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これがざまぁというものです②
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「アンジェリカ?使者殿と知り合いなのか?」
「使者?」
「あぁ、この者がクローディス殿下の夜会の招待状を届けてくれた使者だが……」
そんな二人を見ながらロベルトはいつもの王子様スマイルを浮かべた。
ある意味白々しい演技でもある。
ロベルトは一歩アンジェリカに近づく。
「やぁ、お花さん。またお会いできて光栄だよ」
「どうして……ここに……?」
「どういうことだ?確かにこの間俺の主催で歓迎の夜会を開いたが……君も会ったのか?」
「い……いえ……」
戸惑うアンジェリカの不自然な様子にルベールも戸惑いの表情を浮かべている。
「……アンジェリカ、どういうことだ?」
言葉に詰まっているアンジェリカを見ながらロベルトはもう一歩近づくと、アンジェリカは反射的に一歩後ずさる。
それをただ事ではないと感じたルベールはアンジェリカとロベルトの元に割って入り、庇う様に立った。
「君、どういうつもりだ!アンジェリカを怖がらせているじゃないか!」
「僕は僕の恋人を迎えに来ただけだよ」
「恋人だと?」
ルベールの眉がピクリと上がった。
「〝あぁー愛しい人。どうしてあなたは私を置いてメイナードなどに帰ってしまうの?〟」
そう言いながらロベルトは一枚のカードを懐から取り出した。
「せっかくの情熱的な君の言葉を皆にも教えてあげたいな。続きを読んであげよう。『ロベルト、私はあなたを心の底から愛してしまった。でも許して。私がメルナードに行くにはクローディス殿下にお会いしなくては。あの月夜のことは私も忘れていないわ。心変わりなんて絶対にしないからクローディス殿下にお会いさせて頂戴。愛する私の王子様へ アンジェリカより』」
ゆっくりと歩きながら意味ありげにロベルトはアンジェリカに視線を送る。
それを遮るようにアンジェリカの声が響いた。
「止めて!」
「愛……だと?嘘だ……アンジェリカは俺の恋人だ!そんなはずはない!」
「じゃあ、その首筋の跡はどう説明するわけかな?」
「跡?」
その瞬間アンジェリカは首筋に手をやった。
「ほら、そのチョーカーを外せば動かぬ証拠になるかな?僕が外す?それとも元カレのルベール殿下に外してもらった方がいいかな?」
ルベールはその言葉に弾かれるようにアンジェリカのチョーカーを乱暴に外した。
アンジェリカは短い言葉を発してそれを止めようとしたが、時はすでに遅く、その首筋にくっきりと残された口づけの後があらわになった。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!アンジェリカはそんな女ではない!」
「では、これはどうかな?」
そう言ってクローディスもまたカードを取り出した。
「先ほど証言を得たようにこの家紋はラスター家のものだと先ほど証言を得たな。これも読み上げようか?アンジェリカ嬢」
正直に言おう。
アドリアーヌはラスター家を叩くとは聞いていたが、事の顛末がどうなっているのかは分からない。
要は何が起こっているのか、アドリアーヌ自体も状況が飲み込めないでいた。
(えっと……ロベルトがアンジェリカに何か罠を仕掛けているのよね?多分ルベール様を裏切らせるとかそういう類だろうけど……クローディス殿下とアンジェリカがどういう繋がりになるわけ?)
