「もし……この犯人が人間だったとして、そもそもちょっとおかしいと思わない?言い伝えでは『森より悪魔がやってきて』と断定している。普通に考えたら悪魔=イシューとなるでしょ?でも今回少なくとも今回の犯行は人間の仕業よ。なんかしっくりこないのよね」
「便乗犯……ということでしょうか?」
うーん、と二人ともしかめ面で呟いた。
「もう少し情報が必要ですね。村に行って、何か分かるといいのですが…」
「そうね」
気づくと既に村の入り口を通りぬけ、市場へと着いていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!!」
威勢の良い声が市場のあちこちから聞こえてくる。
ガザンの村は、村というよりも街とよべる程活気に溢れていた。
王都とまではいかないが、ラスフィンヌはエンティア王国の中でも水源に恵まれていることもあり、村の市場には色とりどりの作物が並んでいる。
「すっごい活気ね。村も賑やかだし…あ、あれ何かな?」
露天に並ぶ珍しい工芸品を見つけるとリンは駆け出した。
「リン、あんまり遠くに行くと、逸れちゃいますよ」
「アンリ!はやく、はやく!!」
「はいはい」
こんなときリンは年よりも幼く見えるとアンリは思った。
戦いの日々のなか、時折見せる年相応の笑顔を、アンリはいつも見ていたいと思う。
だが、それをリンの運命はそれを許してはくれない。
だからこそ、いつか穏やかに笑える日が来るまで、彼女を支えたいアンリは願っていた。
「アンリ!!早く」
リンが遠くで手を振りながらアンリの名を呼ぶ。
それに答えるようにアンリがゆっくりと歩きだし、リンの元へと向かった。アンリが傍に行くと、リンは訝しげに商人を見つめていた。
「どうしたんですか?」
リンの視線の先にはいかにも胡散臭い武器商人が若い男を捕まえてうんちくを述べている。
「兄さんついてるよぉ!この効力の護符がこの値段なんてなかなかないよぉ!」
使い手がみれば明らかに粗悪品であったが、呼び止められた青年は熱心にその護符を見ていた。
「これは、なんですか?」
「おや、兄さん、護符を知らないのかい?」
「僕はあまり買い物に出ないもので…」
「そうかい。この護符に書かれている言葉は女神ラーダを称える言葉さぁ。呪文の詠唱によってこの文字がイシューに巻きついて、奴等の動きを止めるっていう代物さぁ!」
「へぇ、そんなのが有るんですか」
年の頃は十八、九だろうか。いかにも人が良さそうな顔立ちをしており、世間知らずというのが人目で見てとれた。
そんな青年に付け入る様に商人は畳み掛けた。
「こんないい品はめったに入らないよぉ!三万ギアでどうだいぃ!?」
「そうですか。ではもらえますか?」
「お!毎度有りぃ!!それより兄さん、もっといいものがあるんだよぉ。ここだけの話、『女神の翼』が手に入ったんだぁ。兄さんに是非譲りたいんだがぁ…」
そう言って、白い羽根を青年に見せる。
「女神の……翼?」
「そう、あの伝説の翼だよぉ!めったに手に入らないよぉ!!」
二人のやり取りを終始見ていたリンは、たまりかねたように二人の会話に割って入った。
「おっさん!!いい加減なこと言わないほうが身のためよ!」
「なんだ、この小娘ぇ!」
「さっきこのお兄さんに売った護符だけど、これは粗悪品よね。文字がところどころ間違えているし、文字を描いている塗料も混ぜ物だし。三万ギアぁ!?せいぜい三百ギアがいいところよ!!」
「さっきから黙って聞いてりゃこの小娘ぇ!言いがかりをつける気かぁ!?」
「ふーん。いいがかりねぇ。そういや、おじさん、聖具は取り扱っていないの?何なら言い値で買うよ」
「は?聖具ぅ?」
突然の展開に商人は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、言い値で買うという言葉に反応し、食いつかんばかりに言った。
「お、おうありますともぉ。聖具ですねぇ」
そう言って出してきたのは単なる手袋であった。
「ふーん。これが聖具ね……。おじさん、本当の聖具って言うのはね……」
にっこりと微笑んだリンの表情が一変した。
「このことだよ!」
「ほ、本物ぉ?!」
リンは左手に装着した聖具を、これでもかといわんばかりに、商人に見せ付けた。
