シリウスの本音を君に

くろのあずさ

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 そこで俺の頭の中で間山孝太から百合への想いを告白されたときの記憶が自動再生される。

 あれはたしか中学の頃、ちょうどこれくらいの季節だったか、春休みに入ってすぐだった。

 突然、間山孝太から百合に連絡が入ったのだ。その内容は『一緒に星座を見よう』というもの。

 当時の理科の授業内容が天文分野だったのもあり、教師が『今の時期なら夕方に冬の大三角を形成しているおおいぬ座のシリウスが肉眼でも十分に綺麗に見える』とかそういう発言をしたのが発端だ。

 馬鹿正直に捉えた間山孝太は、一緒に観ようと百合を誘ってきたのだ。そんなもんひとりで勝手に見ればいいだろ。

 しかし百合が嬉しそうにその話をして俺も誘ってきたものだから、俺は渋々一緒に行くことになった。

 正直、星に興味なんて微塵もなかったし、授業なんかもどうでもいい。でも百合があいつとふたりになるのは、それはそれで複雑で、俺は邪魔してやるくらい気持ちでついていった。

 待ち合わせは定番の矢野公園で、百合の他に現れた俺の姿を見ても間山孝太は嫌な顔ひとつしなかった。

 百合から聞いていたのかもしれないが、俺が逆の立場なら、間違いなくあからさまに落胆と拒否の意を示したと思う。

 なのに、間山孝太は『賑やかになっていいな。せっかくだし一緒に観ようぜ』と爽やかな笑顔を向けてきた。

 あいつのそういう余裕綽々なところも気に入らなかった。

 ライバルだと意識しているのは俺だけみたいで、悔しかった。その一方で、もしかすると間山孝太は別に百合のことを異性として意識しているわけではないのかとも思えた。

 単なる幼馴染み。っても、間山孝太は小学校低学年の頃にこの近くに引っ越してきて、百合と出会ったときの年齢を考えれば、そこまで幼い頃から知っているわけでもない。

 むしろ百合との付き合いなら俺の方が断然、長い。っても、競うところはそこじゃない。

 癪だが間山孝太は同年代と比較すればそれなりに背も高く、顔もある程度いい部類に入る、と思う。

 その証拠に異性にもそこそこモテているようだった。

 幼い頃から空手を習っていたのもあり、姿勢もよく普段は頼りなさそうな雰囲気なのに、いざというときは真剣な眼差しで真面目に物事に取り組む。

 リーダーシップや仲間を気遣う優しさも併せ持っていて、友達も多い。俺も一緒によく遊んだから知っている。

 まじまじと間山孝太を見つめ、冷静に分析している自分が嫌になる。

『で、どこで星を見ようか?』

 百合の言葉に意識を戻す。太陽は山の向こうに姿を消し、空は徐々に薄紫色に染まってきていた。

 間山孝太は百合の問いかけに上を見上げてきょろきょろと首を動かした。

『ここでも見えるだろうけど、もう少し高いところがいいかもな』

『あ、じゃぁ、つくし山に登ろうか』

 つくし山は矢野公園から道路ひとつ挟んで裏手にある小さな山のことだ。山といっても、高さもそれほどなく一応、階段も整備されているので、子どもでも登れる。

 幼稚園での遠足先としても使われるほどだ。上に展望スペースもあるので、そこを目指す。

 間山孝太、俺、百合の並びで一段ずつ階段を登っていく。薄暗くなってきたし、足元もそこまでよくないので百合を心配してちらちらと後ろを振り返る。

 そんな俺の心配をよそに、百合の顔には嬉しさと期待が入り混じっていた。それを見て、俺にとってもここは来慣れている場所なのに、どうしてか少し緊張した。

 不安というより柄にもなくワクワクしてしまう自分がいたんだ。

 間山孝太も『転ぶなよ』と俺たち、もとい百合に声をかけて前へと進んでいく。

 そんなに時間は経っていないのに展望スペースにつく頃には空の色は一段と白んでいた。

 暗くなる前の一瞬の明るさ。それはまるで朝焼けにも似た景色だ。

 さてお目当ての星でも眺めようと上を見上げれば、百合が少し席をはずす旨を伝えてきた。

 どうやら折り返しの電話らしい。電話を取り、慌てて端の方へと駆けて行った。百合の後ろ姿を確認し、俺は目線を上にしようとした。

 そのとき、なにを思ったのか間山孝太がわざわざ俺の隣に座って来たのだ。たしかにここは段差になっていて腰を下ろせるが、他にもベンチや座れる場所は設けられている。

 どうして、あえての俺の隣なのか。距離もどう考えたって近い。

 何度も言うが、俺は間山孝太のことが嫌いだったし、同じ空間に一緒にいるのさえ嫌だった。

 幼い頃は百合も一緒に遊んだりもしたが、今日だって百合がいるから来ただけで、こいつとふたりにならないですむならなりたくない。

 なにかをされたとかそういう話ではなくて、初めて会ったときからどうも間山孝太は気に食わなかった。

 それは男の直感とでも言うのか、近い未来に百合への想いでぶつかり合うとどこかで直感していたからなのかもしれない。

『俺さ、百合が好きなんだ』

 だから、こうして唐突に間山孝太が百合への想いを告げてきたとき、俺は驚きはしなかった。

 ただ、どうして俺に言うのか理解に苦しむ。わざわざ間山孝太が俺とふたりのときを狙って言ってきたのなら、宣戦布告かもしれない。

 しかし身構えたわりに間山孝太の言い方には闘志などはなく、むしろ顔に笑みさえ浮かべてこちらを見てくるので、俺は逆に毒気を抜かれた。

 それは俺じゃなくて本人に言えよ。そしてさっさとフラれてしまえ。

 すかさず返しそうになり、慌てて口をつぐむ。いや、待て。もしもこいつが百合に気持ちを伝えて、上手くいったらどうするんだ? 俺と百合は今までと同じようにいられるのか?
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