だが当のアンジェリカは何らかの罪が暴かれることの恐怖からか青ざめたまま呼吸を荒くしていた。
ちんぷんかんぷんといった表情のアドリアーヌに向かって、そして同時にルベールにもクリーディスは笑いながら説明交じりに言ってくれた。
「ムルム伯爵の力を借りて、少し調べたことがある。アドリアーヌが国外追放になってからのグランディアス国の内情だ。グランディアス王国の筆頭貴族でもあるミスカルド家はアドリアーヌが国外追放になったことを受け、責任を取る形で第二王子ルベール殿下から距離を置いて領地に引きこもった」
アドリアーヌも国外追放された段階では家に見放されてこの地に追いやられたが、実家のミスカルド家がどうなったかは少なからず心配であった。
(まぁ、あの両親のことだから……ダメージなんて受けてなさそうだけどね)
アドリアーヌの予想は当たった。
「まず筆頭貴族で公爵家のミスカルド家が政治を離れたことで正直国政が回らなくなった。その上で第二王子支持を取りやめ、第一王子支持層へと近づいた」
ある意味で愛娘を国外追放した国王と第二王子に対する復讐といったところだろう。
第一王子は聡明ではあるが側室の子でもある。
しかも本妻のグランディア王妃が彼の命を狙っていたのだ。
ただ、ミスカルド家は第一王子の母親の遠縁であり、王妃から睨まれるのを避けるためと、第一王子を陰から守る代償としてアドリアーヌを王太子妃に据えることで恭順の意を表していたに過ぎない。
だが、国政が乱れたことによりいかにミスカルド家の力が偉大であるかを示し、王妃への牽制をするとともに、第一王子擁立で王家への反旗を翻した形となる。
(まぁ……それだけウチの家は実は無駄に権力があるからなぁ……)
「ここで焦ったのはラスター家と第二王子の恋人であったアンジェリカ嬢、あなたですよ。ルベール殿下の婚約者になれば王妃の座も手に入れられるのに、第一王子が王位を継ぐことでほぼ決定となってしまった」
「なんだって……兄上が王位を?」
「おや、王太子殿下はそれをご存じない?そうですよね。アンジェリカにうつつを抜かし、貴族たちがどのようにあなたを見ているのかも知らなかった。そもそもアドリアーヌを手放したことで政治バランスが崩れた事にも気づかないとは。それに……貴族たちの心がルベール殿から離れた要因はアンジェリカ嬢にもある」
「わ……私?」
「あなたはアドリアーヌの跡を継いで王太子教育を受けたがほとんどの授業をすっぽかしていたそうだね」
「すっぽかすなんて人聞きが悪いわ。ルベール様が休んでいいとおっしゃったわ。君の自由に生き生きと生きる姿が好きだから無理に王太子教育を受けなくてもいいって!アドリアーヌみたいな堅苦しくてつまらない女になる必要はないって!」
「そうだ!俺が許可したんだ!」
「その結果、彼女は王太子妃としては相応しくないと判断され、それを容認しているルベール王太子殿下の評判も下がったんですよ」
一度は嫁ぐことを決めていたルベールからの言いようにアドリアーヌは若干傷ついたが、それよりもこのような事態を考えなかったルベールに対する呆れの方が強かった。
(だから、何度も一人の貴族への肩入れは良くないって忠告したのよ!)