「良く見なさい!!これが本物の聖具よ。おじさん、いい加減にしないとすぐさま営業停止にしちゃうわよ!」
「ま、まさかぁ……聖騎士が……ありえない……」
「ふふふ。おじさん、おとなしくお金返そうね」
「は、はいぃぃ!」
半分悲鳴を上げつつ、商人は青年から奪ったお金を渡すと、その場にひれ伏した。
「よろしいよろしい。んじゃ、行きましょうか」
うんうんと頷きながら商人からお金を受け取ったリンは、周囲に人だかりができていることに気づいた。
さっきの口論で野次馬が集まってきたのだろう。
聖騎士として目立ってしまうのは、事件の事情聴取をする際には都合が悪い。
「やば!!ちょっと、はやく行くわよ!」
リンは青年の手をひいてその場を逃げるように離れた。
「あ、あの!!」
しばらく歩いていると青年がたまりかねたように声を掛けた。
「よし、ココまでくればいいかな。はい、お金」
リンは突然足を止め、くるりと踵を返し、持っていたお金を青年に渡す。
「え?あ?あ、ありがとう……ございます」
「ダメですよ、あんなのに引っかかっちゃ。市場では値切って買うのは当たり前なんですからね」
「はい……すみません。よく、アレが偽物って分かりましたね」
「ま、職業柄武器には詳しいですし。っていうより、お兄さん騙されすぎですよ!女神の翼なんてありえないですからね!!」
「女神の翼……ですか?」
「え!もしかして知らないですか……?」
青年はコクリと小さく頷いた。
「お兄さん、本当に使い手?」
「使い手?」
「使い手ですよ!!イシューを倒せる特殊能力者ですよ!ほら、村や街に必ずいるでしょ?」
「すみません、先ほどから言っているイシューというのも見たことがないんです」
そのときのリンの顔は、まるで麦茶だと思って飲んだ飲み物が天汁だってといような衝撃を受けた表情だった。
さすがにその様子を見て、青年は自分が変なことを言っているということを自覚したようだ。
「やっぱり……変なことなんでしょうか?」
「まぁ……一度くらいはイシューを見たことがあるいうのが普通だと思うけど……。あなたはきっと幸せなのね。戦いの無い世界で過ごしてきたんだわ」
リンにとっては縁遠い世界に生きる青年を、少し羨ましいと思った。
「イシューっていうのは人間を糧とする化け物のことよ。森や闇に隠れ住んでいて、こいつらにあったらほぼ確実に殺されてしまう。だからこそ、それに対峙する使い手がいるのよ」
「そうなんですか。いままで森に入っても何にも起こらなかったんで、知りませんでした」
「それは幸運だわ。使い手はさっきあなたが買おうとしていた護符でイシューを縛ることができるの。もっとも一定時間が経過するとイシューの呪縛は解けちゃうけどね」
「え!!じゃぁ、その化け物を倒すにはどうすればいいんですか!?」
「人間の力ではイシューは封じることができても、倒すことは出来ないの」
「倒すことはできない…」
「そう。唯一イシューに滅びをもたらすことが出来る武器、それが女神の翼よ」
「それがさっきの武器ですか?」
「え、これ?これは聖具っていう武器だけど、残念ながらイシューを滅ぼすことは出来ないわ」
確かに聖具は使い手の持つ武器の中で最強であるが、イシューを封印する力に秀でているだけで、滅ぼすことは出来ない。
「女神の翼は伝説の武器。女神ラーダが地上に与えた奇跡の1つよ。イシューに殺されていく人間を憐れんだ女神がその翼を地上に捧げたものって言われているけど、実際にはそんな武器は発見されていないっていうわ」
「でも、実在する武器なんですよね?」
「たぶん……ね。国を挙げて探しているらしいけど、未だに見つかっていないところをみると、それも怪しいかもしれないわね」
「そうですか……」
その時、遠くからリンを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、アンリだわ!やば!!すっかり忘れてた!もう、私帰るね。お兄さん、もう騙されちゃだめですよ」
アンリの元に帰ろうとしたリンを、青年は呼び止めた。
「もう一つだけ聞いていいですか!!」
「ん?何?」
「その女神の翼は、神様も倒すことができるのでしょうか?」
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