「話を戻そうか。第一王子が王位を継ぐことになった時点でアンジェリカ嬢は焦った。王妃の座を貰えると思ったのにその計画が泡となってしまった。そこにメルナードからの使者としてロベルトを使者として送らせてもらった。美しいと評判のグランディアス国第二王子殿下の恋人と一目お会いしたいと……」
「あれは……罠だったのね……」
アンジェリカは力なくぽつりと呟くように言った。
「まぁそう言うことになりますね。俺にはその当時王太子妃となる婚約者はいなかった。だからこれ幸いと私にこの手紙を送ってきた。〝あなたのためなら祖国を裏切ってもいい。あなたのそばにいたい〟という熱烈なラブレターをね」
クローディスの言葉に追い打ちをかける様にロベルトも言葉を続けた。
「あぁ、でももう一つ付け加えると僕は誘ってきたのは彼女だよ。少し甘い言葉を紡いだらルベール王太子を本当は愛していないのだと滔々と述べてくれたね」
「君は……俺を愛してなかった?欲しかったのは王妃という立場だったのか!?」
アンジェリカの肩を揺すってそう詰め寄るルベールだったが、その手を振り払ってアンジェリカは叫んだ。
「私は!悪くないわ!皆他の貴族が悪いのよ。この女より私の方が可愛いのに、身分が高いだけでこの女が王太子妃になるなんて!」
そんな暴言を吐くアンジェリカに対し、クローディスは冷ややかな口調で言った。
「だが、あなたは身をもって知ったのではないか?身分だけでは王太子候補にはなれないのだと」
「だって、王妃教育があんなに辛いと思わなかったし……私より高慢ちきなアドリアーヌなんかより私の方が相応しいでしょ?ルベール様だってそう思わない?私を学園で虐めていてた女がルベール様の婚約者だなんて!」
「そうだ……アンジェリカはアドリアーヌに虐められていて……そんな女よりアンジェリカの方が俺の恋人にふさわしいと誰もが思うだろう!?」
「そのことだけど」
それでもアンジェリカを庇う様に……いや縋り付くようにルベールはアンジェリカを抱きしめて反論した。
「僕が調べたところ、お姫様がアンジェリカ嬢を虐めた証拠はないし、その証言もなかったよ」
「どういう……ことだ?」
その言葉にクローディスはルベールが理解できるように敢えてゆっくりと話した。
「まずアドリアーヌは再三アンジェリカ嬢に貴族らしからぬ行動を改めるべきだと言った」
アンジェリカの学園での行動は前述のとおりである。
が、そんなことをルベールは信じないだろう。
「そんなはずはない!俺は確かに聞いた」
「それはルベール殿下のとりまきにですよね?」
「!」
「彼も、彼女たちも皆謝罪の言葉を口にしていましたよ。自分たちの嘘の証言でアドリアーヌが国外追放されるとは思わなかったと。ちなみに嘘の証言を依頼したのはアンジェリカ嬢だったと。金品を渡されたということですよ」
「そんな……」
「あー、なんなら証言を取った方々の名前を挙げてもいいんですけどね」
ロベルトは証言と思われる書類を、ばさりとルベールへ投げ捨てた。
「そんな……そんな……俺は……全部……騙されていたのか?」
ルベールの悲壮な目がアンジェリカを捉える。
「……だ……ダンピエール伯爵!何とかしなさいよ!貴方が私にこの国での地位を約束するといったからお父様も私もあなたの提案に乗ったのよ!責任を取りなさい!」
「うるさい!私とてもう破滅なんだ!お前のことなど知らん!」
「そんな……!!」
このアンジェリカの発言はラスター家とダンピエール伯爵の癒着を決定的なものとした。
そしてアンジェリカは狂ったように叫んだ。
「ああああああ!私はただ裕福な暮らしがしたかったのに!皆私を可愛いと言ってくれたのに!どうしてこうなったの!?」
アンジェリカはその場に崩れ落ちて泣き叫んだ。
それを静かに聴衆が見守る。
クローディスは再びトリテオウス王に向き直り言った。
「よって、グランディアス王国のアンジェリカ嬢および伯爵家の関与を示し、この者たちへの求刑を願う。……ルベール王太子殿下も、そちらの国の対応をお願いしたい」
「くそっ!俺が騙されていただと?どうしてこうなった?俺が何をしたというんだ?王位も失い……アンジェリカも失い……俺は……」
下を向いてはいるものの、歯ぎしりするほどの形相をしながらルベールはぐっと力を込めて拳を握っている。
そんなルベールにクローディスは言い放った。
「あなたは最大のミスを犯した。アドリアーヌを手放したことだ」
「くそっ、い、今からなら遅くない。アドリアーヌ、今なら許してやる。戻ってきて俺を王位にするようにミスカルド家に言うんだ!」
余りに勝手な言い分に、とうとうアドリアーヌはキレた。
「はぁあああああ!?何言っているのかさっぱりわからないんですけど!こまで裏切られたのにどうしてあんたの言うことを聞かなくちゃならないんですかぁ!?」
そのアドリアーヌの態度にルベールはぽかんとした表情を浮かべてアドリアーヌを見た。
それを鼻で笑ったのち、クローディスはアドリアーヌを抱き寄せて頬にキスをする。
「残念ながらそれはこちらからお断りしよう。彼女は私の妃候補だ。俺も誰にも譲る気はない」
(え?っと……なんかサラッと重要なことを言われようなする気が……)
戸惑いつつもクローディスを見上げると先の言葉を促される。
(この状況では話に乗るしかない!)
「そ、そうよ!おあいにく様!私はクローディス殿下の妃候補ですから!」
「ということで、聖女との婚約はない。聖女アイリスもこの場を設けるために仮初の婚約を計画したものだ!そうだな」
クローディスの言葉にアイリスも大きく頷いた。
「はい!私はお姉さまの身の潔白を証明するために目的で婚約発表という場を提供しました。そもそも私は聖女。王家のことは遠くから見守りたいと思います」
「と言うことで、今日は密売を暴き、この国を戦火に巻き込まないように救ったアドリアーヌと俺との婚約の場となった!」
トリテウス王も怒涛の展開についていけないようではあったが、一つ頷くと、観衆から一斉に歓声が起こった。
拍手が起こり、祝いの言葉が次々と起こった。
「えっ?そんな計画は聞いてません!抜け駆けなんてさせません!」
「おやおや……クローディス殿下は僕を敵に回したいのでしょうかね」
「それはないよ……僕も海外で頑張ったのに最後美味しいとこどり?」
「……殿下。いくら殿下でも許せることと許せないことがあります」
一部の人間の恨み言は聴衆の喧騒にかき消されアドリアーヌの耳には届かなかった。
届いたとしてもアドリアーヌもめまぐるしい展開に脳がついていかなかったのだが、とりあえずこうしてアドリアーヌの断罪裁判は大どんでん返しの末に終結したのだった。
「使者?」
「あぁ、この者がクローディス殿下の夜会の招待状を届けてくれた使者だが……」
そんな二人を見ながらロベルトはいつもの王子様スマイルを浮かべた。
ある意味白々しい演技でもある。
ロベルトは一歩アンジェリカに近づく。
「やぁ、お花さん。またお会いできて光栄だよ」
「どうして……ここに……?」
「どういうことだ?確かにこの間俺の主催で歓迎の夜会を開いたが……君も会ったのか?」
「い……いえ……」
戸惑うアンジェリカの不自然な様子にルベールも戸惑いの表情を浮かべている。
「……アンジェリカ、どういうことだ?」
言葉に詰まっているアンジェリカを見ながらロベルトはもう一歩近づくと、アンジェリカは反射的に一歩後ずさる。
それをただ事ではないと感じたルベールはアンジェリカとロベルトの元に割って入り、庇う様に立った。
「君、どういうつもりだ!アンジェリカを怖がらせているじゃないか!」
「僕は僕の恋人を迎えに来ただけだよ」
「恋人だと?」
ルベールの眉がピクリと上がった。
「〝あぁー愛しい人。どうしてあなたは私を置いてメイナードなどに帰ってしまうの?〟」
そう言いながらロベルトは一枚のカードを懐から取り出した。
「せっかくの情熱的な君の言葉を皆にも教えてあげたいな。続きを読んであげよう。『ロベルト、私はあなたを心の底から愛してしまった。でも許して。私がメルナードに行くにはクローディス殿下にお会いしなくては。あの月夜のことは私も忘れていないわ。心変わりなんて絶対にしないからクローディス殿下にお会いさせて頂戴。愛する私の王子様へ アンジェリカより』」
ゆっくりと歩きながら意味ありげにロベルトはアンジェリカに視線を送る。
それを遮るようにアンジェリカの声が響いた。
「止めて!」
「愛……だと?嘘だ……アンジェリカは俺の恋人だ!そんなはずはない!」
「じゃあ、その首筋の跡はどう説明するわけかな?」
「跡?」
その瞬間アンジェリカは首筋に手をやった。
「ほら、そのチョーカーを外せば動かぬ証拠になるかな?僕が外す?それとも元カレのルベール殿下に外してもらった方がいいかな?」
ルベールはその言葉に弾かれるようにアンジェリカのチョーカーを乱暴に外した。
アンジェリカは短い言葉を発してそれを止めようとしたが、時はすでに遅く、その首筋にくっきりと残された口づけの後があらわになった。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!アンジェリカはそんな女ではない!」
「では、これはどうかな?」
そう言ってクローディスもまたカードを取り出した。
「先ほど証言を得たようにこの家紋はラスター家のものだと先ほど証言を得たな。これも読み上げようか?アンジェリカ嬢」
正直に言おう。
アドリアーヌはラスター家を叩くとは聞いていたが、事の顛末がどうなっているのかは分からない。
要は何が起こっているのか、アドリアーヌ自体も状況が飲み込めないでいた。
(えっと……ロベルトがアンジェリカに何か罠を仕掛けているのよね?多分ルベール様を裏切らせるとかそういう類だろうけど……クローディス殿下とアンジェリカがどういう繋がりになるわけ?)
だが当のアンジェリカは何らかの罪が暴かれることの恐怖からか青ざめたまま呼吸を荒くしていた。
ちんぷんかんぷんといった表情のアドリアーヌに向かって、そして同時にルベールにもクリーディスは笑いながら説明交じりに言ってくれた。
「ムルム伯爵の力を借りて、少し調べたことがある。アドリアーヌが国外追放になってからのグランディアス国の内情だ。グランディアス王国の筆頭貴族でもあるミスカルド家はアドリアーヌが国外追放になったことを受け、責任を取る形で第二王子ルベール殿下から距離を置いて領地に引きこもった」
アドリアーヌも国外追放された段階では家に見放されてこの地に追いやられたが、実家のミスカルド家がどうなったかは少なからず心配であった。
(まぁ、あの両親のことだから……ダメージなんて受けてなさそうだけどね)
アドリアーヌの予想は当たった。
「まず筆頭貴族で公爵家のミスカルド家が政治を離れたことで正直国政が回らなくなった。その上で第二王子支持を取りやめ、第一王子支持層へと近づいた」
ある意味で愛娘を国外追放した国王と第二王子に対する復讐といったところだろう。
第一王子は聡明ではあるが側室の子でもある。
しかも本妻のグランディア王妃が彼の命を狙っていたのだ。
ただ、ミスカルド家は第一王子の母親の遠縁であり、王妃から睨まれるのを避けるためと、第一王子を陰から守る代償としてアドリアーヌを王太子妃に据えることで恭順の意を表していたに過ぎない。
だが、国政が乱れたことによりいかにミスカルド家の力が偉大であるかを示し、王妃への牽制をするとともに、第一王子擁立で王家への反旗を翻した形となる。
(まぁ……それだけウチの家は実は無駄に権力があるからなぁ……)
「ここで焦ったのはラスター家と第二王子の恋人であったアンジェリカ嬢、あなたですよ。ルベール殿下の婚約者になれば王妃の座も手に入れられるのに、第一王子が王位を継ぐことでほぼ決定となってしまった」
「なんだって……兄上が王位を?」
「おや、王太子殿下はそれをご存じない?そうですよね。アンジェリカにうつつを抜かし、貴族たちがどのようにあなたを見ているのかも知らなかった。そもそもアドリアーヌを手放したことで政治バランスが崩れた事にも気づかないとは。それに……貴族たちの心がルベール殿から離れた要因はアンジェリカ嬢にもある」
「わ……私?」
「あなたはアドリアーヌの跡を継いで王太子教育を受けたがほとんどの授業をすっぽかしていたそうだね」
「すっぽかすなんて人聞きが悪いわ。ルベール様が休んでいいとおっしゃったわ。君の自由に生き生きと生きる姿が好きだから無理に王太子教育を受けなくてもいいって!アドリアーヌみたいな堅苦しくてつまらない女になる必要はないって!」
「そうだ!俺が許可したんだ!」
「その結果、彼女は王太子妃としては相応しくないと判断され、それを容認しているルベール王太子殿下の評判も下がったんですよ」
一度は嫁ぐことを決めていたルベールからの言いようにアドリアーヌは若干傷ついたが、それよりもこのような事態を考えなかったルベールに対する呆れの方が強かった。
(だから、何度も一人の貴族への肩入れは良くないって忠告したのよ!)
「話を戻そうか。第一王子が王位を継ぐことになった時点でアンジェリカ嬢は焦った。王妃の座を貰えると思ったのにその計画が泡となってしまった。そこにメルナードからの使者としてロベルトを使者として送らせてもらった。美しいと評判のグランディアス国第二王子殿下の恋人と一目お会いしたいと……」
「あれは……罠だったのね……」
アンジェリカは力なくぽつりと呟くように言った。
「まぁそう言うことになりますね。俺にはその当時王太子妃となる婚約者はいなかった。だからこれ幸いと私にこの手紙を送ってきた。〝あなたのためなら祖国を裏切ってもいい。あなたのそばにいたい〟という熱烈なラブレターをね」
クローディスの言葉に追い打ちをかける様にロベルトも言葉を続けた。
「あぁ、でももう一つ付け加えると僕は誘ってきたのは彼女だよ。少し甘い言葉を紡いだらルベール王太子を本当は愛していないのだと滔々と述べてくれたね」
「君は……俺を愛してなかった?欲しかったのは王妃という立場だったのか!?」
アンジェリカの肩を揺すってそう詰め寄るルベールだったが、その手を振り払ってアンジェリカは叫んだ。
「私は!悪くないわ!皆他の貴族が悪いのよ。この女より私の方が可愛いのに、身分が高いだけでこの女が王太子妃になるなんて!」
そんな暴言を吐くアンジェリカに対し、クローディスは冷ややかな口調で言った。
「だが、あなたは身をもって知ったのではないか?身分だけでは王太子候補にはなれないのだと」
「だって、王妃教育があんなに辛いと思わなかったし……私より高慢ちきなアドリアーヌなんかより私の方が相応しいでしょ?ルベール様だってそう思わない?私を学園で虐めていてた女がルベール様の婚約者だなんて!」
「そうだ……アンジェリカはアドリアーヌに虐められていて……そんな女よりアンジェリカの方が俺の恋人にふさわしいと誰もが思うだろう!?」
「そのことだけど」
それでもアンジェリカを庇う様に……いや縋り付くようにルベールはアンジェリカを抱きしめて反論した。
「僕が調べたところ、お姫様がアンジェリカ嬢を虐めた証拠はないし、その証言もなかったよ」
「どういう……ことだ?」
その言葉にクローディスはルベールが理解できるように敢えてゆっくりと話した。
「まずアドリアーヌは再三アンジェリカ嬢に貴族らしからぬ行動を改めるべきだと言った」
アンジェリカの学園での行動は前述のとおりである。
が、そんなことをルベールは信じないだろう。
「そんなはずはない!俺は確かに聞いた」
「それはルベール殿下のとりまきにですよね?」
「!」
「彼も、彼女たちも皆謝罪の言葉を口にしていましたよ。自分たちの嘘の証言でアドリアーヌが国外追放されるとは思わなかったと。ちなみに嘘の証言を依頼したのはアンジェリカ嬢だったと。金品を渡されたということですよ」
「そんな……」
「あー、なんなら証言を取った方々の名前を挙げてもいいんですけどね」
ロベルトは証言と思われる書類を、ばさりとルベールへ投げ捨てた。
「そんな……そんな……俺は……全部……騙されていたのか?」
ルベールの悲壮な目がアンジェリカを捉える。
「……だ……ダンピエール伯爵!何とかしなさいよ!貴方が私にこの国での地位を約束するといったからお父様も私もあなたの提案に乗ったのよ!責任を取りなさい!」
「うるさい!私とてもう破滅なんだ!お前のことなど知らん!」
「そんな……!!」
このアンジェリカの発言はラスター家とダンピエール伯爵の癒着を決定的なものとした。
そしてアンジェリカは狂ったように叫んだ。
「ああああああ!私はただ裕福な暮らしがしたかったのに!皆私を可愛いと言ってくれたのに!どうしてこうなったの!?」
アンジェリカはその場に崩れ落ちて泣き叫んだ。
それを静かに聴衆が見守る。
クローディスは再びトリテオウス王に向き直り言った。
「よって、グランディアス王国のアンジェリカ嬢および伯爵家の関与を示し、この者たちへの求刑を願う。……ルベール王太子殿下も、そちらの国の対応をお願いしたい」
「くそっ!俺が騙されていただと?どうしてこうなった?俺が何をしたというんだ?王位も失い……アンジェリカも失い……俺は……」
下を向いてはいるものの、歯ぎしりするほどの形相をしながらルベールはぐっと力を込めて拳を握っている。
そんなルベールにクローディスは言い放った。
「あなたは最大のミスを犯した。アドリアーヌを手放したことだ」
「くそっ、い、今からなら遅くない。アドリアーヌ、今なら許してやる。戻ってきて俺を王位にするようにミスカルド家に言うんだ!」
余りに勝手な言い分に、とうとうアドリアーヌはキレた。
「はぁあああああ!?何言っているのかさっぱりわからないんですけど!こまで裏切られたのにどうしてあんたの言うことを聞かなくちゃならないんですかぁ!?」
そのアドリアーヌの態度にルベールはぽかんとした表情を浮かべてアドリアーヌを見た。
それを鼻で笑ったのち、クローディスはアドリアーヌを抱き寄せて頬にキスをする。
「残念ながらそれはこちらからお断りしよう。彼女は私の妃候補だ。俺も誰にも譲る気はない」
(え?っと……なんかサラッと重要なことを言われようなする気が……)
戸惑いつつもクローディスを見上げると先の言葉を促される。
(この状況では話に乗るしかない!)
「そ、そうよ!おあいにく様!私はクローディス殿下の妃候補ですから!」
「ということで、聖女との婚約はない。聖女アイリスもこの場を設けるために仮初の婚約を計画したものだ!そうだな」
クローディスの言葉にアイリスも大きく頷いた。
「はい!私はお姉さまの身の潔白を証明するために目的で婚約発表という場を提供しました。そもそも私は聖女。王家のことは遠くから見守りたいと思います」
「と言うことで、今日は密売を暴き、この国を戦火に巻き込まないように救ったアドリアーヌと俺との婚約の場となった!」
トリテウス王も怒涛の展開についていけないようではあったが、一つ頷くと、観衆から一斉に歓声が起こった。
拍手が起こり、祝いの言葉が次々と起こった。
「えっ?そんな計画は聞いてません!抜け駆けなんてさせません!」
「おやおや……クローディス殿下は僕を敵に回したいのでしょうかね」
「それはないよ……僕も海外で頑張ったのに最後美味しいとこどり?」
「……殿下。いくら殿下でも許せることと許せないことがあります」
一部の人間の恨み言は聴衆の喧騒にかき消されアドリアーヌの耳には届かなかった。
届いたとしてもアドリアーヌもめまぐるしい展開に脳がついていかなかったのだが、とりあえずこうしてアドリアーヌの断罪裁判は大どんでん返しの末に終結したのだった。
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